東洋からの貢献、空、ナチュラル・ウィズダム:『ブッダの夢』を読んで

2018.03.31 Saturday 10:30
井庭 崇



この本にこういうふうに複雑系の話が出てくるあたりに、もと映像(映画)クリエイターで、最初は複雑系の研究をしていた僕が、なぜパターン・ランゲージを研究していて、なぜいま仏教と神話に興味があるのか、ということがよくわかる。その意味で、アプローチや軸足は違うけれども、中沢さんはかなり僕の先行探究者であると言える。

この本に出てくる箱庭療法の話も面白いのであるが、僕の関心でいうと、箱庭療法と芸術作品の関係についての質問に対しての河合さんは次の答えが、とても興味深いので取り上げたい。

「芸作作品の場合とほとんど似ています。しかし、芸術家と呼ばれている人は、自分の内的体験が、他の人とつながるということが、どこか念頭にあるでしょうね。自分自身ももちろん、これと同じようなプロセスで癒されているわけだけれども、それが他の人に対しても意味のあるものとして提示できるという才能がなかったら芸術家になれないですね。」(河合, p.120)


この話は、まさに、村上春樹が、小説を書くことは自分の癒しであるとともに、意識の地下に潜って、読者に通ずる水脈まで突き抜けるという話に通じていると思う。

その流れで、箱庭療法では、人生の空虚を分離していくんだという話になり、その箱庭療法で行なっていることを、宗教に重ねて、中沢さんはこのように語っていた。とても面白い。

「ちゃんとした宗教を通過していくというのは、日常の人生の空虚感を抱えて、それを意識して自分の内部から分離できるかにかかっているように思います。」(中沢, p.123)

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