2005年06月23日

Baldwin, Carliss Y., Kim B. Clark, “DESIGN RULES: The Power of Modularity,” The MIT Press, 2000.(邦訳:安藤晴彦訳、『デザイン・ルール-モジュール化パワー-』、東洋経済新報社、 2004年.)

 変化を生み出すフォースは創造のプロセスに依拠する。二十世紀後半に生み出されたコンピュータはその複雑性において設計の進化や産業の発展を象徴するものとなる。複雑化は一人の人間では人工物が設計できず、理解できないという転換点を経る。パーツが相互に関係しながら集合以上のものを実現する複雑な人工物を設計するには知識と労力を振り分ける調整メカニズムが必要となる。
 人工物のデザインにおいて設計と設計プロセスは細部構造を持ち、小さな分析単位に分解することができる。設計パラメータと設計タスクは相互に影響し合う。パラメータ、タスクや人々からなる集合の要素間に存在する特定な関係パターンをモジュール化と定義すると、集合内の要素間の相互関係が入れ子状になった階層関係として理解できる。モジュール化オペレータには分離、交換、追加、削除、抽出、転用といった要素が定義され、モジュール型設計における複雑な変更の多くはこれらの組み合わせとして表現することができる
 設計者たちの可能性の開拓と投資家たちの出資のドライビングフォースは経済的価値の創造と獲得への欲求である。モジュール化オペレータがそれを達成する役割を果たすことで複雑な人工物の設計は計画がなくとも調和した形で進化してきた。筆者はモジュールか設計のことをして、モジュールかオペレータに埋め込まれている、有益なオプションを求める、多くの設計者たちによる、非集権的な探索、によって進化するものとしている。
 設計の改善によって生じる分配方法は、設計者と投資家を結ぶ契約の性質、設計プロセスに入る条件、特定製品のマーケットにおける予想される構造、マーケットに広がる共創パターンに依存する。これらの要素は設計における価値の変化に連動し線形でない変化を生じる。

■ コメント
モジュール化によって価値を生じる過程が定量的に示され、経済がどのように進化のフォースとなるのか、資本主義を違った角度からみることができた気がする。それぞれのオペレーターについて実際にどのようなところで使われているか興味深かった。(小池由理)

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2005年06月16日

Baldwin, Carliss Y., Kim B. Clark, “DESIGN RULES: The Power of Modularity,” The MIT Press, 2000.(邦訳:安藤晴彦訳、『デザイン・ルール—モジュール化パワー—』、東洋経済新報社、 2004年.)

■概要
本書は、コンピュータという過去半世紀に登場した人工物について、第2~8章でモジュール化とは何か、コンピュータ設計でどのように登場したか、後半第9~13章でモジュール化を用いて何が行えるかを説明する。
モジュール化の本質は入れ子状になった階層ブロックで、設計パラメータは設計のより小さなユニット(マグカップでいえば素材、高さ、ふたの有無など)、設計タスクとはパラメータを選択することである。設計構造行列(DSM)とは設計パラメータ間の階層的な関係性と相互依存性を示すマップで、タスク構造行列(TSM)は設計のタスクとタスク間の優先関係の見取り図である。設計プロセスのTSMは、対応するDSMの像で、基本的同形性を示す。典型的なタスク構造には独立ブロック型、厳格な順次型、階層的ブロック型、ハイブリッド型がある。
モジュール化は、モジュール内では相互依存、モジュール間では独立である。デザイン・ルールとは、他のパラメータの選択には影響するが、そのパラメータ自身は変更されることのない特権的パラメータで、設計プロセスの早い段階でデザイン・ルールを宣言することでパラメータの相互依存性を断ち切ることができる。パラメータには「可視情報」と「隠された情報」があり、複雑性の管理手法である抽出、設計中の相互作用する対立を解消する事前に定められた方法であるインターフェース等を用い、可視情報であるデザイン・ルールと、設計者が自由裁量で変更できる隠されたパラメータを扱うことがモジュール化のプロセスだ。
また、デザイン・ルールは経済的組織のレベルでも生じ、効率的・低コストで集団的事業体を形成・維持することを可能とする契約技術と、大小のグループを調整し方向を示す技術誘導がある。価値の引力は、これらに仲介され、設計と人工物の発展経路に影響を与える。モジュール型設計理論には6つのオペレータ(システムを変化させ、より複雑に成長させる経路またはルートを定義するもの)がある。これは分離、交換、追加、削除、抽出、転用である。これらの特徴はそれらが局所的に実行できることだ。
モジュール化によるコンピュータ設計は1944年にフォン・ノイマンが提唱し、61年にIBMシステム/360に結実し、コンピュータ産業史の転換点となった。IBMはレガシーシステムの制約に苦慮しながらもエミュレータ等のメインシステム以外のモジュール開発等を含め、システム/360を設計、製造、配送、販売する新たなタスク構造を生み出した。さらに、システム/360のタスク構造を契約構造で固める事業体の設計を行った。
モジュール化、即ち分離した単位が独立に機能するように分離することは、人工物の設計に固有の特質であり、モジュール型設計の進化プロセスは、1)6つのモジュール化オペレータにより、2)埋め込まれている有力なオプションを求める、3)多くの設計者たちによる、4)非集権的な探求である。6つのモジュール化オペレータを異なる組み合わせや連鎖で局所的に適用すると、多様で複雑な設計を生み出せる。

■コメント
コンピュータほどの複雑な人工物には、モジュール化したデザイン・ルールが求められる。モジュール化はシステムデザインのみならず、組織体や契約構造にも影響を及ぼす。「映像メディアを用いた協働の場の設計」も、各プロセス(企画、取材、編集)をモジュール化しつつも可視化できることが、有効に機能するひとつの要因なのではないか。
(2005年6月16日 高橋明子)

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Baldwin, Carliss Y., Kim B. Clark, “Design Rules: The Power of Modularity,”MIT Press, 2000.

Baldwin, Carliss Y., Kim B. Clark, “Design Rules: The Power of Modularity,”MIT Press, 2000.
(邦訳:安藤晴彦訳,『デザイン・ルール―モジュール化パワー―』,東洋経済新報社, 2004)

 本書では経済システムの根本に変化を与える推進力(フォース)とは何かを理解し、変化が創造する“チャンスとリスク”を把握しようとしている。推進力はあくまで人の行いの結果である。すなわち設計という、特定の機能を発揮する「事物」すなわち人工物を創造するプロセスである。製品、テクノロジー、企業、マーケットの相互が絡みあいながら次第に進化した一つの複雑適応系とも言うべき産業の変遷によってもたらされる。20世紀後半の半世紀に出現し、驚異的発展を遂げ、高度に複雑な人工物であるコンピュータを理解し、この物語を説明しうる、設計の進化と産業の発展の進化理論の構築しようとしている。
 コンピューター関連産業は70年代と80年代の間に、IBMが支配する高度に集中された産業から細分化され、非統合型で独立した企業からなるモジュール・クラスターに変化した。複雑な人工物の異なる部品(モジュール)毎にエンジニアリング・デザインすることで、相互に分離された専門集団によって設計することができる。モジュール化の本質は、重要な意思決定を先に延ばし、後になって改定する「選択肢」を設計者たちに与えることとなる。その中で、先延ばしにできない、初期時点においていくつか行わなければならない厳格な意思決定が「デザイン・ルール」となる。モジュール型システムの特長はある設定の中で最高の価値となる構成を得るために、その構成要素を組み合わせられることであり、上手に構築されれば、多数の異なるパーツに調和をもたらすのである。
 2章では、マグカップやラップトップコンピュータを例に「構造」と「機能」の面から設計の作業を捉え直している。加えて、設計者の抱く「価値」の変化が、変更のための労力より高いのであれば、設計者は新しい設計を試すことになることを指摘している。4章では、「価値」の推進力が設計者の頭の中で生まれ、製品市場で拡大され、資本市場の存在によってさらに拡大される経済システムに中にあることを述べている。最終的に、技術的な知識と経営上の知識の双方を含む「誘導技術」によって、隔離された事業体同士を調整するよう導かれるのである。5章では、組合せによって、設計の過去・現在・未来のすべてを分類しうる「モジュール化するための6つのオペレータ」を示している。すなわち「分離」「交換」「追加」「削除」「抽出」「転用」の6つである。
 第Ⅲ部ではモジュール型設計を「6つのモジュール化オペレーターに」「埋め込まれている有益なオプションを求める」「多くの設計者達による」「(中央に相談せず自由な)非集権的な探求」によって進化するというものと捉えている。そうした新たなモジュール設計は新たなシステム設計を創造可能とし、イノベーションの連鎖を生じさせ、最終的には多様で絶えず変化するシステム設計の集合となっているとしている。9章では、そうした進化は基本的に経済的現象であり、主体の価値探求活動としてだと理解していると主張している。10-13章では、6つのオペレータの経済的な価値の数学的モデルを構築し、どのような経済的な価値が創造されるかを各論している。
 14,15章では、先進的な資本市場では、「設計進化」のとどまらず、受け皿となる下位企業群や市場をも出現する「産業進化」が起きることを述べている。こうした「モジュール・クラスター」では非集権化と拡大が起き、同時に同一企業内に縛りがちになるエージェンシーコストの推進力が減少すると述べている。互いに連関するようになり、外部や内部との連携を円滑化するように動いていくのである。

【コメント】「モジュール化による選択肢の創造」と「より高性能を発揮するためのコンポーネントの統合」のたゆまない繰り返しという内容が印象に残った。営利ではないが、国家機能の細分化、小さな政府に向けて、これらの議論、特に6つのオペレータがどう活かせるのか、どうあてはまるのかを考えてみたいと思う(修士1年 脇谷康宏)。

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Baldwin, Carliss Y., Kim B. Clark, “Design Rules: The Power of Modularity,” MIT Press, 2000.

Baldwin, Carliss Y., Kim B. Clark, “Design Rules: The Power of Modularity,” MIT Press, 2000.
(邦訳:安藤晴彦訳,『デザイン・ルール―モジュール化パワー―』,東洋経済新報社, 2004)

【要約】
本書は、複雑適応系の型に従いながら、設計と産業に関する独自の進化理論を構築する。
第Ⅰ部では、理論の対象範囲と基礎的要素の定義を行う。第2章では、対象となる構造は、人工物、設計、設計プロセスにより構成されることを定義する。設計と設計プロセスは細部構造を持ち、より小さな分析単位に分解できる。第3章ではモジュール型の設計と設計プロセスについて扱う。モジュール化を、パラメータ、タスクや人々からなる集合の要素間に存在する特定の関係パターンであると定義する。モジュール化の本質である入れ子状に重なった階層ブロックという特徴的なパターンは、多くの異なる状況において現れる。人工物の「設計のモジュール化」を他の「生産のモジュール化」、「使用のモジュール化」と区別する。最終的には、包括的デザイン・ルールの集合を構築する。第4章では、設計と設計プロセスが依拠する広範な経済的環境を分析する。資本市場経済は、価値創造企業に対して大きな経済的報酬を与えるため、設計をより高い市場価値の方向に引っ張り上げる側面がある。設計のモジュール化(設計と設計の観察可能な特徴)は、設計の変更メカニズムを劇的に変える。モジュール型設計は、実質的に新たな一連のモジュール化オペレータを創り、それが設計全体を高めるための道筋を開く。第5章では、モジュール化オペレータとして、「分離する」、「交換する」、「追加する」、「削除する」、「抽出する」、「転用する」の6つを定義する。モジュール型設計の複雑な変更の多くはこれらのオペレータの組み合わせとして表現できる。
第Ⅱ部では、第Ⅰ部のフレームワークに基づいて、コンピュータ史の詳細を分析する。第6章では、先モジュール化時代(1944-1960)における設計を分析し、モジュール化の祖先を見出す。第7章では、初のモジュール型コンピュータであるIBMシステム/360について分析する。システム・アーキテクトたちは、最初にデザイン・ルールの明示的な集合を通じて設計を分割し、それらのルールを前提に管理システムを作り、その結果、華々しい経済的成功を収めた。第8章では、その実現のために「広範な統制」と呼ばれるIBMが開発した契約構造について扱う。
第Ⅲ部では、経済的価値を追求するための設計進化プロセスについて扱う。第9章では、設計オプションと設計進化の概略について述べる。第10章では、分離と交換に関する分析を行う。第11章では、モジュールごとに複雑さ、可視性、潜在的技術力が異なる場合にまで理論を拡張する。第12章では、DECに着目し、削除と追加のオペレータをどのように活用したかを分析する。第13章では、UNIXを事例に抽出と転用の分析を行う。
第Ⅳ部では、設計の構造とそれを実現するための経済的構造に関する分析を行う。第14章では、設計と産業構造の結合関係を支配する推進力のマップ化とその分析を行う。第15章では、システム/360のプラグ互換周辺機器の開発を用いて、隠されたモジュール間の競争のダイナミクスをモデル化する。

【コメント】
 今週は風邪を引いてしまったため、今回の課題はあまり深く読み込めず、表面的な理解になってしまいました。ごめんなさい。夏休みに再度読んでフォローします。モジュール化を今まではアーキテクチャデザインの効率性という観点から捉えていたが、経済的価値による影響を受けるという視点を本書を読むことにより、加えることができた。   (牧 兼充)

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Baldwin(2000)

Baldwin, Carliss Y., Kim B. Clark, “Design Rules: The Power of Modularity,” MIT Press, 2000. (邦訳:安藤晴彦訳,『デザイン・ルール―モジュール化パワー―』、東洋経済新報社, 2004)
人間の行為は必ずしも意図され、予測されたものではないが意図的な行為に産物は設計されたものである。設計は特定の機能を発揮する「物事」を創造するプロセスであり、人間の知能と努力の産物で「人工物」と呼ばれる。人工物は進化する。特に、この本が対象にする人工物は20世紀後半に出現した電子計算機(コンピュータ)である。コンピュータは機械の内部構造における電流のオンとオフの点滅パターンによって意味づけられたものが本質で触ることのできない人工物である。設計はある人工物を完全に記述することである。設計パラメータとも呼ばれる、より小さなユニットに分解できる。設計タスクとは人工物が備える「設計パラメータ」を選択することである。「設計構造」は、設計パラメータとパラメータ間の物理的・倫理的な相互依存性を示す一覧表を意味し、設計プロセスの「タスク構造」とは設計を完成させるために行うべきタスクと複数のタスクの結びつきを示す。
モジュール化は、複雑なシステムを取り扱う多くの分野において、有益と認められている概念である。 モジュール化には①モジュール内では相互依存時、モジュール間では独立している、②「抽出」「情報を隠す」「インターフェース」という特性がある。モジュールとは、構造的には互いにと独立しているが、一緒になって動くシステム中の単位である。また、ある複雑なシステムは複雑なシステムを壊さずに小さな部分に分割し、別々で管理ができる。すなわち、単純なインターフェースを持つ個別の抽出を定義することで、その複雑性を隔離できる。抽出によって要素の複雑性が隠される。つまり、モジュール化の概念は、デザイン・ルール、独立したタスク・ブロック、きれいなインターフェース、入れ子状の階層、隠された情報と可視情報の分離によって設計理論の重要原理の集合を補っている。これらは総体として複雑な設計を完成させあるいは複雑な人工物を構築するのに用いられる知識や特定のタスクを人間が管理できるよう分割する手段を提供する。
このような概念をもとにしてモジュール化の創造や設計進化モジュール・クラスターに関して論じられている。モジュール型設計は非集権化した「設計進化」を可能にする。また、先進的な資本市場が存在するときには、モジュール型設計は非集権化した「産業進化」も可能にする(あるモジュール型設計をもつ人工物が、ある先進的な資本市場をもつ経済で創造されたとき、モジュール設計それを平行して、モジュールの周囲に組織される企業や市場からからなる下位産業村が出現し、進化する。これがモジュール・クラスターである。)結局、進化するモジュール型設計のバリューは潜在的な利害関係者の間で異なる多数の方法でバリューの分配は可能である。
<コメント>
モジュール型の設計及び進化による非集権化した産業進化が可能にすることは、企業組織ごとの非集権化した自律・分散型の組織へも影響を及ぼすのではないかと思う。非集権化した産業構造が有効であるためには産業構造の構成要素である企業組織も変化していかざるを得ないと思う。それを企業側が如何に受け入れられるのかは企業の経営革新意識の問題につながることだと思う。                                   <池銀貞>

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