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2005年06月23日

Frederick P.Brooks,Jr. The Mythical Man-Month ESSAYS ON SOFTWARE ENGINEERING (1995)(邦題:人月の神話 オオカミ人間を撃つ銀の弾はない

 大規模ソフトウェアシステムの制作における労働力の単位として人月を用いるのは危険である。これはソフトウェアシステムにおける根本的要素であり固有の性質としての①複雑性、②同調性、③可変性、④不可視性に起因する。ソフトウェアはどの部分においても同一ではなく、その①複雑性は偶有的なものではない。さらに大規模プロジェクトにおける複雑性の非線形な増加によって、コミュニケーションコスト、スケジュールの予想の難しさ、コンセプトの非統一といった問題を誘発する。また周囲のニーズ、環境に合わせた開発が必要であり(②)ソフトウェアは機能の具現化そのものであり、純粋な思考の産物であることで融通性に富むため常に変化を迫られることとなる。(③)加えて構造を幾何学的に示すのが困難(④)であるため概念上のツールの作成が阻害されている。これはデザインプロセス、コミュニケーションの妨げとなる。
 これらの問題の解決方法(銀の弾)として外科手術チームのモデル等によるアーキテクトトインプリメーションの切り離し、マネジャーとアーキテクト二つのリーダーシップの必要性などが提唱されているがこれらはが改善するのは偶有的困難のみである。技術的な点ではこれまでの高水準言語、タイムシェアリング、統一プログラミング環境といった三段階の発展がみられる。加えて高水準言語の進歩、オブジェクト指向プログラミング、人工知能、環境とツールの整備などが研究されている。なかでもAIには二通りの定義①従来人間の知能によって解決されていた問題の解決の為のコンピュータの使用、②自己発見的なプログラム技法群の使用、のうち特に後者のエキスパートシステムはプログラム自体とアプリケーションの分離が可能であるという利点に期待を寄せている。開発においてコンピテンシーの抽出が必要であるため専門家の確保と行動指針の言語化が不可欠となるが、これによって経験と知識の共有が可能となる。さらに概念構造体の本質への有望な攻略としてはアウトソーシングによるカスタマイズ、要件の洗練と迅速プロトタイピング、(フィードバックサイクル)、漸増的開発、デザイナーの育成(単独での創造的プロセス)等が上げられている。しかし、ソフトウェアシステムは根本的要素によって開発における困難を解決する術はないように思われる。しかし単純化することで現象を説明する自然科学の手法は用いることができないが複雑な事物も何らかの秩序原則の影響を受けること、自然な写像は得られないまでも図式を思考とデザインの支援に使用することなど登場しそうにない解決策をまつのではなく生産性を向上させる改善を進めるべきである。
■ コメント
デザインルールに比べコンピュータの複雑性を悲観的に受け止めているように思う。文中にもあるように挙げられている手法は多様なプロジェクトにおいて有効なものもあった。プロトタイピングや漸増的開発などはボトムアップの要素もあるように感じられ、生物的進化との類似も感じられた。(小池由理)

投稿者 student : 2005年06月23日 02:01

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