Creative Reading:『小説の自由』(保坂 和志)

2015.01.17 Saturday 00:03
井庭 崇


このことをパターン・ランゲージで考えるとどうなるだろうか。パターン・ランゲージの目的は、そのパターン・ランゲージで記述されているデザイン・実践をすることによって実現できる「質」(名づけ得ぬ質)を生み出すことである。個々のパターンは、そのための手段に過ぎない。なので、パターン・ランゲージを状況における問題に陥らないための解決策(秘訣・ヒント)を単に共有・示唆するためのものだと思っていては、大切なことを見落としているということになる。パターン・ランゲージ(全体)が目指していることは、それらのパターンで示されている解決策たちを実践することによって生成される「質」を実現することである。

そう考えると、個々のパターンの記述を読むということは、その質へと至る道を進んでいくようなものである。つまり、個々のパターンを理解しながら、理想的な状態の質を感じることが重要であるといえる。その意味で、小説同様に、パターン・ランゲージも「答え」を得るために読むのではなく、そのプロセスこそが大切だと言えるのかもしれない。

小説は、・・・その小説の中で特異な思考の組み立ての手順が実現されることであって、それによって、その小説が書かれる前には読者が考えていなかった問いやこの世界に対する不可解さが浮かび上がってくる。それらは【小説を通じて】実現されるのであって、【小説の外から】持ち込んでくるのではない。(p.393)

ある小説が、その小説が書かれる前から社会の中でじゅうぶんに認知されている問題を、社会と同じ視点から書いても、問題の質的転換は起こらず、すでに用意されている問題が強化されたり、固定されたりするだけだ。(p.393)


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