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2005年06月16日

Baldwin, Carliss Y., Kim B. Clark, “Design Rules: The Power of Modularity,”MIT Press, 2000.

Baldwin, Carliss Y., Kim B. Clark, “Design Rules: The Power of Modularity,”MIT Press, 2000.
(邦訳:安藤晴彦訳,『デザイン・ルール―モジュール化パワー―』,東洋経済新報社, 2004)

 本書では経済システムの根本に変化を与える推進力(フォース)とは何かを理解し、変化が創造する“チャンスとリスク”を把握しようとしている。推進力はあくまで人の行いの結果である。すなわち設計という、特定の機能を発揮する「事物」すなわち人工物を創造するプロセスである。製品、テクノロジー、企業、マーケットの相互が絡みあいながら次第に進化した一つの複雑適応系とも言うべき産業の変遷によってもたらされる。20世紀後半の半世紀に出現し、驚異的発展を遂げ、高度に複雑な人工物であるコンピュータを理解し、この物語を説明しうる、設計の進化と産業の発展の進化理論の構築しようとしている。
 コンピューター関連産業は70年代と80年代の間に、IBMが支配する高度に集中された産業から細分化され、非統合型で独立した企業からなるモジュール・クラスターに変化した。複雑な人工物の異なる部品(モジュール)毎にエンジニアリング・デザインすることで、相互に分離された専門集団によって設計することができる。モジュール化の本質は、重要な意思決定を先に延ばし、後になって改定する「選択肢」を設計者たちに与えることとなる。その中で、先延ばしにできない、初期時点においていくつか行わなければならない厳格な意思決定が「デザイン・ルール」となる。モジュール型システムの特長はある設定の中で最高の価値となる構成を得るために、その構成要素を組み合わせられることであり、上手に構築されれば、多数の異なるパーツに調和をもたらすのである。
 2章では、マグカップやラップトップコンピュータを例に「構造」と「機能」の面から設計の作業を捉え直している。加えて、設計者の抱く「価値」の変化が、変更のための労力より高いのであれば、設計者は新しい設計を試すことになることを指摘している。4章では、「価値」の推進力が設計者の頭の中で生まれ、製品市場で拡大され、資本市場の存在によってさらに拡大される経済システムに中にあることを述べている。最終的に、技術的な知識と経営上の知識の双方を含む「誘導技術」によって、隔離された事業体同士を調整するよう導かれるのである。5章では、組合せによって、設計の過去・現在・未来のすべてを分類しうる「モジュール化するための6つのオペレータ」を示している。すなわち「分離」「交換」「追加」「削除」「抽出」「転用」の6つである。
 第Ⅲ部ではモジュール型設計を「6つのモジュール化オペレーターに」「埋め込まれている有益なオプションを求める」「多くの設計者達による」「(中央に相談せず自由な)非集権的な探求」によって進化するというものと捉えている。そうした新たなモジュール設計は新たなシステム設計を創造可能とし、イノベーションの連鎖を生じさせ、最終的には多様で絶えず変化するシステム設計の集合となっているとしている。9章では、そうした進化は基本的に経済的現象であり、主体の価値探求活動としてだと理解していると主張している。10-13章では、6つのオペレータの経済的な価値の数学的モデルを構築し、どのような経済的な価値が創造されるかを各論している。
 14,15章では、先進的な資本市場では、「設計進化」のとどまらず、受け皿となる下位企業群や市場をも出現する「産業進化」が起きることを述べている。こうした「モジュール・クラスター」では非集権化と拡大が起き、同時に同一企業内に縛りがちになるエージェンシーコストの推進力が減少すると述べている。互いに連関するようになり、外部や内部との連携を円滑化するように動いていくのである。

【コメント】「モジュール化による選択肢の創造」と「より高性能を発揮するためのコンポーネントの統合」のたゆまない繰り返しという内容が印象に残った。営利ではないが、国家機能の細分化、小さな政府に向けて、これらの議論、特に6つのオペレータがどう活かせるのか、どうあてはまるのかを考えてみたいと思う(修士1年 脇谷康宏)。

投稿者 student : 2005年06月16日 09:32

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