『音楽を「考える」』(茂木・江村)
2008.07.07 Monday 12:57
井庭 崇
僕も、自分の創作活動の経験から、同じようなことを感じていた(プロとしてはでなく趣味的な創作ではあるものの)。作詞をするとき、小説を書くとき、絵本を描くとき・・・そういう創作に取り組んでいるときは、ギリギリのところまで自分を追い詰めていく。表面的な思考では、つくるものも表面的になってしまう。そうではなく、表現したいものの奥の方まで降りていかなければならない。しかし、日常生活の自分を保ったまま、そのレベルに降りていくことはできない。そこで心のなかであえてアンバランスな体勢をとって、日常の自分から抜け出すことが必要となる。
この感覚は、なんとも表現するのが難しいのだけれど、歌詞の話でいうとわかりやすいかもしれない。本当は失恋していないのに、失恋した主人公の歌を書くことは容易くない。そのためには、まるで自分が失恋したかのような感情へと、自分を追い詰めていく必要がある。その状況に立ってみて初めて、リアルな歌が生まれる。もちろん、歌詞を書くには、そこで感傷的になるだけでなく、表現者としての自分を発揮しなければならない。それがきわめて、きわどい精神状態を強いることは想像に難くないだろう。しかし、そういう状況に自分をさらすことが、ものをつくる、ということなのだと思う。それがわかっているからこそ、なかなかすぐには創作モードに入ることができない、というのが最近の僕の実感だ。
[7] << [9] >>
-
-
<< 『思想としての社会学』(富永健一)
量子力学における「コト」的世界観と、オートポイエーシス >>
[0] [top]