2005年04月28日

ケース・スタディの方法

Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods, 2nd ed.,"
Sage, 1994.(邦訳:近藤公彦、『ケース・スタディの方法』、千倉書房、1996年.)
 一章 序論
インは社会科学リサーチにおける相互に排他しない5つの戦略-実験、サーベイ、資料分析、歴史研究、ケーススタディ-の1つとしてケーススタディを位置づける。それぞれは、(1)リサーチ問題のタイプは、どのように、なぜ、誰が、何が、どこで、どれほど という基本的なカテゴリーのどれに焦点にあてるかで分けて考える。また、(2)行動事象に対する制御の必要性のある、なし、(3)現在事象への焦点 のある、なしの条件も区別には重要である。ケース・スタディ法は(1)「どのように」「なぜ」という、より説明的な問題を扱う際に望ましいリサーチ戦略であり、(2)経験的探求であるため、調査者が、制御はできない事象、であり(3)直接観察、系統的面接といった技法が有効に使える現在的事象を扱う際に望ましいという点で、他の戦略と識別することができる。

 二章 ケース・スタディの設計
(1)全ての経験的な研究における暗黙のリサーチ設計(ケース・スタディの一般的アプローチ)
 リサーチ設計とは、収集された経験的データを、当初のリサーチ問題に、ひいては導き出される結論に結びつけるための論理の連鎖である。リサーチ設計の構成要素は、①研究問題、②命題、③分析単位(範囲)のデータ収集要素のみでなく、データ収集後に何を行うべきかという④データを命題へ結びつける論理、⑤発見物の解釈基準をも明らかにしなければならない。加えて、それら5つの要素を網羅し、結果を一般化させるために、困難であっても十分な青写真としての「理論枠組みの開発」を設計段階で行うことは不可欠なステップであるとしている。

(2)ケース・スタディ設計の基本タイプ
基本タイプは単一ケース設計か複数ケース設計か、全体的(単一分析単位)か部分的(複数分析単位)かの2×2の4通りに区分できる。単一ケース設計はケースが極端あるいはユニークな場合など、新事実のケースの発見において有用である。しかし、新事実ではなかったときに潜在的な弱みが常にあることは注意しなければならない。複数ケース設計においては、各ケースは同じような予測された結果(事実の追試)、あるいは対立する結果(理論の追試)のいずれかをともなわなければならない。
 全体的ケース・スタディは下位の分析単位が識別できない際には有意だが、抽象レベルに終わってしまう弱みも潜在している。部分的設計も下位の分析単位に焦点をあて、より大きな分析単位に戻って判断できないときには弱みとなる。
 当初設計が誤りであったとわかったのちに、ケース選択を変更させることは適切な変更であるが、関心や目的をシフトさせることは不合理な変更であることは注意すべきである。

(3)リサーチ設計の質を判断する4つのテスト
経験に基づく社会研究の質は、①構成概念妥当性,②内的妥当性,③外的妥当性,④信頼性という社会学研究に共通する4つのテストによって査定される。①は研究目的に対して、事象の特定の変化を選択し、尺度が正しいか否か。②は因果関係が妥当であるか。③は他のケースにおいて一般化できるか否か。④自身や他人が再現できるか、またそのための手続の情報が管理されているかどうかである。それぞれのテストのケース・スタディ戦術があることに有意する必要がある。

【コメント】 修士1年 脇谷康宏
設計段階の「理論枠組み」の構成の重要性の再認識は有意義であり、「4つのテスト」における戦術は論文執筆時にも何度も悩む課題なのであろうと考えると気がひきしまります。普段読む時からこういった分析視点を持ち、適切な批評ができるようになりたいものです。

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R.K.Yin  Case Study Research : Design and Mesods

Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods", Sage Publications, 2002.
■要約
○第1章:リサーチ戦略には、Experiment(実験)、Survey(サーベイ)、Archival analysis(資料分析)、History(歴史)、Case study(ケース・スタディ)の5つがある。どの戦略を用いるのが適切かは、a)Form of Research Question(リサーチ問題のタイプ)、b)Requires Control of Behavioral Events?(行動事象に対する制御の必要性)、c)Forcuses on Contemporary Events?(現在の現象へ焦点を当てる度合)によって決定される。ケース・スタディは、how(どのように)、why(なぜ)を追求するリサーチ問題で、研究者が制御できない、現在の事象に関するリサーチ戦略である。lack of rigor(厳密さを欠いていること)、they provide little basis for scientific generalization(科学的一般化の基礎を提供しないこと)等と指摘されるが、ケース・スタディは、現象と文脈の境界が明確でない場合の現在の現象を研究するempirical inquiry(経験的探求)であり、関心のある変数がデータポイントより多い場合に、トライアンギュレーションによって証拠源を利用し、データの収集・分析の指針となる既存理論命題から便益を受ける、包括的リサーチ戦略だ。
○第2章:リサーチ設計とは、収集されるデータと結論を研究問題に結びつける論理で、ケース・スタディ設計には、Study question(研究問題)、Study propositions(研究命題),Unit of analysis(分析単位)、Linking data to propositions(データと命題の関連づけ)、criteria for interpreting the findings(解釈基準)が構成要素となる。また研究の青写真を描く調査設計段階での理論開発が重要だ。研究事象から理論への一般化には、母集団の推論を行う統計的一般化(レベル1)と、2つ以上のケースが同じ理論を指示し、同等に起こりえる対立理論を支持しない分析的一般化(レベル2)があり、ケース・スタディはレベル2を目指すべきである。設計の質を高めるには、研究事象の正確な特定を行う構成概念妥当性(複数証拠源の利用、証拠の連鎖の確立、情報提供者へのレビュー)、因果関係を検証する内的妥当性(パターン適合、説明構築、時系列分析)、特定の結果群を一般化する外的妥当性(追試)、及び信頼性の4基準を満たすことが必要だ。
ケース・スタディ設計は、シングルケースか複数ケースか、holistic(全体的か)、embedded(部分的か)の2×2のマトリクスで示される。シングルケースは、critical case(決定的ケース)、extreme or unique case(極端なあるいはユニークなケース)、revelatory case(新事実のケース)で用いられる。さらに組織全体を扱う全体的ケースと、会議、役割等の構成単位を扱う部分的ケースがあり、両者にはそれぞれ長所と短所がある。複数ケースはシングルケースより説得力が高いが、理論開発に基づく、replication logic(追試の論理)、即ち事実の追試literal replication、又は理論の追試 theoretical replicationに従うべきだ。その際、ケースの選択と特定尺度の定義、十分なケースの数を確保することに留意する。追試やコンテクストの違いが検証できるので、研究者は、例え2つのケースであってもシングルケースより複数ケースを用いることが望ましい。なお、状況が変化した場合には、リサーチ設計を変更する柔軟性も必要だ。
■コメント
ケース・スタディを実証主義研究と位置づけ手法が詳述されている点が多いに役だった。自分の現在の研究にあてはめると、いかにリサーチ戦略があいまいか自覚する。ケースは「住民ディレクター」に限定するとシングルケースになるため、「映像メディアを用いた市民の情報発信」として複数ケース分析することでよいか?映像メディア活用については、リサーチ設計に先立つ理論開発で枠組み設定し、人々がhowどのように協働を実現し、whyなぜ住民ディレクター方式(プロデューサーの存在する人材育成方式)が適しているかを検証することでよいのか?ケースが全体か部分か、追試については、問題が絞り込めていない。引き続きリサーチ戦略の明確化を行っていきたい。
(2005年4月28日 高橋明子)

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ケース・スタディの方法(第1,2章)

リサーチ戦略は、①リサーチ問題のタイプ、②行動事象に対する制御の範囲、③現在の事象に焦点を当てる程度によって実験、サーベイ、資料分析、歴史、ケース・スタディなどに区別される。ケース・スタディ戦略は現在の事象を検討し、それに関連する行動の操作できない場合、現在の事象群について「どのように」あるいは「なぜ」の問題が問われている。他のリサーチ戦略に比べ厳密さが欠いているし、時間がかかり、結果として量が多すぎということなどでケース・スタディ戦略は低く評価されてきた。
ケース・スタディは経験的探求であり、リサーチ戦略としてのケース・スタディはデータ収集やデータ分析への特定のアプローチを取り込んだ設計の論理をもつ、すべてを包括する方法からなる。その構成要素としては①研究問題:「誰が」「何か」「どこで」「どのように」「なぜ」という点で問題の形態、②その命題、③その分析単位、④データを命題に結び付ける論理:データ分析のステップ⑤発見物の解釈基準:データを収集した後に何をすべきかを明らかにすることである。また、ケース・スタディの結果的な目的は「理論の開発」でもある。
リサーチ設計のさい次のような判断基準によって設計の質を高められる。①構成概念妥当性:研究中の概念に関する正確な操作的な尺度の確立、②内的妥当性(記述的または探索的研究ではなく、説明的または因果的研究のみの場合):疑似的な関係とは区別される、ある条件がほかの条件をもたらすことを示す因果関係の確立、③外的妥当性:研究の発見物を一般化しうる領域の確立、④信頼性:データ収集の手続きなどの研究の操作を繰り返して、同じ結果が得られることを示すことなどである。
ケース・スタディ戦略としては4つタイプ-単一ケース(全体的)設計、単一ケース(部分的)設計、複数ケース(全体的)設計、複数ケース(部分的)設計-があげられる。単一設計は十分に定式化された理論をテストするさいの決定的ケース、極端なあるいはユニークなケース、新事実のケースの場合有用である。しかし、単一設計は下位の分析単位が含まれる可能性があるために、部分的設計というさらに複雑な設計が開発される。複数設計は単一設計より複数ケースから得られた証拠から説得力があると考えられる。しかし、広範な資源と時間が必要になる。また、複数ケースを考えることで研究のはじめに明示的に予測された同じ結果(事実の追試)あるいは対立する結果(追試の論理)をともなわなければならない。部分的設計は単一ケースの中で下位単位にも関心がむけられることであり、全体設計はプログラムや組織全体的な特徴を検討することである。全体的設計は研究を進めていくうちに研究者が気づかないまま、ケース・スタディ全体の特徴がシフトしていく可能性がある。一方、部分的設計はケース・スタディが下位単位レベルのみに焦点をあて、より多きい分析単位に戻ることができない場合がある。
<コメント>
単一ケースは決定的ケース、極端なあるいはユニークなケース、新事実のケースにその有用性が確認される一方科学的な一般性は欠いているため調査の結論としての「理論の開発」は難しいのではないかと思う。複数ケース・スタディの場合、複数ケースから得られた結論によって単一ケースより説得力があるが、その複数ケースの論理的根拠の一体性を維持するのが大事ではないかと思う。                         - 文責: M2 池 銀貞-

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R.K.Yin  Case Study Research : Design and Mesods

社会科学においては主に5つの調査戦略−実験、観察、資料分析、歴史研究、ケーススタディがある。リサーチ戦略はこれまで探索、記述、説明といった段階の階層性によって区別される傾向にあり、特にケーススタディは探索段階に有効だとされてきたがこのような見方は適切ではない.リサーチ戦略が区別される条件としては①例示されているリサーチクエスチョンのタイプ、②研究者が実際の行動減少を制御できる範囲、③歴史事象ではなく現在の事象に焦点を当てる程度があり、これらにおいてケーススタディが適しているとされるのは①How、Whyのリサーチクエスチョンが提起されるとき、②調査者が該当事象をコントロールできないとき、③研究対象が実社会での事象におけるある特定な現象を対象とするとき、だと指摘した。これらをふまえケーススタディの定義、特徴は第一にリサーチクエスチョンにおいて現象と背景の境界が不明確な場合に背景の分析を行えること、第二にデータ収集や分析において「関心の領域がデータ収集地点より多い場合」に「複数の論証源に準拠」し「事前に確立された理論からデータ収集・分析へ結び付けていくことに秀でた」手法である。総じてケーススタディは設計の論理を持つ包括的な方法からなり、単なる探索用具でないことを示している。
 ケーススタディの設計のためには、収集されるデータをリサーチクエスチョンに結びつける論理の連鎖であるリサーチ設計が必要となる。構成要素はリサーチクエスチョン、命題、分析単位、データを命題に結び付ける理論、発見物の解釈基準で、データを集める前に、理論を構築し、調査に関連する領域全体を意識すべきである。特に理論として一般化する手法には分析と統計を挙げることができるが、ケーススタディの一般化は後者でなければならない.ケーススタディにおいて留意すべき質の判断基準は構成概念妥当性、内的妥当性(説明的、因果的な場合)、外的妥当性、信頼性があり、それぞれ解決策が述べられている.ケーススタディのタイプとして単一ケースと複数ケース、全体分析と部分分析のマトリックスであるが単一ケースは、①既存理論の更なる実証及び適用範囲の拡張を目的とした場合、②類似事象が少ない場合、③(事前に科学的分析が行われていない萌芽的事象を対象とした場合においてその優位性を持つとする一方で、複数ケースは、再現性の高さをその特徴とし、理論の一般化において信頼性が高いとみなされる複数ケース・スタディを望ましい方法だとしている。総じて研究の目的や対象を明確にした上で設計を行うことでバイアスを防げると主張している。

 ケーススタディの特徴を端的に言うと、変数の多い事柄に対し、結果よりも過程の分析を行うことにあると思う.前例のない研究に不可欠なリサーチ戦略であるといえるが、リサーチとして成立させるにはプロジェクトを遂行するだけでなく、事前に得られる情報を予測し、いかに方法を設計しておくかが重要であることを認識させられた. (小池由理)

投稿者 koyuri : 00:45 | トラックバック

2005年04月27日

イン、ロバート・K.、(近藤公彦訳)、『ケース・スタディの方法』、千倉書房、1996 (第1章+第2章) (牧 兼充)

イン、ロバート・K.、(近藤公彦訳)、『ケース・スタディの方法』、千倉書房、1996
第1章-第2章 (レジュメ作成: 牧 兼充)
2005.4.28
【要旨】
本書は、社会科学リサーチ手法の一つであるケース・スタディの方法論及びリサーチ戦略についてまとめたものである。ケース・スタディが望ましいリサーチ戦略であるのは、1)「どのように」あるいは「なぜ」という問題が提示されている場合、2)研究者が事象をほとんど制御できない場合、3)現在の現象に焦点がある場合、である。
ケース・スタディは、1) 厳密さの欠如、バイアスの発生する、2)科学的一般化の基礎を提供しない、3) 調査に時間がかかり、量が多すぎて読めない文章になる、などの先入観をもたれているためリサーチ戦略として低く評価されている。1)については、データ収集の方法論の確立により解決可能であり、同様の課題は他の手法にも存在する。2)については、ケース・スタディ法は、サンプルを代表するもの(頻度を列挙するもの)ではなく、理論を拡張し一般化することを目的としているから当然である。3)については、ケース・スタディの手法次第である。これら以上に最重要の課題は、すぐれたケース・スタディを行うのは極めて難しいということである。
ケース・スタディ法は経験的探求であり、特に現象と文脈の境界が明確でない場合に、その現実の文脈で起こる現在の現象の研究を行う。ケース・スタディによる探求は、関心のある変数が多い場合に、三角測量的手法を用いながら、理論命題の検証を行う。サーベイ戦略や実験戦略を行うには、あまりにも複雑な現象を、因果的な結びつきを説明する場合に適している。
リサーチ設計は、「研究問題」、「命題」、「分析単位」、「論理」、「解釈基準」により構成される。リサーチ設計の質の判断基準として、「構成概念妥当性」(研究中の概念に関する正確な操作的尺度の確立)、「内的妥当性」(擬似的な関係とは区別される、ある条件が他の条件をもたらすことを示す因果関係の確立)、「外的妥当性」(研究の発見物を一般化しうる領域の確立)、「信頼性」(データ収集の手続きなど研究の操作をくり返して、同じ結果が得られることを示すこと)がある。
ケース・スタディの設計としては、「単一ケース設計」or 「複数ケース設計」と「全体的」or「部分的」の合計4種類が存在する。単一ケース設計と複数ケース設計については、本質的に差があるものではなく、リサーチ設計における差異である。複数ケースを用いた場合には、比較が可能となるが、これは単一設計における追試の論理を補強する以上のものではない。単一ケース設計においては、「決定的ケース」、「ユニークなケース」、「新事実のケース」を取り上げる場合に有効である。単一ケースの中で、一つ以上の分析単位が含まれる場合には、部分的設計と呼ばれ、組織全体的な特徴の検討を行う場合は、全体的設計と呼ばれる。
【コメント】
SIVを分析対象とした「インキュベーション・プラットフォームにおける誘因と貢献のメカニズム」を検証する場合には、「単一ケース」「部分的」ケース・スタディとなる。命題「インキュベーション・プラットフォームの活性化には、個別ネットワーキング組織の個別的活動とその結合が必要である。」という点について検証を行う。そのために個別のネットワーキング組織に関する比較検証を行う。
今後、「構成概念妥当性」、「内的妥当性」、「外的妥当性」、「信頼性」の4点を考慮した、リサーチ設計を進めていく。

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