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2005年04月28日

R.K.Yin  Case Study Research : Design and Mesods

社会科学においては主に5つの調査戦略−実験、観察、資料分析、歴史研究、ケーススタディがある。リサーチ戦略はこれまで探索、記述、説明といった段階の階層性によって区別される傾向にあり、特にケーススタディは探索段階に有効だとされてきたがこのような見方は適切ではない.リサーチ戦略が区別される条件としては①例示されているリサーチクエスチョンのタイプ、②研究者が実際の行動減少を制御できる範囲、③歴史事象ではなく現在の事象に焦点を当てる程度があり、これらにおいてケーススタディが適しているとされるのは①How、Whyのリサーチクエスチョンが提起されるとき、②調査者が該当事象をコントロールできないとき、③研究対象が実社会での事象におけるある特定な現象を対象とするとき、だと指摘した。これらをふまえケーススタディの定義、特徴は第一にリサーチクエスチョンにおいて現象と背景の境界が不明確な場合に背景の分析を行えること、第二にデータ収集や分析において「関心の領域がデータ収集地点より多い場合」に「複数の論証源に準拠」し「事前に確立された理論からデータ収集・分析へ結び付けていくことに秀でた」手法である。総じてケーススタディは設計の論理を持つ包括的な方法からなり、単なる探索用具でないことを示している。
 ケーススタディの設計のためには、収集されるデータをリサーチクエスチョンに結びつける論理の連鎖であるリサーチ設計が必要となる。構成要素はリサーチクエスチョン、命題、分析単位、データを命題に結び付ける理論、発見物の解釈基準で、データを集める前に、理論を構築し、調査に関連する領域全体を意識すべきである。特に理論として一般化する手法には分析と統計を挙げることができるが、ケーススタディの一般化は後者でなければならない.ケーススタディにおいて留意すべき質の判断基準は構成概念妥当性、内的妥当性(説明的、因果的な場合)、外的妥当性、信頼性があり、それぞれ解決策が述べられている.ケーススタディのタイプとして単一ケースと複数ケース、全体分析と部分分析のマトリックスであるが単一ケースは、①既存理論の更なる実証及び適用範囲の拡張を目的とした場合、②類似事象が少ない場合、③(事前に科学的分析が行われていない萌芽的事象を対象とした場合においてその優位性を持つとする一方で、複数ケースは、再現性の高さをその特徴とし、理論の一般化において信頼性が高いとみなされる複数ケース・スタディを望ましい方法だとしている。総じて研究の目的や対象を明確にした上で設計を行うことでバイアスを防げると主張している。

 ケーススタディの特徴を端的に言うと、変数の多い事柄に対し、結果よりも過程の分析を行うことにあると思う.前例のない研究に不可欠なリサーチ戦略であるといえるが、リサーチとして成立させるにはプロジェクトを遂行するだけでなく、事前に得られる情報を予測し、いかに方法を設計しておくかが重要であることを認識させられた. (小池由理)

投稿者 koyuri : 2005年04月28日 00:45

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