創造システム理論の構想 #1

2009.12.23 Wednesday 10:59
井庭 崇



創造はそれそのもので作動的に閉じたひとつの統一体であり、心的システムや社会システムはそれに同期・参加することで創造に関わる。意識やコミュニケーションは、創造的であるためには、この創造のオートポイエーシスをうまく転がしていく必要がある。創造には心理や社会が必要であるが、だからといって、創造を心理や社会に還元できるわけではない。創造の作動の循環性とその閉じは、心的システムの作動の循環性の閉じとは、別のものである。また、それは社会システムの作動の閉じとも別ものである。それゆえ、創造はそれ自体の作動の循環性と閉じによって成り立ち、そこに心的システムや社会システムがカップリングされることで創造活動が実現するということになる。このことが、心理学的還元や社会学的還元をせずに創造について考える、ということにほかならない。

すでに述べたように、《発見》は、三つの選択が総合されなければならないため、本来生じにくいものである。そのため、《発見》が生成・連鎖し続けるためには、それを下支えする“何か”が必要となる。そのような支えのことを、《メディア》――― より厳密に言えば、《発見メディア》――― と呼ぶ。《発見メディア》にはいくつかの種類があるが、まず第一に、数学やパターン・ランゲージ等の言語や、概念・理論などが考えられる。これは、《アイデア》の選択と《関連づけ》の選択が生じやすくする。そして第二に、観察のためのツール(例えば顕微鏡)、シミュレーションやデータ分析のツール(例えばコンピュータ)、そして各種の表現ツールなどがこれにあたる。これは、《アイデア》の《関連づけ》によって《帰結》が得られることを支援する。さらに第三に、《発見》が現行の創造にとって意味・意義があると捉えやすくする象徴性、すなわち、「科学」や「芸術」というような色づけも《メディア》としてはたらく。このような三種類の《メディア》が、それぞれに《発見》の生成の不確実性を克服するために貢献する。かくして、創造そのものをデザインすることはできないが、《発見メディア》をデザインすることで創造を支援する可能性について議論できるようになるのである。

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