2005年07月12日

佐藤郁哉、『フィールドワークの技法-問いを育てる、仮説をきたえる」、新曜社、2002年.

佐藤郁哉、『フィールドワークの技法-問いを育てる、仮説をきたえる」、新曜社、2002年.

 本著は「どのようにして実際にフィールドワークを行えばいいのか?」という疑問に対して、2章(調査)、3章(RQの整理と明確化)、4章(フィールドノートの取り方)、5章(聞き取り)、6章(エスノグラフィーの書き上げ)というテクニックを述べ、さらに底にある調査に対する基本的な考え方を示そうとしている。
 第2章 (調査)
(1)アクセス まず、調査や取材を行う現場の人々から許可をもらう必要があり、特に決定権を有するゲートキーパーを見極める重要となる。そのためにはフィールドワーカーの異人性を消す必要があり、有力な「ツテ」と最終的な調査報告書が対象にとって不本意な物にならないことを示すビジョンと配慮が必要となる。
(2)役割関係 参与観察を行う上では、インフォーマント(調査対象者)とのラポール(信頼関係)が重要であり、自分の身分や行おうとしている調査の概要を納得してもらえる説明の仕方を考える必要がある。しかし、調査活動そのものが信頼関係を損なうとしても原則うやむやにするべきではなく、慎重に配慮して行うべきである。また、「教えを受ける」師匠-弟子型の関係であれば、その際には自分の無知を率直に認めて現場の人々から謙虚に学ぼうという姿勢が好感を得る。フィールドワークに型はなく、さまざまな技法を併用するため、人間関係も多様なものにならざるを得ない。その対応の差が現地の人に不快感を与えないよう配慮する必要となる。また、当事者と局外者の二つの視点を持つことが重要で、特定の人々のみと親しくなり、一面的になる危険性を意識せねばならず、一定距離をおいた関与が良いリサーチには重要となる。
 第3章(RQの整理と明確化)
フィールドワークは、調査を通して、問題そのものの本質を明らかにすることが目的である。また、その過程では、「理論的にも実践的にも意義のある問い(RQ)は何か?」という、「問いそのものについての問い」に対する答えを見つけ出し、具体的な一つ一つのRQの関係を整理する問題構造化作業が中核となる。そのRQに対応する仮説を構築していく作業も並行するが、1、2度の検証で明確な結果がでるような単純なものは少ない。仮説とRQの関係は、計画予備段階、中間段階、最終段階の3つのフェーズがあり、何度も問いが練り直され、段階ごとに仮説構成が行われていくのである。
 第4章(フィールドノーツの付け方)
現場メモと清書版フィールドノーツに関しての具体的なテクニックを示している。フィールドノーツのポイントは、(1)全体の構図をつかむ鳥の目と、ディティールを描く虫の目のバランス。(2)未来の自分は全くの別人だということ、(3)通常の清書とは異なり、忠実な絵の再現のようなものであること、(4)ストーリー性をもたせることが望ましいことを強調している。なお、RQが最も明確になるのは、むしろフィールドワークの作業をあらかた終えて報告書としての民族誌を書いている時のことの方が多いということである。そのため、中間報告書や章立ての作業もなるべく早めに行った方がいいことを指摘している。
 第5章(聞き取り)
インフォーマル・インタビューにおいて、問わずがたりに耳を傾けることの重要性を。フォーマル・インタビューに関しては、録音機器の使用法、資料や依頼文の作り方など、詳細に書かれている。調べる対象によって異なる質問がでて当然の場合もあるとして、質問票を用いるより有意義な結果がでる事例も示している。
 第6章(民族誌の書き方)
わきゼリフ(つぶやき・つっこみ)、注釈(考察)、同時進行的覚え書き(総括ノート)。それらをコーディング(系統化)。そして理論的覚え書き(理論的考察・アイデアを一続きの文章で書く、私的メモ)、統合的覚え書き(総合的考察、読者を意識したもの)の延長線上に中間報告書が存在するとしている。

【コメント】修士1年 脇谷康宏
先日、研究の示唆をもらいにお時間をいただいたものの、直後にメモをまとめた内容はあまりに貧弱だったために、大いに反省していたところです。早速次回から取り入れたいと思います。具体的に手順を積まれると、想像以上でした。まずは問題意識と予想レベルを仮説とリサーチクエスチョンまで昇華させたいと思います…。

投稿者 student : 11:02 | トラックバック