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2005年06月02日

THE SCIENCES OF THE ARTIFICIAL ーシステムの科学ー

 人間によって合成される人工物を自然と対義語的に理解したとき、その機能、目標、適応によって特徴づけられ、人工物はそれ自体の中身と組織である「内部」環境と、人工物がその中で機能する環境である「外部」環境の両者の接合点「触面(interface)」として理解できる。人工物における存在理由は環境への適応で、内部システムは異なっていても同じ目的を果たすことが可能であり近似しうる物ととらえることができる。
 経済的合理性が果たす役割の一つは、希少なものの配分、つまり適応機構である。合理性というシステムは現実に近づくごとに正しい行為の代替案を見つけること(実質的合理性)から、よい行為の代替案がそこにあるかを計算する方法の発見(手続き的合理性)へと移ってゆく。つまり、人工物はデザイナーの存在を示唆することになる。これは同時に思考する人間の目標は内部環境の外部環境への適応であるともいえる。
 デザインの過程を理解するには、人間知性の働き方や人間合理性の限界を検討することが必要となる。人間の認知過程の科学的説明はいくつかの要素で記述することができ、①内部環境におけるパラメタ、②課題領域における制御と探索指示のメカニズム、③環境への適応の為の学習と発見のメカニズムである。この上で人間の内部環境は単純であり、その複雑さは五感を通じて理解される世界と記憶装置に貯蔵された世界に関する情報という外部環境に起因する物として結論づけた。ここから社会制度も含めた環境からの人工物デザインとは、行動の複雑さの根幹をなしているといえる。
 複雑性という概念は複雑なスィステム自体の理解に加え、複雑さそれ自体への興味を示唆する。複雑性の構造を形成過程に必要な要素は階層性である。階層性は安定した中間状態を持つということに同意で、実際に自然の中における複雑なシステムにおいて顕著である。階層は行動を単純化する、準分解可能性をもち、複雑なシステムの単純化とシステムの発達や再生産に必要な情報の貯蓄にとって有用である。

■ コメント
 人間が自己意識をもつことにおいて他の動物と異なっているという説に納得していたが、記憶装置をも外部環境と考えたときに他の動物と同じく単純な内部環境をもつと考えることは興味深かった。あらゆる事物は自己を保持する為に環境に適応することを目的とすると述べられていたが、環境に適応する術がデザインであるとき、人工物デザインであっても自己組織化であっても大きなスケールでは同じ意味なのかもしれない。また普遍性を発見しようとすることはある階層を選択することで意味を持ち、この階層の選択が科学において重要なことだと改めて感じた。(小池由理)

投稿者 student : 2005年06月02日 08:19

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