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2005年05月19日

Benbasat, I., Goldstein, D.K. and Mead, M., "The Case Research Strategy in Studies of Information Systems," MIS Quarterly (11:3), 1987, pp. 369-386.  /Markus, M.L. "Power, Politics and MIS Implementation," Communications of the ACM, 26, 1983, pp. 430-444.

Benbasat, I., Goldstein, D.K. and Mead, M., "The Case Research Strategy in Studies of Information Systems," MIS Quarterly (11:3), 1987, pp. 369-386. 

■要約
本論は、IS分野でのケース研究戦略について論じたもので、ケース研究の方法論を確立するとともに、よりよい研究方策を提示している。ケース研究は初期段階の理論形成段階で有効であり、ケース研究の排他的利用を推奨するものではない。
ケース研究がIS戦略として有効なのは、ISを現実の事象を研究し理論を一般化できること、研究者に進行中の事象を理解する「how」「why」を与えること、先行研究が殆どなく、変化のスピードが早いIS分野で適切な手法であるという3つの理由によるものだ。
ケーススタディの標準的定義はないが、BenbasatやYinらの定義をもとに、本論では「1ないし複数事例から収集されるデータを用い、現実の事象を複数の手法で検証するもの」と定義する。
 ケース研究の手法としては、1)分析単位:調査に着手する前に決定する、2)分析対象:複数ケースが望ましいが、Yinによれば実験的、理論検証的、他に存在しない独特の事象等、シングルケースが適切な状況もある、3)事象の選択:現実及び理論を反映したケースを選択、4)データ収集:複数ソースから収集する等が重要である。
 次に、Murkus,Dutton,Pyburn,Olsonの4つのケーススタディを検証し、ISケース研究の評価、批判を分析した。ISケース研究のテーマは、Implementation(実装)だ。しかし研究の目的は、明確でない場合が多く、このため分析単位及びケース選択も明記されていない論文が多い。半数のケース研究は複数手段でデータを収集するが、半数はインタビューのみによっている。またデータ収集における問題点は、データ収集手法が明かでないことだ。
 つまり研究者が方法論的問題を考慮してこなかったことが問題であり、調査目的が不明確、シングルケースか複数ケースかの選択の説明不足、事象選択が調査戦略と結びつかない、データ収集手法があいまいで詳細が提示されない、信頼性を増すトライアンギュレーションはほとんど行われていないなどが指摘できる。ケース研究は、事象を説明するものであるとともに、仮説を検証するものであるべきだ。Yinはケーススタディの読者が、リサーチクエスチョンから結論までのどのような証拠源も検証できることの重要性を主張した。証拠源の連鎖がデータの信頼性を高める。ケース研究は単なる記述ではなく、ある種の手続きのルールである。

■コメント
Yinの主張等に基づきながら、4つのケース論文をもとに、IS分野におけるケース研究のメリットを提示するとともに、批判(問題点)を明らかにし、ケース研究のあるべき姿を描いている。ケース研究が理論に基づく仮説検証型で、証拠源の追試を可能とする調査メソッドであることが、Yin論文に続き確認できた。
(2005年5月19日 高橋明子)

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Markus, M.L. "Power, Politics and MIS Implementation," Communications of the ACM, 26, 1983, pp. 430-444.

■要約
本論文は、MISの導入への抵抗に関する3つの理論を提示したうえで、GTC社のFIS(Financial Information System)の導入に関するシングルケースデータで、理論を検証し、システム導入に関する推奨方策を提示したものだ。3つの理論とは、1)人間は本質的に変化に抵抗する(人間決定理論:Peaple-Determined)、2)システムに内在する要素(ユーザーフレンドリーでない等)が抵抗を招く(システム決定理論:Systeme-Determined)、3) 利用者とシステムの相互作用が抵抗を生む(相互作用理論:Interaction Theory)。例えば組織のパワーバランスを変革するシステムは、権力を失う利用者から抵抗を受け、力を得る人から承認される。相互作用理論には、社会技術的理論Sociotechnical variant(事業部従業員とシステムの相互作用にフォーカス)と、政治理論Political variant(組織内権力の分散とシステムの相互作用にフォーカス)がある。
 GTC社のFISの導入ケースでみると、最初に導入した事業部では抵抗がなかったのにあとから導入した事業部では抵抗があり、全社部門は導入を歓迎した。全社部門が事業部とのパワーバランスを完全に変えることに成功したわけではないが、全社部門がFISにより会計データに直接アクセス可能となり、ある事業部は権力を失ったことが要因だ。
 このようにFISケースでは、政治的相互作用理論が説明力に優れることが検証された。
ISは単独では、革命的な組織の改革を行うことはできないし、システムデザイナーもユーザーであり完全に中立的ではない。相互作用理論から導かれる最も重要な示唆は、抵抗を受けないシステムをデザインしたり、抵抗を受けているシステムを改修するため、技術的な観点だけでなく、社会的政治的観点からも分析することだ。具体的には、システムを導入する前に組織的問題を解決すること、ユーザーのインセンティブを再構築すること、ユーザーとデザイナーの関係を再構築することなどで、システム設計へのユーザーの参加は必ずしも必要ではない。FISケースでいえば、分析(=導入)者自身の動機を認識したうえで、1)事業部にも適合するようシステムデザインを変更、2)全社的目的のいくつかを犠牲にする、3)事業部にシステムデザイン設計段階への参加を認める、4)事業部に妥協することで受容を”買う”、5)最初から、システムを究極の「経営者の会計システム」として扱う、6)プロジェクトを終える、といった選択を決定していくなどの戦略が考えられる。
つまり相互作用理論は、普遍的でないという欠点を持つが、抵抗を予測し、可変的で独創的な戦略を立てることができる点で、他の理論より有効だ。導入者も分析の一単位であり、ゴールは抵抗をなくすことではなく、それを回避すること、可能なら建設的に扱うことである。

■コメント
本論は、実務者(システム導入者)に対しては、システム導入に関する具体的推奨方策を理論に基づき提示することで、説得力を増している。研究の方法論としては、シングルケースのデータに基づき、パターンマッチングにより、理論を検証している。得られたモデル(理論)は、普遍的一般性は持たないことを明らかにしつつ、他の理論に対する優位性、目的に対する有効性を明示し、研究と実務を結ぶ方法論のひとつを提示した。
現在進行形の問題を考える社会科学の特徴として、ISの導入者が同時に問題解決を考える分析者でもあることは、二重の意味でのアクションリサーチ(本論文そのもの、及び本論文で提示された事象そのもの)になっているようで興味深かった。 (2005年5月19日 高橋明子)

投稿者 student : 2005年05月19日 06:41

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