「べき乗分布」のインプリケーション (『歴史の方程式』, マーク・ブキャナン)

2008.04.22 Tuesday 22:05
井庭 崇


このことを印象的に示すために、コロンビア大学の地震の専門家クリストファー・ショルツの言葉が紹介されている。「地震は、起こりはじめたときには、自分がどれほど大きくなっていくか知らない。」(p.98)。大地震というのは、地震の連鎖の雪崩によって結果として大地震になったのであり、その背後にあるメカニズムは、小規模の地震や中規模の地震と同じメカニズムによるということだ。


以上のことを、僕らの商品市場の研究成果と絡めて考えてみることにしたい。すでに紹介したように(「書籍販売市場における隠れた法則性」)、井庭研では、書籍販売市場などの実データ解析をしているが、そこでもべき乗分布が発見されている。このことは何を意味するのだろうか。

まず最初に、書籍販売市場において「典型的な」あるいは「一般的な」商品というものは存在しないということである。平均と分散で商品を見ることはできない、ということである。これはおそらく現場レベルではずいぶんまえからわかっていたことだと思う。販売冊数-順位のべき乗分布は、それが統計的にも言えるということを示している。

さらに、販売冊数-順位のべき乗分布は、大ヒットをした商品が売れた理由は、何か特別な理由があるからではない、ということ示唆している。このことは、大地震がスケールに依存しない普遍的なメカニズムによって、地震の連鎖の雪崩によって結果として生まれたというのと同じように、商品の大ヒットも市場の普遍的なメカニズムによって、「売れるものがますます売れる」という連鎖の雪崩によって、結果として生まれるのかもしれない。そうすると、僕らはマーケティングや市場戦略というものをどう考えればよいのだろうか………とても興味深い。(この点については、また別の機会に議論することにしたい。)

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