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原子力発電の専門家を訪ねて

我々は自分たちで科学技術庁や通産省を訪れて資料を集めてみたものの、その 資料から青森県六ヶ所村の核再処理施設の耐震性が十分かどうかを判断するこ とはできなかった。しかし上述の通りこれは、我々に原発や耐震性についての 知識が皆無であったことが非常に大きな原因としてあげられる。そこで原子力 の専門家であるならば、公開されている資料によって原子力発電所の安全性が 確認できるかどうか知りたいと考え、専門家の方のお話をうかがうことにした。 今回訪れたところは原子力資料情報室といって、高木仁三郎氏を代表に長年日 本政府の原子力政策に対していろいろ提言してきた団体だ。今回はその原子力 資料情報室の事務所で情報室の職員の方にお話をうかがうことができた。まず 我々はこれまでに自分たちが行ってきた活動の経過を説明した上で、専門家と して原子力、そして原子力における情報公開の現在の状況についてお話しをき いた。 

まずお話しいただいたのがあかつき丸によるプルトニュウム輸送の時のことだ。 プルトニュウムはフランスから容器に詰められて日本まで輸送されてくる。し かしその容器が果たして安全なものなのかということを知るため、原子力資料 情報室ではプルトニュウムの容器の材質や、耐熱性などについての情報の公開 を求めた。そして数カ月後に国のほうから出されたのが「核燃料輸送物設計変 更承認申請書」であった。私たちもこの資料を原子力資料情報室の方に見せて いただいたが、文章の多くが白抜きにされていて、情報を公開しているとは到 底言い難いものだ。国側の説明としては核ジャックなどの恐れがあるから公開 しないというが、果たしてこのような容器の材質などを公開することが核ジャッ クに結びつくのだろうか。この白抜きにされた資料は大変大きなショックを我々 に与えた。

後日、我々も全く同じ資料の公開を請求し、どのような結果になるか試してみ ることにした。数日後、科学技術庁を訪れて全く同じ名前の文書の公開を求め た。すると、こちらの身分や何のためにその文書がほしいのかなどといった質 問を数多く受けた後、「もしその文書がほしいのならば公開できない箇所を再 び白抜きにするなどといった作業があるので公開には三ヶ月くらいかかる」と 言われた。しかしすでに一度ほかで公開したことのある文書を再び処理すると いう非効率的な作業を実際にするのかという疑問は残る。国は申請された文書 の中身を実際に見て、その安全性を審査して承認している。しかしこのような 情報公開の現状では国民側がその安全性を判断したいと思ってもその方法がな い。危険であるから公開できないものがあるというのは確かに一理ある。しか しそれが隠れ蓑として利用されていることも考えられる。安全というからには 実際にその根拠となるものを示すべきだと原子力資料情報室の方はおっしゃっ ていたが我々もそのことには同感だった。

次に今年起きた青森県知事によるパシフィックピンテール号の入港拒否の問題 についてのお話をうかがった。今まではフランスから帰ってくる日本の核廃棄 物についての情報の公開を求めても、日本政府はフランスの企業であるCOGEMA の企業秘密の問題に関わるとして情報の公開を拒否してきた。しかしニュース などでも大きく報じられたように、青森県知事が青森を最終処分地にしないと いう確約を得るまで核廃棄物の入港を拒否するという事態が起きた。そして県 知事が核廃棄物に関する資料を請求するという行動をとってようやく資料の一 部が公開され、この資料公開と翌日の青森を最終処分地にしないという確約を 得て青森に核廃棄物は運び込まれた。

しかし実際にはその資料を見ても不明な点は数多く残った。例えば返却される 28本のガラス固化体には製造期日が記されているものの、それは1992年 の後半にガラスに詰められたと記されているだけで、正確に何月に詰められた のかはわからなかった。また日本政府は当初は日本の原子炉の廃棄物が再処理 されて帰ってくると説明していた。しかしCOGEMAで再処理されるときには連続 行程の中で行われているので、実際はどこの国の廃棄物が再処理されて帰って くるのかは分からないと言うことを外部から指摘されて、初めて日本政府はそ の事実を認めた。つまり日本の出した廃棄物がそのまま再処理されて帰ってく ると言うより、どこの国のものかは分からないが再処理された廃棄物が出され たごみの量に比例して返されていたのだ。他国の廃棄物が再処理されて帰って くるのだが、その廃棄物の質や放射能レベルが日本の廃棄物と大きく異なるこ ともあり得る。もし日本から出された廃棄物がそのまま処理されて返却されて くるのならその廃棄物に関するデータもある。しかし他国のものとなるとその データも不足し、将来的にその廃棄物の安全性が確認できないだろう。廃棄物 の最終的な処分方法が未だに決まっておらず、とりあえず再処理されたものを 保管するしかない現状において、安全性に確証がもてないというのは大変不安 を抱かせることだ。

次に情報公開の現状についてお話をうかがった。我々はこれまで官庁に情報の 公開を求めるということをしたことはなく、今回初めて、原子力に関して数回 行っただけだった。しかしこの原子力資料情報室などの団体は、資料の公開を これまでにもしばしば求めてきた。そうした長年の体験から、情報公開という ものについて実際に感じたことをお話いただいた。ほかで聞いたことがあるよ うに、情報の公開の明確な基準が設けられていないので、まだ一定した情報公 開が行われていない。そのため官庁においては、若い役人に頼むよりも、はじ めから課長クラスの役人に情報の公開を求めたほうが、多くの情報が公開され ることがあるという。若い役人にとっては、どこまで公開してよいかという判 断を自分で容易に下すことができないので、どうしても公開しにくいのだろう。 しかし公開の基準がはっきりしていないというのは、公開を求める国民にとっ てはすっきりしない状況だ。

また情報公開に対する役所の態度というのは、他国と比較してみても大きく 異なっている。日本では、国が積極的に情報を公開して、国民の理解と納得を 得ようという姿勢は見られないと言う。例えばアメリカなどでは、ある問題に 関する資料がほしいと思ったときに、キーワードだけも関連する資料を探して きてくれる。しかし、日本においてはその特定の文書名を述べないとその文書 を公開してくれない。しかし国民が情報の公開を求める際にその特定の文書名 が分かる人はどれだけいるだろうか。このような現状では、日本政府が積極的 に情報を公開しようとしているとは言い難い。日本政府は情報を公開して安全 性を立証するのではなく、政府で安全と判断したのだからその言葉を信じてほ しいと言っているようなものだ。政府は核ジャックなどの危険性を理由に情報 公開を積極的に していないが、現在は情報が不必要に隠されているのではないか。もし安全で あったとしても情報を公開しないことによって、国民はなにか危険があるので はないかという不必要な不安も持つようになる。本当に安全であるならば、そ の情報をオープンにすることで国民は安心できる。   これまでの原子力に関する情報公開というのは、政府関係者以外がその安全 性を確認するのに役立つようなものはほとんど公開されてこなかった。安全性 を立証するようなものではなく、ほとんどがこれからの原子力に関する決定さ れた方針の公開というものとなっている。日本では非核三原則を掲げていて、 核を軍事用として使うことはなく、現在は原子力エネルギーとしての平和利用 に限られているとしている。平和利用に徹するなら、その安全性を示すために も情報公開を制限する理由はないのではないだろうか。これから政府は情報公開 を進めていき、原発は安全だという政府自らの主張に国民の同意が得られるよう 努力をするべきだ。



Atsushi Kusano
Thu May 8 15:35:48 JST 1997