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2005年03月13日

Orlikowski and Baroudi (1991) 

Orlikowski, Wanda J. and Baroudi, Jack J.,“Studying Information Technology in Organizations: Research Approaches and Assumptions “, Information Systems Research, Vol2,1991
■要約
本論の目的は、情報システム研究の手法の持つ意味について考え直すことだ。そのため、まず1983~88年に出版された155の情報システム論文を、以下の3つの観点で検証した。1)リサーチデザイン:サーベイ(49.1%)、ケーススタディ(13.5%)、実験室研究(27.1%)で、サーベイが卓越している。2)時間軸フレーム:1時点での分野横断的な研究が90.3%で、長期に渡る研究は4.5%、複数時点の分野横断的研究は3.9%。3)認識論に準拠した分類:(Chuaの分類に従うと)、実証主義が96.8%、うち1/4が記述的研究(23.9%)、解釈主義研究が3.2%、批判主義研究はゼロ。このように、情報システム研究はひとつの理論的根拠に根ざしているわけでないにもかかわらず、その研究手法には多様性が欠如しており、実証主義的な傾向を持ち、研究のやり方は自然科学に基礎を持つ。
 さらにChuaの3つの認識論アプローチ(実証主義、解釈主義、批判主義)について、社会的・物理的事象(存在論、人間の合理性、社会的関係)、知識(認識論と方法論)、理論と経験的世界の間の関係性から検討する。
 a)実証主義研究は、現象間にアプリオリな理論があることを前提とする。ただし例外として記述的研究も含む。社会的・物理的事象は、人間とは独立の存在ととらえられ、その特性は計測可能とされ、研究者の役割は、客観的な物理的・社会的現実を、正確な計測基準で見つけだしていくことだ。知識は演繹的に推論され、理論と現象の関係はテクニカルで、一般法則が知られていたり、初期条件が操作可能であれば、望ましい事象や社会状態を創り出すことができると考えられる。ただし、実証主義の普遍的法則の探求は、人間の行動に影響したり事象のトリガーとなる歴史的文脈的状況を無視することにつながりやすい。
 b)解釈主義研究では、現象のより深い構造を理解するため、研究者は自身の主観的または間主観的意味を、彼らの周囲の世界との関係するなかで創り出す。社会的プロセスを理解することは、それを引き起こす世界のなかに入り込むこととし、演繹的結論や統計量では社会的プロセスは理解できないとする。研究者は価値中立的なスタンスではなく、常に研究中の現象に巻き込まれていることが求められる。ただし解釈者の見方が外生的な状況を検証しない、意図せざる行為の結果を除外する、歴史的変化を説明しない等の欠点がある。
c)批判主義研究では調査中の社会現象を批判的に評価する。その中心的な考え方は、社会現象は歴史的に形成されたもので、人間や組織や社会は特定の存在に限定されないこと、事象は独立した要素として扱うことはできないという総合性に関する見解だ。知識は、社会的歴史的現象からのみ得られるもので、理論的に独立した集合や、理論を最終的に検証する証拠の解釈は存在し得ないとする。研究者は、限定された現状を理解し、社会的関係や現象における変化を起こしたり、阻害や抑圧のもととなるものを除外する役割を担う。ただし批判主義の考え方や理論的モデルに対しては十分に批判的でないという欠点がある。
以上のような3つの研究手法を理解したうえで、研究者は、自分の研究スタンスがどこにあるかを理解し、他の研究手法にも関心をもちながら、研究を進めるべきだ。自分が採用した手法には、バイアスがあるという限界も忘れてはならない。
■コメント
本論では記述研究(ケーススタディ)は実証主義の一部としてとらえられており、理論と現象理解をどのような研究手法として確立するか、その難しさを感じさせる。自身の研究スタンスは、理論から演繹的に事象を検証する実証主義ではなく、現象の構造を理解する解釈主義に近いが、科学的に検証できるデータや、理論の必要性を常に感じており、今後、研究手法を明確にすることで、こうした自身の研究における課題を解決していきたい。
(2005年4月21日 高橋明子)

投稿者 student : 2005年03月13日 14:34

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