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2005年05月26日

Pinch,Trevor J. and Wiebe E.Bijker,”The Social Construction of Facts and Artifacts" /Hughes, T., “The Evolution of Large Technological Systems” /吉川弘之、富山哲男、『設計学—ものづくりの理論』

Pinch,Trevor J. and Wiebe E.Bijker,”The Social Construction of Facts and Artifacts:Or How the Sociology of Science and the Sociology of Technology Might Benefit Each Other,” Bijker, Wiebe E.,Thomas P. Hughes and Trevor Pinch, The Social Construction of Technological systems, The MIT Press,1987,pp.17-50.

Hughes, T., “The Evolution of Large Technological Systems”, Bijker, W., Hughes, T. and Pinch T. (editors), "The Social Construction of Technological Systems.", MIT Press., 1987, pp.51-82.

吉川弘之、富山哲男、『設計学―ものづくりの理論』、放送大学教材、2000年.

■Social Construction of Facts and Artifacts
本章は、技術及び科学を経験的に研究する際の、社会構成主義的アプローチについて論じたものである。本論では、社会科学等先行論文のレビューに基づき、EPOR(相対主義的経験プログラム=科学的知識の社会学)とSCOT(技術研究への社会構成主義アプローチ=技術の社会学)という2つのアプローチを示す。EPORは自然科学を社会的構築主義的に扱うアプローチで、同時代の科学的発展と経験的研究にフォーカスしていることが特徴。SCOTでは技術的人工物の発展段階を、線形の発展ではなく、多方向(マルチダイレクショナル)な発展として描く。例えば自転車は、Penny Farthingモデルから線形に(単に技術的に)発展したと考えることもできるが、多方向(マルチ)に考えると、ある社会的グループに固有の問題、解決方法があり、複数の自転車モデルが生まれたと解釈できる。例えば女性や高齢者にとっては安全性の問題を重視したモデルが適する。即ち技術の役割は、技術的人工物を社会的環境に関係づけること。SCOTは、社会的グループが与える意味に着目することによって技術的人工物を記述する手法である。ただしSCOTは、EPORに比べ遅れている。科学を技術から分離することに注力するのは意味がなく、科学と技術の研究は相互に利益を与えあうもので、本論で論じたように、両者を統合的に考えるのがよい。

■The Evolution of Large Technological Systems
技術的システムは、社会的に構成され、社会を形成するもので、分散した、複雑な問題解決の要素から構成される。技術的システムには、人工物、組織、金融機関、リサーチプログラムなどがある。物理的、非物理的人工物とも、共通の目標に向かって他の人工物と相互作用しあう。
現代の巨大な技術システムは、発明、発達、革新、技術移転、発展・競争・統合という発展パターンを持つ。システムが成熟すると、スタイルやmomentum(推進力)が備わる。技術的システムの発展は、連続的なものではなく、重複したり戻ったりする。発明、発達、革新のあとに、さらなる発明があったりもする。各段階では、発明家、マネージャー、財務家など、異なるシステムビルダー(起業家)として求められる。

■設計学
設計は人間に備わる普遍的な能力である。設計学とは、設計を理解するための学問であり、人工物を生産する工学の中心的位置を占めるが、心理学、社会学、経営学的な要素も含む。
人間が作り出したものを人工物(artifact)と呼び、物理的存在(住宅や建設物、機械等)、抽象的存在(計算機ソフトウエア)、制度的存在(社会システム)がある。人工物の創造過程は、製造(実際に作り出す)と設計(どのような人工物を作り出すかを考案、指示)からなる。
設計は、概念設計、基本設計、詳細設計からなる。設計は生産者と人工物の使用者をつなぐ役割を持ち、かつ人工物を製造するために必要不可欠な情報を生成する過程である。
設計学の体系としては、対象に依存せずに抽象的かつ一般的に扱う設計学、具体的かつ一般的な問題または抽象的かつ個別目標に関する問題を扱う設計方法論などがある。
 人工物設計の歴史では、科学は自然を理解するモデル、技術は科学の成果を応用して有用な人工物を発明するものと定義され、科学と技術が直線的に組み合わさるプッシュ・プルモデルが卓越的な考え方だった。しかし技術だけが長く存在し共通基盤技術化し、それが次世代の発明や発見につながるという、サークルモデルも存在する。さらに人工物の発達の歴史は、科学技術だけでなく社会、経済などの要因が大きく影響する。例えば日本の自動車産業は、排ガス規制への対応、ドルショック、石油危機を背景に、低価格、高品質、低燃費を実現した。時代背景や社会的要請を反映した設計でなければ製品は生き残れない。
 人工物は、技術進歩、社会的変化、設計技術そのものの進化を反映して進化してきた。技術進歩の例には、新材料(プラスチックやチタン等)の出現による設計物の変化、社会的変化例には、高度経済成長期に核家族化、都市化の進展、生活の洋風化により起こった住宅の変化がある。これはマズローの欲求階層説でも説明できる。計算機技術の発達による有限要素法等は設計技術の変化例だ。人工物の歴史を理解するうえでは失敗例も重要で、事故により欠陥が明らかになりその後の設計改善に役立った例は多い。

■コメント
3論文から、科学技術は、科学が自然を理解し、技術が科学を応用して人工物を創造するリニアな構造だけではなく、社会的背景のもと、様々な要素の絡むサークル構造のなかで、人工物が創造されることが多いことが明かとなった。例えば映像メディアを活用した人材育成事業(住民ディレクター事業)は、科学的側面(映像メディアの持つ特性?)、技術的側面(ホームビデオの普及、ブロードバンド環境の普及、地上波デジタル放送の開始)といった条件に、社会的側面(顧客間インタラクション傾向の高まり、テレビを使うものとしてとらえる発想)等が絡み、生まれた人工物であるととらえられる。全ての要素の因果関係を検証することは不可能であり、萌芽的人工物の意義を検証し、再現可能なモデルとするためには、どの要素に着目し他要素との因果関係を明らかにするのかが、非常に重要なファクターとなる。全体像を明らかにしたうえで、最もインパクトが大きいと見込まれるキーファクターを早急に絞り込みたい。       (2005年5月26日 高橋明子)

投稿者 student : 2005年05月26日 09:38

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