人種や民族構成において多様であり、国土の点でも広大なアメリカを統合して
いく人物が大統領であり、政治の中心にある。全国民から選ばれる大統領は連
邦行政府の首長であると同時に国家元首である。また、合衆国三軍の総司令官
でもある。国家元首としての尊厳を維持し、国民道徳の手本となることを要請
されているため、大統領候補者は一般の政治家と異なって、厳しくその人格や
家族、イメージまでが問われるのだ。内政、外交において優れた政治指導力を
発揮し、有能な政治家、行政首長としての力量を示さなければない極めてハー
ドなポストであるといえる。このような大統領を選出の制度を見てみる。
アメリカ合衆国憲法は、次のように大統領に選ばれる資格を規定している。そ れは出生による合衆国国民、35才以上、そして14年以上住民である者でなけれ ばならない、である。
この法的な要因以外にも、従来非公式の資格要件があるといわれてきた。つま
り大統領候補者として黒人、ユダヤ人、アジア人、カトリック教徒、女性、離
婚者、独身者等は不利で好ましくない。二大政党は、このような候補者を積極
的に擁立することを避けようとしてきたが、最近では歴史の進展とともに一つ
づつ次第に取り除かれてきている。
大統領選挙戦の第一戦は、主要の二大政党がそれぞれの党内で立候補した多数 の候補者のなかから、党公認の大統領候補者を指名する過程である。これは夏 開催される全国党大会において過半数の代議員票をしめた者が指名される。代 議員選出には2つの方法があり、一つはコーカス(党員集会)・コンヴェンショ ン(党大会)制度であり、もう一つがプライマリー(予備選挙)制度である。 アイオワなどでのコーカス制度では、地区党員集会、群党大会、連邦下院選挙 区党大会、州党大会の4段階を経て決定される。プライマリーでは、有権者は 自分の支持する候補者に投票し、その得票により州務長官に提出していた代議 員名簿の中から、前もって定められた代議員配分規則に従って代議員が割り当 てられる。その配分は比例方式の州と勝者独占方式の州がある。
以上は二大政党所属者がとる過程であるが、第3党や無所属の立候補者の場合、
この間、本選挙投票用紙に名前を載せるために各州で署名を集める作業を行う。
例えばニューハンプシャー州では3千の署名の提出をしなくてはならなく、50
州で約68万である。また、無所属者は党からの選挙費用も得られない。
アメリカの大統領選挙は、憲法上間接選挙である。各州は上・下院の議員と同
数、つまり各州の人口を反映した数の選挙人を与えられる。有権者は11月の選
挙で党に忠実を誓っている選挙人団に投票し、その選挙人団が12月に投票する。
実際はほとんどの州が短式投票用紙を採用しており、大統領候補者の名前に票
を入れ、結果も11月の時点で明らかになっている。各州で多数の票を得た候補
者が、その州に配分された選挙人票のすべてを獲得するという勝者独占方式が
採られている。この方式では、選挙人数の多い州の比重が大きくなり、適切な
選挙戦略が必要だ。
歴史的な背景を辿って成立した複雑な選挙制度であるが、幾つかの問題点もある。
まず、予備選挙制度は政党組織から候補者指名機能を奪い、候補者の個人選挙 運動を推進する。候補者は各自の選挙委員会を作り、コンサルタントも雇う。 世論調査、コマーシャル製作や、資金調達などの仕事がある。
また、近年ではマス・メディアのキャンペーンにおける役割が大きくなってい る。テレビなどの宣伝、ディベートを通じて各自のイメージが有権者に伝わる。 ジャーナリズムではネガティブ・キャンペーンが取りあげられることが多く、 一時手に負えないほどであったが、今回の選挙においてはそれ程問題にならな かった。
これらの二つの点より、選挙運動には多額の費用がかかることが明らかであろ う。その額は年々増えている。政治活動委員会という企業や組合からなる資金 団体からの献金、政党からの寄付、個人小口献金、自己資金などで調達してお り、違法な取引も実際ある。
もう一つの最近の問題は、投票率が相対的に低く、政治不信が広まっているこ
とである。投票率に関しては、18才以上のものは投票の権利を持つのだが、有
権者登録という比較的面倒な手続をとらなくてはいけない。特に若者や教育の
低い低所得者層では登録している率が低くなっている。
1960年代以降、大統領には共和党、議会には民主党という分割政府の傾向が見
られた。1992年には民主党のクリントンが大統領に選ばれ、1994年の中間選挙の
結果、議会は共和党が制した。党は入れ替わったが、再び行政と立法が対立す
る形になっている。これは、アメリカの民主主義の理念である三権分立の思想、
チェック&バランスが反映されているといえるだろう。