« ケース・スタディの方法(第1,2章) | メイン | ケース・スタディの方法 »

2005年04月28日

R.K.Yin  Case Study Research : Design and Mesods

Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods", Sage Publications, 2002.
■要約
○第1章:リサーチ戦略には、Experiment(実験)、Survey(サーベイ)、Archival analysis(資料分析)、History(歴史)、Case study(ケース・スタディ)の5つがある。どの戦略を用いるのが適切かは、a)Form of Research Question(リサーチ問題のタイプ)、b)Requires Control of Behavioral Events?(行動事象に対する制御の必要性)、c)Forcuses on Contemporary Events?(現在の現象へ焦点を当てる度合)によって決定される。ケース・スタディは、how(どのように)、why(なぜ)を追求するリサーチ問題で、研究者が制御できない、現在の事象に関するリサーチ戦略である。lack of rigor(厳密さを欠いていること)、they provide little basis for scientific generalization(科学的一般化の基礎を提供しないこと)等と指摘されるが、ケース・スタディは、現象と文脈の境界が明確でない場合の現在の現象を研究するempirical inquiry(経験的探求)であり、関心のある変数がデータポイントより多い場合に、トライアンギュレーションによって証拠源を利用し、データの収集・分析の指針となる既存理論命題から便益を受ける、包括的リサーチ戦略だ。
○第2章:リサーチ設計とは、収集されるデータと結論を研究問題に結びつける論理で、ケース・スタディ設計には、Study question(研究問題)、Study propositions(研究命題),Unit of analysis(分析単位)、Linking data to propositions(データと命題の関連づけ)、criteria for interpreting the findings(解釈基準)が構成要素となる。また研究の青写真を描く調査設計段階での理論開発が重要だ。研究事象から理論への一般化には、母集団の推論を行う統計的一般化(レベル1)と、2つ以上のケースが同じ理論を指示し、同等に起こりえる対立理論を支持しない分析的一般化(レベル2)があり、ケース・スタディはレベル2を目指すべきである。設計の質を高めるには、研究事象の正確な特定を行う構成概念妥当性(複数証拠源の利用、証拠の連鎖の確立、情報提供者へのレビュー)、因果関係を検証する内的妥当性(パターン適合、説明構築、時系列分析)、特定の結果群を一般化する外的妥当性(追試)、及び信頼性の4基準を満たすことが必要だ。
ケース・スタディ設計は、シングルケースか複数ケースか、holistic(全体的か)、embedded(部分的か)の2×2のマトリクスで示される。シングルケースは、critical case(決定的ケース)、extreme or unique case(極端なあるいはユニークなケース)、revelatory case(新事実のケース)で用いられる。さらに組織全体を扱う全体的ケースと、会議、役割等の構成単位を扱う部分的ケースがあり、両者にはそれぞれ長所と短所がある。複数ケースはシングルケースより説得力が高いが、理論開発に基づく、replication logic(追試の論理)、即ち事実の追試literal replication、又は理論の追試 theoretical replicationに従うべきだ。その際、ケースの選択と特定尺度の定義、十分なケースの数を確保することに留意する。追試やコンテクストの違いが検証できるので、研究者は、例え2つのケースであってもシングルケースより複数ケースを用いることが望ましい。なお、状況が変化した場合には、リサーチ設計を変更する柔軟性も必要だ。
■コメント
ケース・スタディを実証主義研究と位置づけ手法が詳述されている点が多いに役だった。自分の現在の研究にあてはめると、いかにリサーチ戦略があいまいか自覚する。ケースは「住民ディレクター」に限定するとシングルケースになるため、「映像メディアを用いた市民の情報発信」として複数ケース分析することでよいか?映像メディア活用については、リサーチ設計に先立つ理論開発で枠組み設定し、人々がhowどのように協働を実現し、whyなぜ住民ディレクター方式(プロデューサーの存在する人材育成方式)が適しているかを検証することでよいのか?ケースが全体か部分か、追試については、問題が絞り込めていない。引き続きリサーチ戦略の明確化を行っていきたい。
(2005年4月28日 高橋明子)

投稿者 student : 2005年04月28日 07:41

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://web.sfc.keio.ac.jp/~jkokuryo/MT3/mt-tb.cgi/16

このリストは、次のエントリーを参照しています: R.K.Yin  Case Study Research : Design and Mesods: