中国は今、世界で最も急な成長を遂げている。中国の経済成長率は、1980年代
に年間平均で9.4%に達し、1990年代にはさらに上昇した。これと算定数字は
異なるが、アメリカ中央情報局(CIA)による1991年の中国の実質国民総生産
(GNP)推定値は7%である。1992年は12.8%、1994年には11.8%に達している
。日本の2005年の国内総生産(GDP)は5兆ドルになると予測されているが、中
国がこのままの調子で続いていくなら、早ければ同じ年に日本を追い抜く可能
性も指摘されている。事実、国際通貨基金(IMF)は、購買力平価を基準にす
れば、中国がすでに世界第3位の経済力に達していると結論づけている。中国
の巨大な人口のゆえに、一人当たりGDPは長期に渡って比較的低いままに推移
しているが、それでも国家全体の富でみれば、潜在的な経済大国である。中国
は経済を急拡大させていき21世紀の初めまでにはアジアで群を抜く経済超大国
の地位を不動のものにするだろうと論じるものもある。
また、中国の経済力は、国内での実績だけで強化されているわけではない。香
港は今年7月に中国に返還されるし、数千万にのぼる華僑はアジアの新興工業
国で巨額の富を支配している。たとえばインドネシア一国だけでも、人口の5
%にすぎない中国系人がこの国の富の75%を支配している。歴史的にみて、海
外の中国系人の祖国に対する忠誠心は異常なほど強いと言える。このことは、
祖国の親戚に送金していることでも明らかで、最近では投資という形で現れて
いる。
このような、潜在的経済大国、中国がいよいよその力を見せ始めた。米中貿易
は1993年に276億5千万ドルに達し、1979年の実に11倍に達している。アメリカ
側の発表によると、1995年の対中赤字は日本に次ぐ388億ドルで、1996年夏、
月額の対中貿易赤字としてははじめて対日赤字を上回った(資料8,10参照)。
まさにこの市場は、アメリカにとって無視できないものとなりつつあるのであ
る。
その中国の当面の発展の重点は、交通、エネルギー、通信など、まさにアメリ
カが得意としている分野である。「米中関係がうまくいけば、両国の経済貿易
協力は人為的な束縛から抜け出て、アメリカの経済界は中国で米中の経済貿易
協力を発展させる歴史的なチャンスに恵まれるであろう。」と李鵬総理が言う
ように、今、アメリカにとって中国という市場は手放すことのできない一大投
資市場となっているのである。現に、アメリカの中国への直接投資導入金額は
年々うなぎ登りで増え続けている(資料9参照)。また、商務長官が率いた大
型産業ミッションが中国を訪れたときには、3日間で50億ドルの商談を成立させ
た。そこには、AT&Tが広東省郵電管理局と共同建設する中国版「情報スー
パーハイウェイ」や電力会社のデンタジー社の発電所事業、キャタピラー社の
ダム建設プロジェクト、そしてマクドネルダグラス社の旅客機受注などが含ま
れている。
そのような中、IBM、AT&T、フォードなど大企業の首脳が人権とMFNの 分離を求めたり、106人の下院議員が対中政策の人権偏重を批判し、無条件で MFN延長を求める書簡をクリントン大統領に送ったりというような動きがでて きた。また、1993年のアメリカ対中輸出は80億ドルを超え、それは15万人のア メリカ国民の雇用を支えているということになる。もし、ここでMFNを更新し なければ15万人の失業者を出すと単純に言うことはできないが、少なくともア メリカ政府に国民から多くの批判が出ることは間違いないだろう。このように、 米中経済の結びつきはアメリカ国内からもMFN更新を求める動きとなり、アメ リカ政府に影響を与えるようになったのである。