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終わりに

規制緩和が進まない理由は多々ある。その中でも特記すべきは「規制の全体像 を捉えることの難しさ」であろう。規制によって保護を受けている団体と政・ 官との癒着や、多くの規制が行政指導などの形で行われていてその実態が不透 明であること、また行政における情報公開制度が確立していないことなどによ り、本来国民に対してガラス張りでなければならない種々の規制事項がフィル ターを掛けられ、見えにくくなっているのだ。「規制緩和」というテーマを理 解し、またそれを推進していく立場であろうとする者が、規制自体の存在意義、 役割をきちんと認識していなければ、規制緩和といくら唱えても何のための規 制緩和なのかが分からなくなってしまうだろう。

では、「規制」とは何 なのだろうか。我々が調べた酒類規制においても、「規制」という単語の中に は様々な要素が含まれていた。我々が列挙した「税制」「ニュービジネス」 「社会規範」という3つの例は、酒類規制を行政、企業、消費者という3方向 からのアプローチであり、現存する規制が様々な側面を持つことを実感させる 好事例であった。論をより普遍化するために、ここでは規制の有・無という二 極を用いることにする。

まず、規制が存在する場合、要するに現状を分 析したい。以下は、規制緩和反対論者の常套句と評しても過言ではないことだ が、規制があることである程度の社会的秩序が保たれている実状がある。経済 的視点から見た場合、規制がある場合は政府によって特定の産業が保護されリ スクを避け得ることによって、国全体の経済が発展する期待を寄せる場合もあ る。次に規制がない社会を想定すると、規制がなくても「人間の思慮分別」が 社会へ自然と抑制を加えることで秩序が保つ可能性を示唆できる。また規制と いう枠がないことにより、様々な産業が勃興・競争し、消費者のニーズに適し た産業が生き残っていくという、自由競争市場の原理の上においても消費者に とっても望ましい環境が実現できるだろう。

このように対極にある二面 を分析・想定していくと、「規制」が両刃の剣である事実が浮かび上がる。確 かに、どんな規制でも理由なしに作られたものはない。始めはすべて何らかの 目的があって生まれてきたのである。ただその中で、現代の社会情勢に合わな いものも数多くある。両刃の剣となる原因を排出しているそれらの規制を見直 し、現代の社会のシステムに合ったものにしていこうというのが、我々の理想 とする「規制緩和」なのである。無論、規制が緩和されたところで全てがうま くいくとは限らない。冷静に現代の社会システム、すなわち現状を凝視すれば、 もっと強化しなければならない規制、規制によって痛みを受ける人々の存在に 気付かずにいられない。しかし、この痛みこそがう回できないポイントである ことは周知の事実である。要所々々に潜む既得権の影を拭い去る際に伴う抵抗 は、周知の事実でありながら不問に付されてきた既得権の持つ歴史を振り返れ ば想像に難くないであろう。しかし、その強力な抵抗を打破してこそ我々の理 想とする世界が開かれるのではないだろうか。

そのためには様々な改革 が必要であろうが、その中で私たちがこのグループワークをして特に感じたこ とに消費者の意識を高める必要性ということがあげられる。これは他の班が研 究してきた情報公開にも関係してくることであるが、企業と行政の既得権益の 絡む中で、権益についての第三者であり一番の被害を被る消費者が正確な情報 を得て世論を盛り上げていくことにより得られる政治・経済への影響力がいか に大きいかというのはあえてここで述べるまでもないであろう。問題はいかに してその意識を高めていくかということである。それには行政側が消費者に現 状を正確に広く伝えていくことも必要であるし、消費者及び企業がともに利益 を得るような規制緩和においては、企業が活発に消費者に呼びかけていくこと も必要である。そして更に消費者の中でも問題意識を持った人々が更に多くの 賛同を得るために、規制によって損害を受けていることに気がついていない消 費者に呼びかけ、怒りを奮い立たせること、それこそが足踏みをしているだけ の規制緩和を押し進めるのに必要な力ではないだろうか。そしてこの問題意識 を持った消費者の一員として、私たちはこの報告書をインターネットに載せる ことにした。稚拙なものではあるが、これによって少しでも多くの人々の問題 意識の喚起につながれば幸いである。



Atsushi Kusano
Thu May 8 15:35:48 JST 1997