« Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods, 2nd ed.," Sage, 1994.(邦訳:近藤公彦、『ケース・スタディの方法』、千倉書房、1996年.) 3-6章 | メイン | Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods, 2nd ed.," Sage, 1994. »

2005年05月12日

Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods", Sage Publications, 2002.

■要約
○第3章(データ収集の準備)
 データの収集におけるスキルを持つため、訓練と準備、プロトコルの開発、パイロットケース・スタディの開発が必要である。必要なスキルは実験やサーベイに比べて多く、1)問題を問う、2)傾聴(文書を含む大量情報をバイアスなく吸収)、3)適応性と柔軟性、4)研究中の課題の把握、5)バイアスのないことなどが求められる。訓練と準備には1週間分の準備と議論を伴うセミナーが必要なほどで、ケース・スタディプロトコル(概略、フィールド手続き、ケース・スタディ問題、リポートの指針)の開発は、研究者に指針を与える。特に、ケース・スタディ問題で探求の構造をなすものを明らかにすること、リポートの指針はプロトコルの一部として提示することに留意。パイロットケース・スタディにより試行的に様々なアプローチが可能。

○第4章(証拠の収集)
 ケース・スタディには6つの証拠源(文書、資料記録、面接、直接観察、参与観察、物理的人工物)がある。各証拠源は相互補完的で、できるだけ多くの証拠源を利用することが望ましい。最も重要な情報源は面接で、面接データを他の情報で立証することが合理的である。
 これら証拠源を適切に利用し、構成概念妥当性と信頼性を高める3つの原則として、1)複数の証拠源を利用し(トライアンギュレーション)、データを収斂(convergence of evidence)すること、2)データベースの作成により、データあるいは証拠の基礎と研究者のレポートを別々に収集すること、3)証拠の連鎖の維持(方法論的手続きとその結果明らかになった証拠をはっきりと相互参照すること)がある。

○第5章(ケース・スタディの証拠の分析)
 ケース・スタディは3つの一般的な分析戦略を持つ。最も望ましいのは理論命題への依拠(Relying on theoretical propositions)、次いで対立解釈を考えること(thinking about rival explanations)、記述的枠組み開発があり、研究者は1つを選択する。戦略の一部をなす主要な分析手法は5つある。1)パターン適合は、妥当性に対するすべての合理的脅威を識別、繰り返し比較を行うことで、こうした脅威が仮説ケース双方の2つのパターンを説明できないことを示す。2)説明構築は因果的結びつきの集合を明らかにすることで、叙述ではなく、理論的に重要な命題を反映させるべき。3)時系列分析はどのように、なぜの問題を経時的に検討する。4)プログラム論理モデルは、近年、特にケース・スタディの評価を行う際に用いられることが多く、独立変数と従属変数の因果パターンを検証する。複数ケースでは5)複数ケースの統合も行われる。

○第6章(リポートの作成)
 リポートの形式はオーディエンスの好みによって決める。リポートは必ずしも書面である必要はなく、最も適した効果的な発表形式であれば、斬新な形態も追求すべき。リポートの作成は分析過程の初期段階で開始する、ケースと個人は(制約がなければ)実名とする、ケースの情報提供者や関係者にもレビューしてもらうなどの手続きも重要だ。またケース・スタディは代替的な視点(対立命題)を考慮すべきである。リポートは魅力的に作成することが求められる。

■コメント
 ケース・スタディの実施に焦点を当てた3-6章では、研究の設計段階で、分析の方法論を明確にすることの重要性を痛感した。準備段階ではリポートの指針を含むプロトコルの開発、データ収集段階では分析の方針(3原則)を常に認識しつつ、6つの証拠源のどれを用いるかを決定していくこと、分析段階では分析戦略の決定(理論命題への依拠がベスト)と、分析技法の選択を行うことなどが詳述されたが、これらの方法論は、調査設計段階である程度見通しをたてておくべきだろう。またリポートは分析の初期段階で作成に着手することが重要とされていることも強く印象に残った。第2に、全体のステップを通じ、対立命題を考慮することの重要性が指摘されている。早急に、対立命題を意識しつつ、ケーススタディの方法論を明確化したい。                                (2005年5月12日 高橋明子)

(追記)第2版と第3版の差分については、第3版の内容を優先したため、タイトルは第3版を用いました。

投稿者 student : 2005年05月12日 06:40

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