2005年04月21日

Orlikowski, W.J. and Baroudi,.J.J., “Studying Information Technology in Organizations:Research Approaches and Assumptions”, Information System Research, Vol.2, 1991

Orlikowski, W.J. and Baroudi,.J.J., “Studying Information Technology in Organizations:
Research Approaches and Assumptions”, Information System Research, Vol.2, 1991
(レジュメ作成: 牧 兼充)

【要旨】
本稿は、情報システムに関する155の論文を分析することにより、その研究手法の傾向について論じたものである。一般的な傾向としては、情報システムに関する論文は、複数の理論体系を活用するものの、一つの現象に着目した研究がなされている。情報システムの手法としては、「調査」、「実験」、「ケーススタディ」が全体の過半数をしめる。
本稿では、「物理的・社会的現実性に関する信念」、「知識に関する信念」、「知識と経験の関連性に関する信念」を切り口とし、研究の認識論に基づき、研究を「実証主義」、「解釈主義」、「批評主義」の3つに分類し、その特性比較を行った。
「実証主義」は、情報システムを人間からは独立したものと捉えて、人間や社会の行動は安定的なものであると捉える。仮説演繹的であり、経験等から理論を一般化する。客観性を重視する一方で、全体的な文脈を無視する傾向がある。
「解釈主義」は、情報システムを人間・社会からは不可分のものととらえて、そのインタラクションにまで着目する。特に結果ではなく、なぜ起こったかということに着目する。検証可能ではあるが、定量的な測定などを行うことはできないなどの課題がある。
「批評主義」は、他の手法と違い現実的な事象を調査などにより批評し、評価する。この過程において、矛盾や気づきをせまることである。事象を全体的に捉える利点があるが、研究方法の確立は不十分である。
情報システムに関する論文は、「実証主義」が96.8%、「解釈主義」が3.2%、「批評主義」が0%と、大部分を実証主義が占めている。本稿では、「実証主義」の代わりに、「解釈主義」、「批評主義」の導入を勧めるものではなく、この3つの観点を踏まえた論文を書くことが重要であると提案する。この3つの観点の理解は、研究のみならず、実践活動における具現化においても重要である。

【コメント】
この3つの観点を取り入れて進めることを前提に研究計画の再編を考えている。まず、「批評主義」において、SIVのインキュベーション・プラットフォーム全体の評価を行う。次に「解釈主義」において、SIV内のコンテクストに基づいた個別のネットワーキングに対して、「誘因と貢献のメカニズム」をアクションリサーチ法により検証する。最後に「実証主義」において、個人単位の特性を分析するために、ケーススタディ法&定量調査を行う。ここで、得られた操作可能な変数に基づいて、個別のコンテクストを結合するためのプラットフォームをデザインし、「解釈主義」において評価する。
研究手法としては、「実証主義」の方法論が見えやすく、かつ説得力のある論文になりやすいが、社会に貢献するための理論を構築するためには、「解釈主義」、「批評主義」も同様に重要であることが本稿により明らかになった。

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Orlikowski and Baroudi(1991)

Orlikowski, Wanda J. and Baroudi, Jack J.,“Studying Information Technology in Organizations: Research Approaches and Assumptions “, Information Systems Research, Vol2,1991
■要約
本論の目的は、情報システム研究の手法の持つ意味について考え直すことだ。そのため、まず1983~88年に出版された155の情報システム論文を、以下の3つの観点で検証した。1)リサーチデザイン:サーベイ(49.1%)、ケーススタディ(13.5%)、実験室研究(27.1%)で、サーベイが卓越している。2)時間軸フレーム:1時点での分野横断的な研究が90.3%で、長期に渡る研究は4.5%、複数時点の分野横断的研究は3.9%。3)認識論に準拠した分類:(Chuaの分類に従うと)、実証主義が96.8%、うち1/4が記述的研究(23.9%)、解釈主義研究が3.2%、批判主義研究はゼロ。このように、情報システム研究はひとつの理論的根拠に根ざしているわけでないにもかかわらず、その研究手法には多様性が欠如しており、実証主義的な傾向を持ち、研究のやり方は自然科学に基礎を持つ。
 さらにChuaの3つの認識論アプローチ(実証主義、解釈主義、批判主義)について、社会的・物理的事象(存在論、人間の合理性、社会的関係)、知識(認識論と方法論)、理論と経験的世界の間の関係性から検討する。
 a)実証主義研究は、現象間にアプリオリな理論があることを前提とする。ただし例外として記述的研究も含む。社会的・物理的事象は、人間とは独立の存在ととらえられ、その特性は計測可能とされ、研究者の役割は、客観的な物理的・社会的現実を、正確な計測基準で見つけだしていくことだ。知識は演繹的に推論され、理論と現象の関係はテクニカルで、一般法則が知られていたり、初期条件が操作可能であれば、望ましい事象や社会状態を創り出すことができると考えられる。ただし、実証主義の普遍的法則の探求は、人間の行動に影響したり事象のトリガーとなる歴史的文脈的状況を無視することにつながりやすい。
 b)解釈主義研究では、現象のより深い構造を理解するため、研究者は自身の主観的または間主観的意味を、彼らの周囲の世界との関係するなかで創り出す。社会的プロセスを理解することは、それを引き起こす世界のなかに入り込むこととし、演繹的結論や統計量では社会的プロセスは理解できないとする。研究者は価値中立的なスタンスではなく、常に研究中の現象に巻き込まれていることが求められる。ただし解釈者の見方が外生的な状況を検証しない、意図せざる行為の結果を除外する、歴史的変化を説明しない等の欠点がある。
c)批判主義研究では調査中の社会現象を批判的に評価する。その中心的な考え方は、社会現象は歴史的に形成されたもので、人間や組織や社会は特定の存在に限定されないこと、事象は独立した要素として扱うことはできないという総合性に関する見解だ。知識は、社会的歴史的現象からのみ得られるもので、理論的に独立した集合や、理論を最終的に検証する証拠の解釈は存在し得ないとする。研究者は、限定された現状を理解し、社会的関係や現象における変化を起こしたり、阻害や抑圧のもととなるものを除外する役割を担う。ただし批判主義の考え方や理論的モデルに対しては十分に批判的でないという欠点がある。
以上のような3つの研究手法を理解したうえで、研究者は、自分の研究スタンスがどこにあるかを理解し、他の研究手法にも関心をもちながら、研究を進めるべきだ。自分が採用した手法には、バイアスがあるという限界も忘れてはならない。
■ コメント
本論では記述研究(ケーススタディ)は実証主義の一部としてとらえられており、理論と現象理解をどのような研究手法として確立するか、その難しさを感じさせる。自身の研究スタンスは、理論から演繹的に事象を検証する実証主義ではなく、現象の構造を理解する解釈主義に近いが、科学的に検証できるデータや、理論の必要性を常に感じており、今後、研究手法を明確にすることで、こうした自身の研究における課題を解決していきたい。
(2005年4月21日 高橋明子)

間違えて先生のエントリーに投稿してしまったので、再投稿しました。宜しくお願いします。

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Orlikowski and Baroudi (1991) 

【要旨】
 この論文では情報システム現象の研究における、現状において限定されているアプローチの哲学的視点を指摘した上でより多様なアプローチの必要性を主張している。
現状分析の過程としては、1983年から1988年まで出版された155の情報ンシステム研究論文を調査し、いくつかの指標による分類を行っているが、特にChuaの認識論によって、「実証主義」「解釈主義」「批判主義」研究の3つに分類した。結果、ほとんど(96.8%が「実証主義」に拠っている事が明らかになった。
今日の情報システム研究は、情報技術のみならずそれに係わる個人、および組織の間の関係を問わなければならず、以上の特性を踏まえると実証主義のみでは現実の要請に答えられないとの問題意識にのっとって、著者は、社会科学の様々なタイプに基礎付けられた哲学的仮定の多様性を認識し取り入れることが有効であり重要だと主張し、具体的には「実証主義」の他に「解釈主義」「批判主義」を方法的基礎に加えることを提案する。「実証主義」が発生事象は人間的要因とは分離して考えられ、客観性を保つことを重視して事象を観測するのに対し、「解釈主義」は、社会は外側のものではなく、人間が、現実世界との関わりの中で、主観的・相互主観的に作り出すという視点に立ち、「批判主義」は、社会は歴史によって生じているという側面を重視して既存の社会システムを批判し、これらの構造の中に本来含まれる矛盾と衝突を明らかにすることを主眼としている。これらの方法の中にはそれぞれ短所、長所が存在しているが、基本的な立場としては、物理的社会的現実性についての信念、知識の概念についての信念、知識と経験的世界の間の関係に関する信念 によって構成されているとされる。
 結論としてこの論文を通して、複数の哲学的仮定に基づいたより複眼的アプローチを心がけることを提案し、情報システムの研究自体だけでなく、開発・運用にも貢献することを主張している。
【コメント】
自然科学における実験という‘超’実証主義ともいえる環境に身を置いてきた私にとって、ほかの二つのアプローチ方法とても新鮮に感じられた。事象自体だけでなくそこ関係性が重視される分野において、研究方法を哲学上のレベルから考えることは貴重であり、解釈主義のスタンスはとても興味深い。ただ、この場合欠点である客観性を補うには観察者の立場やバイアスを明らかにすることが一助となると考えられるが不可能であろうか?

(2005年4月21日 小池由理)

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Studying Information Technology in Organizations

Orlikowski, Wanda J. and Baroudi, Jack J., “Studying Information Technology in Organizations: Research Approaches and Assumptions,”
【レジュメ】
この論文は1983年から1988年までに4つの専門誌に掲載された155の情報システム研究論文に対して、どのような哲学的仮定が用いられているかを調査・検討している。そこで、情報システム分野においては、実証主義的見解が支配的見解となっており、情報システム研究の多様性が不足していることを示している。続く2つのセクションで、解釈主義と批判主義について述べ、その2つの研究伝統を意識することによって、様々なタイプの社会調査の基礎となる仮定の多様性の理解を促進したいと考えている。

 Chuaの研究認識論の分類に従うと、実証主義では、演繹的な固定関係を前提とし、サンプルから理論的命題を計測可能な変数を用いて定式化することと、その理論命題を実験や観察を通じて検証することが行われる(1/4を示す「記述的な」研究は除く)。解釈主義では、自らを取り囲む世界との対話の中で、人々は主観的、相互主観的な意味を関連させるとされており、一般化を志向するのではなく事象のより深い構造を明らかにする。批判主義では、既存の理論への批判的アプローチや、既存の社会的習慣への弁証法的アプローチが行われる。

一)実証主義研究
西洋科学の論理実証主義に基づき、人間の行動が故意で合理的であるという意識が前提としている。人間と無関係に存在する客観的な物理的・社会世界を仮定し、そこを貫く一般駅名法則が存在し、それらは、客観的な、そしてその結果数によって表わされることができる構造を仮定してあるのである。初期条件が操作可能であれば、期待していた結果が現れる機械的、理論と実践との関係が想定される。しかし、一般法則は求める結果、人間の個々の行動による影響の歴史的で文脈、社会文化的文脈での無視につながります。これらの影響を無視すれば、情報システム現象は不完全なものとなることが短所としてあげられる。
二)解釈主義研究
世界を人間の意識および主観的な経験の拡張プロセスとしてみなし、(研究者を含めて)社会集団のメンバーが、どのように現実に対して働きかけるかを理解し、メンバーの理念および意図がそれらの社会活動を構成する助けとなったかを示すことを目標としている。異なる社会現象を結ぶ主観的要因を発見しうるが、短所として、外部要因を調査しないこと、意図せざる結果の説明を省くこと、系統的な組織や社会での構造的な矛盾に着目しないこと、歴史的変化に対する説明を無視すること、があげられている。
三)批判主義研究
 組織は、それらが作動し、それらが一部分それを構成する産業、社会および国家に分離されることはないという歴史的立場より、全体的に観察対象を批判的に評価することを可能とする。欠点としては批判主義研究者は、多くの場合自分の概念および理論モデルを十分に非難しないことであり、及びこの研究方法が重文に確立されるに至っていないということがあげられる。

【コメント】
一つの研究を行う際には、7の実証主義的要素(客観)を集め、2の解釈主義的要素(主観性)を加え、1の批判的要素(手直し)あたりをするとバランスが良いという感じでしょうか。「記述的な」研究の具体的意味がわからず、なぜ省かれたのかよくわかっていません…。

脇谷康宏です。投稿、遅れて申し訳ありません。
今から向かって、印刷したいと思います。

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2005年03月13日

Orlikowski and Baroudi (1991) 

Orlikowski, Wanda J. and Baroudi, Jack J.,“Studying Information Technology in Organizations: Research Approaches and Assumptions “, Information Systems Research, Vol2,1991
■要約
本論の目的は、情報システム研究の手法の持つ意味について考え直すことだ。そのため、まず1983~88年に出版された155の情報システム論文を、以下の3つの観点で検証した。1)リサーチデザイン:サーベイ(49.1%)、ケーススタディ(13.5%)、実験室研究(27.1%)で、サーベイが卓越している。2)時間軸フレーム:1時点での分野横断的な研究が90.3%で、長期に渡る研究は4.5%、複数時点の分野横断的研究は3.9%。3)認識論に準拠した分類:(Chuaの分類に従うと)、実証主義が96.8%、うち1/4が記述的研究(23.9%)、解釈主義研究が3.2%、批判主義研究はゼロ。このように、情報システム研究はひとつの理論的根拠に根ざしているわけでないにもかかわらず、その研究手法には多様性が欠如しており、実証主義的な傾向を持ち、研究のやり方は自然科学に基礎を持つ。
 さらにChuaの3つの認識論アプローチ(実証主義、解釈主義、批判主義)について、社会的・物理的事象(存在論、人間の合理性、社会的関係)、知識(認識論と方法論)、理論と経験的世界の間の関係性から検討する。
 a)実証主義研究は、現象間にアプリオリな理論があることを前提とする。ただし例外として記述的研究も含む。社会的・物理的事象は、人間とは独立の存在ととらえられ、その特性は計測可能とされ、研究者の役割は、客観的な物理的・社会的現実を、正確な計測基準で見つけだしていくことだ。知識は演繹的に推論され、理論と現象の関係はテクニカルで、一般法則が知られていたり、初期条件が操作可能であれば、望ましい事象や社会状態を創り出すことができると考えられる。ただし、実証主義の普遍的法則の探求は、人間の行動に影響したり事象のトリガーとなる歴史的文脈的状況を無視することにつながりやすい。
 b)解釈主義研究では、現象のより深い構造を理解するため、研究者は自身の主観的または間主観的意味を、彼らの周囲の世界との関係するなかで創り出す。社会的プロセスを理解することは、それを引き起こす世界のなかに入り込むこととし、演繹的結論や統計量では社会的プロセスは理解できないとする。研究者は価値中立的なスタンスではなく、常に研究中の現象に巻き込まれていることが求められる。ただし解釈者の見方が外生的な状況を検証しない、意図せざる行為の結果を除外する、歴史的変化を説明しない等の欠点がある。
c)批判主義研究では調査中の社会現象を批判的に評価する。その中心的な考え方は、社会現象は歴史的に形成されたもので、人間や組織や社会は特定の存在に限定されないこと、事象は独立した要素として扱うことはできないという総合性に関する見解だ。知識は、社会的歴史的現象からのみ得られるもので、理論的に独立した集合や、理論を最終的に検証する証拠の解釈は存在し得ないとする。研究者は、限定された現状を理解し、社会的関係や現象における変化を起こしたり、阻害や抑圧のもととなるものを除外する役割を担う。ただし批判主義の考え方や理論的モデルに対しては十分に批判的でないという欠点がある。
以上のような3つの研究手法を理解したうえで、研究者は、自分の研究スタンスがどこにあるかを理解し、他の研究手法にも関心をもちながら、研究を進めるべきだ。自分が採用した手法には、バイアスがあるという限界も忘れてはならない。
■コメント
本論では記述研究(ケーススタディ)は実証主義の一部としてとらえられており、理論と現象理解をどのような研究手法として確立するか、その難しさを感じさせる。自身の研究スタンスは、理論から演繹的に事象を検証する実証主義ではなく、現象の構造を理解する解釈主義に近いが、科学的に検証できるデータや、理論の必要性を常に感じており、今後、研究手法を明確にすることで、こうした自身の研究における課題を解決していきたい。
(2005年4月21日 高橋明子)

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