Creative Reading:『物書きのたしなみ』(吉行淳之介)

2015.01.05 Monday 22:05
井庭 崇



もっと言えば、一緒に研究をしてきた学生たちが力をつけたころに巣立っていく、というのも同じような感覚だ。なんだ、結局、僕がやっていることは同じようなことなのだな、とこの文章を読んで、はたと気がついた。

そして、学問の潮流、いま生きている時代、ひとつひとつの研究テーマの探究期間、大学の年度、プロジェクトの活動期間、季節、毎週の授業 ――― このような幾重にもなる重層的なリズムのなかで、絶えず自分と周囲が更新されていく、そういう生活・人生を生きているのだなと感じた。


現在、このような仕事・生活をしているのは、20年前は想像もしていなかった。大学院の修士に上がるときにも、修飾するつもりでいたので、博士に進学することも、ましてや大学で研究・教育をすることになることは想定していなかったからである。大学生のころから「学問を究めたい」と考えて勉強をしてきたわけではないのだ。

そのあたりは、本書の「文学を志す」というエッセイに書かれていることと重なる。吉行は次のように始めた。

文学を志すという明確な姿勢を取ったことがあったかどうか思い出してみると、少なくともいわゆる作家になる以前にはなかったようだ。(p.71)


そして、自身の遍歴を語った上で、次のようにまとめている。

いろいろの偶然が重なって、現在作家というものになっている。そして、そのことに、このごろでは宿命のようなものを感じている。これまでは滓が沈殿して自然発生的に作品を書いていた傾向が強かったが、ようやくいくぶん自分の方向というものが分かりかかってきた。作家として死ぬまで書いてゆくほかなさそうだ、という抜きさきならなぬ気持ちもでてきた。ここで、あらためて、文学を志したいとおもう。(p.78)


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