井庭研 新規メンバー募集「創造実践学研究:ナチュラルにクリエイティブに生きる未来へ」
2022.07.12 Tuesday 18:15
井庭 崇
 次に、自分という土の中では、(2) 想像の微生物が、想像力(imagination)を豊かにするものとして働きます。私たちは日々暮らすなかで、いろいろな経験をし、感じます。それらのごく一部は記憶として取り出せるように保存されますが、ほとんどのものは、記憶の奥底に、つまり、「潜在意識」や「無意識」と言われる領域(subconsciousness)に溜まっていきます。そして、それらは小さな断片に解体され、熟成されます。土の中で微生物があらゆるものを分解・発酵させ土に変えていくように、あらゆる経験は分解・発酵され潜在意識の土に取り込まれていきます。そして、そうやって分解・発酵されたものは、将来何かを想像するときの素材・養分になります。
 
 ファンタジー作家のミヒャエル・エンデは、「たいていのものは無意識の深みで、すっかり変形し、変容」すると言い、「そのように変容されたものは、とつぜんファンタジーや、アイディアや、イメージになって、私の前に現れます。言いかえれば、忘れて変容した記憶が多ければ多いだけ人格が豊かになる、ということです」と語っています。心理学者レフ・ヴィゴツキーも、「想像はいつも現実から与えられた素材によって成り立っています」と言い、「人間の過去経験が豊かであればあるほど、その人の想像に資する素材も多くなります」と述べています。そして、芸術的な創造でも、科学的な創造でも、技術的な創造でも、「想像力による創造活動は、人間の過去経験がどれだけ豊富で多様であるかに直接依存している」のだと述べました。このように、いろいろな経験が分解・発酵され、潜在意識の領域を豊かにするほど、想像力が豊かになり、創造への力となるのです。これが土の中で起きる微生物の働きによる作用です。
 
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