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2005年05月26日

設計学

 まず、設計とは様々な人工物(物理的な存在のみならず抽象的な存在、制度的なものを含む)の生産活動において製品のあるべき姿を理解する人間の創造的行為と定義した上で設計学(design theory)とは設計を対照によらずに人間の高度な創造行為の一つとして、一般に理解するための学問と述べ、具体的な個々の人工物の設計方法を工学的な観点からみる設計方法論に対して、設計の自動化や合理的な設計の進め方が明らかになる点において有用であるとする.人間の創造の過程を筆者は総じて生産と定義しているが、実際に製造する過程に対し、考案、指示する過程を設計としている.この設計過程は人工物において概ね共通であり、要求(機能や性能というで表現)を実現する人工物の動作原理、構造や形状、挙動を決定してゆく過程で、具体的には概念設計、基本設計、詳細設計、生産設計という段階がある。ここでは設計過程の意義である①生産者と顧客(人工物の使用者)をつなぐ、②製造するために必要な(製造のみならずライフサイクルを規定する)情報を生成する、という点を念頭におかなければならない.
 人工物進化の歴史は発明や発見の歴史であるだけでなく人工物設計の歴史、つまり設計者の意図を反映したものでもある.この進化のメカニズムは科学が技術にとってのシーズとなる(プッシュ)、技術開発の社会的要請がニーズとなる(プル)という直線的な関係性を科学技術が進行してゆくプッシュプルモデルで説明されていたが、科学に比べ技術のみの存在時期が長いという観点からより適したサークルモデル(ノンリニアモデル)が提唱された.これは技術の発明、一般化、共通基盤化、体系化、次世代の発明発見の種というサイクルをしめす。さらに実際の人工物設計の歴史は社会、経済、文化(時代背景、社会インフラ、特許制度など)からの影響が大きいということを示し、社会的要請や、トレンドによる製品淘汰のメカニズムを表している.この人工物の進化の要因としては、①技術の進歩による進化(新素材の発見、メカトロニクス製品の出現など)、②社会的な変化による進化(欲求の量的、質的変化)、③設計技術そのものの進化(シュミレーションなど計算機技術の発達)、の三点が挙げられている.また進化の過程で重要となるのは失敗経験から学ぶことであると筆者は述べる
■コメント■+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
設計を設計対象による切り口ではなく、設計の際の人間の知能の働きという切り口でみているてんで面白い.現在、鋳型における効率的な生産手法をほかの生産ラインに添加するという動きも出ているが、事象を抽象化すること(学問)はこの点で生きるのではないかと技術の進化サイクルに納得できた.産学連携という流れもサイクルの中の学問という本来の自然な流れにたち返すことを目標とすればうまくいくのではないだろうか?
 加えてリサイクルの流れまで視野に入れた設計(ライフサイクルアセスメント)や失敗から学ぶ際にも設計自体ではなく、組織や社会上の問題まで視野に入れる方法(モダンPM)なども時代の要請として興味深い.どちらも線形な部分だけではなく全体を俯瞰することで手に入れることのできる視点のように感じた.(小池由理)

投稿者 student : 2005年05月26日 01:51

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