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2005年05月26日

Pinch,Trevor J. and Wiebe E.Bijker,”The Social Construction of Facts and Artifacts,” Bijker, Wiebe E.,Thomas P. Hughes and Trevor Pinch, The Social Construction of Technological systems, The MIT Press,1987,pp.17-50. /吉川弘之、富山哲男、『設計学—ものづくりの理論』、放送大学教材、2000年.

吉川弘之、富山哲男、『設計学-ものづくりの理論』、放送大学教材、2000
 設計とは、あるべき姿を定義する人間の創造行為であり、行動計画や料理の献立、外出計画など日常生活においても用いられる人間に備わる普遍的な能力である。人間は、機械や建物、電子回路、素材などの多様な物理的存在を生みだし、また、ソフトウェアのような知的財産や、社会制度といったものも創造する。これらを人間が創造するものを人工物とするならば、人工物の生産過程は大きく、アイデアを出す設計、と実際に作る製造とに分けられる。
 工業品の設計過程は、対象によらずおおむね共通しており、
 要求(機能、性能) ⇒概念設計 ⇒基本設計 ⇒詳細設計 (構造の設計) 
  ⇒生産設計 (実際に製造するための設計) という手順を踏む。
 また、使用者のニーズを形にするだけではなく、製造⇒使用⇒保全⇒回収⇒リサイクル⇒設計 まで含めた、人工物の一生を規定するのも設計である。こうした様々な対象とした設計を、対象によらない人間の高度な知的活動である創造行為の一つとして体系化し、抽象、一般的に理解するのが設計学である。ただし、設計学を学んだからといって設計を上手に行えるというものではない。
 しかし、要求⇒設計の段階へ至るには、時代背景や時代の要請というものが大きく関わる。(1)科学技術 科学と技術の歴史的な関係を具体例を交えて述べている。科学という法則・原理があり、技術はその科学の成果を応用するという一方向の流れ「プッシュ・プルモデル」(卵と鶏の関係)だけでは科学史は説明できず、実際は大した理論なしで最初の技術が生まれることが多いとする。その技術が次の発明を生む基盤技術になるというサークルモデルを蒸気機関を例に示している。
 (2)社会・経済 初期の大量消費の時代から商品差別化・個別化への消費者のニーズの変化、あるいは環境問題を自動車を例にして挙げ、相対する社会・経済的要請により設計を行う必要を示している。社会や文化の変化は、人の欲求の変化ともいえ、欲求階層説を示し、設計もそれに応じた段階的な変化があることを指摘している。
 また、これら以外にもコンピューターのによる構造計算など「設計技術」が進化することや、失敗した技術からサジェスチョンを得ることによる設計基準の見直しによる設計の変化の重要性も述べている。

Bijker, W., Hughes, T. and Pinch T. (editors), "The Social Construction of Technological Systems.", MIT Press., 1987.
「事実と人工物の社会的構成 : すなわち、科学社会学と技術社会学は互いにどのように恩恵を受けることができるか」(バイカー&ピンチ)
 この論文では、科学論と技術論は互いに学び合うべきであるし、実際に学び合うことができるということを主張したいと述べている。特に、科学社会学の社会構成主義者的見解は出発点として有益であるという。
 第一セクションでは、これまでの社会科学、科学と技術の関係、技術論についての先行研究についてそれぞれ述べており、従来の技術論の直線的なリニアモデルを社会構成主義者的視点が欠けていると批判している。
 第二セクションでは、科学と技術に対する2つのアプローチを提示している。1つは科学論の科学知識の社会学で発達し、十分に議論された「相対主義の経験的プログラム(The Empirical Programme of Relativism, EPOR」である。EPORはハードサイエンスにおける科学的知識の社会構造を明らかにし、技術発達の説明に適用しようとする。2つめは未成熟な技術社会学における「テクノロジーの社会的構成(Social Construction of Technology, SCOT」アプローチである。SCOTでは、人工物の技術的発展のプロセスを、変化や選択の交雑として把握し、リニアモデルに対する「多方向性」モデルを示し、は自転車の技術発展のケーススタディを通して、実証している。
 1870年頃、自転車はオーディナリー(写真3)と呼ばれる、前輪を直接駆動させ、スピードを出すために前輪を極端に大きくし、後輪を小さくしたタイプであったが、サドルが高くて危険であった。その後、サドルを低くし、後輪をチェーンで駆動するセーフティ型自転車が作られた(Lawson’s Bicyclette, 写真13)。危険→安全への、直線的に進歩するものとして歴史的記述では描かれるが、それらの直線的な進歩史観を批判している。というのは、当時の人々の目から見れば、オーディナリーからセーフティへの進歩は、必然ではなく、他の方向に進む可能性があったからである。彼らは「関連社会グループ」という概念で これらを説明している。当時、自転車に乗ることは若い男性のスポーツと考え、安全は重要な課題ではなかった。しかし、長いドレスを着ていた女性グループには、オーディナリーは不便であった。自転車メーカーにも潜在的なユーザーである女性は無視できない存在だった。このように、所属する「関連社会グループ」によって、オーディナリーという同一の人工物に対する解釈が異なる。そして、これらのグループ相互の力関係、関心や利害によって、自転車技術の発展方向を決定するとする。社会が技術から受ける影響を見逃しているという批判を「解釈の柔軟性の制限」という語で示している。
 2つのアプローチによると、科学的発見の解釈の柔軟性は、EPORにもSCOTに共通する。さらに、SCOTは技術的人工物を文化的に構成し、異なる関連社会グループは、異なる理解を人工物に対して持ち、その概念を理解することが重要であるとし、さらにEPORとSCOTを統合的に理解することが重要であるとしている。

大規模技術システムの進化
 1870~1940年の電力の歴史を研究することで、大規模技術システムの進化パターンと発明者(エジソン)の役割を、社会構成主義者の立場から分析している。政治的・経済関係が技術の形式に影響しうることに対する理解を提示している。
 技術システムは、社会的に構成され、また社会によって形成されているものであり、複雑に散らばった問題解決を形を問わず行うもので構成される総体と定義されている。技術システムは、人工物のような物理的要素だけをさすのではなく、組織、規制法案、あらゆる商業システム、金融、教育システムなどの非物理的要素をも包括するものとしている。人間はシステムの要素ではあるが人工物ではない。技術をつくりあげるだけでなく、組織をもつくりあげるシステムビルダーが必要である。次に、ヒューズは、技術システムの進化のフェーズとして発明、開発、技術革新、技術移転、成長、競争、統合を示した。。成長、競争、統合段階では「逆突出部」(reverse salient)を持つ。このフェーズは一方通行ではなく、交互に行き来しうる。進化の過程で、システムが成熟するに伴い、モメンタム(技術的運動量)を獲得し、自律化し、技術軌道(technology trajectory)に沿って発展することになるとしている。

【コメント】(M1 脇谷康宏)
前者はあえて設計方法論や設計原理と分けてまで、独自の設計学というものが必要なのかはやや疑問。設計学の発展から実際の設計への応用ということがありうるのだろうか。とはいえ、水車のように学問体系が技術のシードになるにはタイムラグがあるのかもしれないが…。後者の技術史観はある意味、純粋な技術者の評価を相対的に下げることにもなり、現在の理系不遇や特許の対価のとらえ方にも影響があるのだろうかということを考えたりもします。エジソンの発明「王」たる所以ですね。
 

投稿者 student : 2005年05月26日 09:31

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