書籍販売市場における隠れた法則性

2008.04.21 Monday 23:51
井庭 崇



image[SystemLayerEmergence-power200.jpg]また、月間のデータでも、どの月もほぼ同じべき乗分布を示しているというのも興味深い。市場で販売されているタイトルは日々入れ替わっており(現在日本で発行される新刊タイトル数は年間7万7千点にのぼる)、そこで購入している人たちも日々入れ替わっているにもかかわらず、べき乗分布という市場レベルの法則性は維持されている。それゆえ、この法則性は、個々の要素には還元することができない市場レベルの「創発的秩序」だといえる。

「べき乗分布」は、実は、都市、社会ネットワーク、価格変動、所得など様々な領域で発見されている。都市人口の規模と順位は、べき乗分布になることが知られている。このことは、1890年以降のアメリカの都市についても、日本の都市についても当てはまる。また、社会ネットワークにおけるノードの次数(そのノードがもつリンク数)と順位の関係にも、べき乗分布があることが知られている。そのほか、所得分布の一部がべき乗になることが知られており、「パレートの法則」と呼ばれている。企業の所得分布もべき乗分布に従うことがわかっており、業種ごとの比較研究などもある。さらに、価格変動の規模と頻度の関係をべき乗分布が見出されている。これらのべき乗分布の生成メカニズムについては、少しずつわかってきてはいるものの、まだまだ解明されていないホットイシューだ。

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