2005年06月02日

Herbert A. Simon, “The Science of the Artificial, Third edition”, The Massachusetts Institute of Technology, 1996. (稲葉元吉・吉原英樹(訳),『第3版 システムの科学』,パーソナル・メディア,1999年.)

Herbert A. Simon, “The Science of the Artificial, Third edition”, The Massachusetts Institute of Technology, 1996. (稲葉元吉・吉原英樹(訳),『第3版 システムの科学』,パーソナル・メディア,1999年.)

 本書では、自然科学と対置して、人工的な物体と現象に対する知識の体系、すなわち人工科学について論じている。人工的」であるということは、そのシステムや部品が、自然と正反対の性質をもっているということではなく、人間によって合成され、外見上は自然物を模倣していても自然物の実質を欠いており、その機能、目標、適応によって特徴づけることができるということである。
 人工物は、それ自体の内容と組織である「内部」環境とそれが機能する周囲の「外部」環境の接合点、今日でいう「インターフェイス」だということができる。内部環境と外部環境とが相互に適していれば,人工物はその意図された目的に役立つといえる。
 1章では人間行動は目標に適応させられ,それゆえにこそ人間行動は人工的であり,その適応力を制約するシステムの特徴だけを表している、との命題を立てている。本物(自然物)を模倣することを、単純化・抽象化・理論化とし、シミュレーションの有意性を取り上げ、続き、人工物の代表格、記号システムの最たるコンピューターの重要性を述べている。
 2章では「知能とは記号システムのはたらきに他ならない」という仮説のもとに、「経済学は、人間の行動と人間社会の働きとのなかに、様々なかたちで表れている人間の合理性を讃える科学」であるとし、意思決定の内容の合理性のみならず、意思決定のプロセスにも関心を持たねばならないことを指摘している。
 3章では、人間の知性についての合理性の限界と共に、知的行動を行えるコンピュータープログラムをつくることによって人間知性の働き方について検討している。仮説として、一つの行動システムとしては人間はきわめて単純で、行動の複雑さは外部環境の複雑さに起因していることをあげ、実験により示している。
 4章では、人間の思考活動の記号性のを証明しており、これにより2章の仮説を、3章で十分条件、4章で必要条件を満たしている。
 5章では、前2章が人間の生物学的内部環境と人間との関係を扱った一方で、人間がそこで生存し、目的を達成しようとする複雑な外部環境と、人間とのかかわりに関する章としている。探索の一般理論としてデザインの理論を捉えており、あらゆる問題を解決し、選択し、合成し、意思決定することを任務としているあらゆる専門家を全体的に訓練するための自然科学の補完的役割としての重要性を述べている。
 6章では、社会的な規模における人工物のデザインにおいて述べている。大規模なデザインには時間的・空間的な限界があり、進化の過程においては、予測制御と共にシステムを短期的に外界からの影響から守るホメオスタシスのメカニズムと、変化に対応する事後的なフィードバックのメカニズムの2つの補完的メカニズムの重要性を述べている。
 7章では複雑性の概念は、初期には全体論として、やがてフィードバックとホメオスタシスに焦点が当てられたが、現代は、複雑性をつくり、それを維持するメカニズムや、解析するための手段に関心があてられている。複雑性が単純性から発展していくであれば、全体物としての自然的対象は、分割可能なシステムとして、下位システムから成り立つものには、階層的システムとして捉えれるとしている。

<コメント> (脇谷康宏)
複雑性の概念を含め、全ては理論化できる(……はず)、といったまさに科学的な意思を感じる。6章をどちらかといえば、政策形成のパートとして読みました。今更ながら、政策って科学性に気づかされました。

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THE SCIENCES OF THE ARTIFICIAL ーシステムの科学ー

 人間によって合成される人工物を自然と対義語的に理解したとき、その機能、目標、適応によって特徴づけられ、人工物はそれ自体の中身と組織である「内部」環境と、人工物がその中で機能する環境である「外部」環境の両者の接合点「触面(interface)」として理解できる。人工物における存在理由は環境への適応で、内部システムは異なっていても同じ目的を果たすことが可能であり近似しうる物ととらえることができる。
 経済的合理性が果たす役割の一つは、希少なものの配分、つまり適応機構である。合理性というシステムは現実に近づくごとに正しい行為の代替案を見つけること(実質的合理性)から、よい行為の代替案がそこにあるかを計算する方法の発見(手続き的合理性)へと移ってゆく。つまり、人工物はデザイナーの存在を示唆することになる。これは同時に思考する人間の目標は内部環境の外部環境への適応であるともいえる。
 デザインの過程を理解するには、人間知性の働き方や人間合理性の限界を検討することが必要となる。人間の認知過程の科学的説明はいくつかの要素で記述することができ、①内部環境におけるパラメタ、②課題領域における制御と探索指示のメカニズム、③環境への適応の為の学習と発見のメカニズムである。この上で人間の内部環境は単純であり、その複雑さは五感を通じて理解される世界と記憶装置に貯蔵された世界に関する情報という外部環境に起因する物として結論づけた。ここから社会制度も含めた環境からの人工物デザインとは、行動の複雑さの根幹をなしているといえる。
 複雑性という概念は複雑なスィステム自体の理解に加え、複雑さそれ自体への興味を示唆する。複雑性の構造を形成過程に必要な要素は階層性である。階層性は安定した中間状態を持つということに同意で、実際に自然の中における複雑なシステムにおいて顕著である。階層は行動を単純化する、準分解可能性をもち、複雑なシステムの単純化とシステムの発達や再生産に必要な情報の貯蓄にとって有用である。

■ コメント
 人間が自己意識をもつことにおいて他の動物と異なっているという説に納得していたが、記憶装置をも外部環境と考えたときに他の動物と同じく単純な内部環境をもつと考えることは興味深かった。あらゆる事物は自己を保持する為に環境に適応することを目的とすると述べられていたが、環境に適応する術がデザインであるとき、人工物デザインであっても自己組織化であっても大きなスケールでは同じ意味なのかもしれない。また普遍性を発見しようとすることはある階層を選択することで意味を持ち、この階層の選択が科学において重要なことだと改めて感じた。(小池由理)

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H. A. Simon

H. A. Simon, “The Sciences of the Artificial”, 3nd ed., MIT press, 1996.
(邦訳:稲葉元吉・吉原英樹、『新版システムの科学』、パーソナル・メディア、1999年)
第1章では、自然科学は不思議なことをごく当たり前のことにすることであり、科学は不思議なもの複雑なものを、不思議さを減らすことなく、理解可能なもの単純なものにすることであると述べている。それに、人工物は①人間によって合成される、②外見上は自然物を模倣しているかもしれないが自然物の実質をかいている③その機能、目標、適応によって特徴づけられる、④とくに、それが設計されているときには記述法のみならず命令法によっても議論されることが多いという4つのことから自然物から区別することが可能である。 その代表的な人工物としてコンピュータ(記号システム)を例としてあげ、環境への適応が存在理由のすべてであることを述べている。2章では、経済学の例をあげ企業が手続合理性(知識や計算を通じ、適切な適応行動を見出していくシステムの能力)を達成するための手法としてオペレーションズ・リサーチ(OR)と人工知能(AI)を紹介している。しかし、その知識や計算能力の限界によって人の満足化などの人間性の問題は取り扱いにくいのである。3章(思考の心理学)と4章(記憶と学習)の認知心理学では思考する存在の内部環境に「固有」な諸特性のうち、問題環境の形に思考が適応していくのを制約するようなものはごく少数であるということの論拠を指摘し、思考行動や問題解決行動に含まれている他の一切の事柄は-学習されるという意味で、また改善されたデザインの発明を通じて改良が加えられていくという意味で-人工的であると述べている。
デザイン理論を構成する諸要素のことを示し、またデザイン理論及び経験に関係のある実質的な知識体系が存在していることをしながらデザイン理論は探索の一般理論であることを5章で説明している。それが6章では、進化する人工物のデザイン、社会計画の話にいたる。社会計画の設定過程においての以下のような6つのトピックスを示している。①限定された合理性(環境の複雑さが適応システムの計算能力もはるかに大きい状況下での合理性)②計画設定のための「データ」(予測方法、制御過程における予測とフィードバックの使用③顧客の識別④社会計画における組織(社会計画は、主に組織内部の人によってつくられるが、それと同時にその社会計画の重要目標が、一般の社会組織や特定の個別組織を作ったり変えたりする)⑤時間的・空間的視界(時間の割引、進歩の定義、注意の管理)⑥究極目的のないデザイン活動(将来の柔軟性のためのデザイン、目的としてのデザイン活動、進化するシステムのデザインの過程。
7章と8章は複雑性、特に複雑性の階層的なシステムを述べている。階層は行動を非常に単純化する特性(準分解可能性の特性)をもち、複雑なシステムの記述を単純化し、そのシステムの発達や再生産に必要な情報がいかにして適度に貯えられるのかということの理解を用意にする。
<コメント>
普段、創造的な知識活動という人間の思考過程および意思決定過程も人工物であり、その構成は単純なものでありえることを示していると思う。しかし、著者が生理学をふれてないように、人間の人間性の問題はいまだにきれいに説明できない。というのは人間が人工物のように情報処理システムの過程を行なっていても人間の処理過程には人間性が入っている可能性もありえると思う。                                <池 銀貞>

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Simon, Herbert A., “The Science of the Artificial,3 rd ed.,” The MIT Press,1996.(邦訳:稲葉元吉・吉原英樹(訳)、『システムの科学 第3版』、1999年.)

■概要
第1章(自然的世界):我々が生きている世界は、人工的世界で、特に「記号」と呼ばれる人工物から成り立つ。デザインは人工物をその内部環境と外部環境の接面(interface)からみることを目的とし、人工物は内部環境を外部環境に結びつけることで目標を達成する。内部環境(システム)が正しく設計されるならば、それは外部環境に適応したものになる。
第2章(経済的合理性):経済学は、人間行動の人工的側面を示し、希少なものを配分することを中心課題とする。正しい行為の代替案を見出す(実質的合理性)のではなく、良い行為の代替案がどこにあるかを計算するその方法の発見(手続的合理性)を追求する。現実の世界で最適化は不可能であり、十分良好な代替案を受け容れる、満足化を追求する人(satisficer)が必要。人間の情報処理能力には限界があり、市場と組織は、行動の調整を容易にすると同時に、複雑かつ大量の情報を処理する人間の能力を保存する社会的仕組みとなっている。
第3章(思考の心理学)、第4章(記憶と学習):1つの行動システムとして眺めると、人間はきわめて単純なもので、その行動の経時的な複雑さは、主として彼が置かれている環境の複雑性を反映したものに他ならない。人間の認知過程は3つの段階でとらえられる。第1が情報処理能力で、内部環境に関するパラメータ1)アイテム数で推定された短期記憶の容量(7チャンク)、2)アイテムを長期記憶に固定化するのに要する時間(8秒)といった制約から説明される。第2が理解のプログラムで、外部世界から情報を入手しリスト構造として長期記憶に貯蔵されていく知識に変換する一般的な制御と探索指示のメカニズム。第3がシステムが特定の環境に次第に効果的に適応できるようにする学習及び発見のメカニズム。
第5章(デザインの科学):現在の状態をより好ましいものに変えるべく行為の道筋を考案するものは、誰でもデザイン活動をしている。デザインの評価に関する評価理論、計算方法等、「デザイン理論」が存在する。ただし重要なのは、あらゆる文化の構成員の共有されうるような共通の知識の核であり、コンピュータの登場により、知的領域間のコミュニケーションが増大した。即ち、デザイン活動、あるいはデザイン過程に参画するためにコンピュータを使うことが、諸分野を越えて意志疎通しうる(共通の場がある)状況を生みだした。
第6章(社会計画):社会をデザインするためには、さらにいくつかのトピックス(限定された合理性、顧客の識別等)を考慮する必要がある。社会計画の目的は、次回以降の初行為のために初期条件を設定すること、次世代の意志決定者に今よりもよい知識体系とより多くの経験能力を残すことである。
第7章(複雑性に関する諸見解)、第8章(複雑性の構造):複雑系を現代社会の主要な特徴ととらえ、我々が自然界で観察する複雑なシステムの大部分は階層的な構造を呈していること、階層はその行動を単純化する特性(準分解可能性)を持ち、それが複雑なシステムの記述を単純化し、そのシステムの発達や再生産に必要な情報がいかにして適度に蓄えられるのかという理解を容易にすると指摘する。

■コメント
人工物を、経営学、心理学、デザイン等、多様な観点から論じている。特に、実体的な装置としての記号システムであるコンピュータが、複雑な外部環境の中で諸分野を超えて意志疎通しあう場を提供しているという指摘が興味深かった。コンピュータ(広義にはネットワークも含むだろう)を道具として用いながら、コンピュータに代表される人工物によってもたらされた内部環境を、外部環境に適合させていくことが、デザインであるといえる。ただしこれを自身の研究にあてはめる場合、第2章の例示(外部環境:他の行為者、起業、市場、経済などの諸行動、内部環境:個人、企業、市場、経済が持つ目標と合理的適応的な行動をなしうる能力)程度には分析単位を明確にしたうえで、接面は何かを明確にする必要があり、これは今後の課題である。         
(2005年6月3日 高橋明子)

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2005年06月01日

Simon, Herbert A., "The Sciences of the Artificial", 3rd ed., MIT Press, 1996.(邦訳:稲葉元吉・吉原英樹、『新版システムの科学』、パーソナル・メディア、1999年).

Simon, Herbert A., "The Sciences of the Artificial", 3rd ed., MIT Press, 1996.(邦訳:稲葉元吉・吉原英樹、『新版システムの科学』、パーソナル・メディア、1999年).

【要約】
 本書は、人間によってつくられた「人工物」の体系を論じたものである。人工物は、人工物それ自体の中身と組織である「内部」環境と、人工物がその中で機能する環境である「外部」環境に区分けすることができて、その両者の接合点を「接面」(interface)と呼ぶ。この接面から機能的記述を行うことにより、人工物を捉えることが可能である。具体的には、システムの目標と外部環境の知識があれば、内部環境に関する最小限の仮定をおくだけで、そのシステムの行動予測が可能となる。外部環境の知識とは、進化論的生物学では自然淘汰であり、人間行動科学では合理性である。コンピュータを含めた多くの人工物は、記号システムの発展系であり、人間はこの記号システムを介して認知を行う。
 社会システムにおける人工物として市場と組織がある。このメカニズム分析を行うと、外部環境における前提である合理性のみでは説明できないことが多数ある。これは、人間が合理性を追求する場合に、現実的に全ての選択肢を選ぶことができない場合には「十分良好な」代替案を選択するからである。このことは人間の認知限界が人工物のデザインにおいて制約となることを示す。
 人間を1つの行動システムとして捉えると極めて単純である。行動における複雑性は、内部環境ではなく外部環境に起因する。人間の認知システムは基本的に直列に働き、記憶は連想的に組み立てられている。短期記憶は7チャンクに限られており、チャンクが定着するまでに8秒かかる。人間の長期記憶には限界がない。直感とは、長期記憶の検索結果による判断である。学習とは、環境適応能力に多少なりとも永久的な変化を生み出すような、システムにおける変化のことである。
 専門家活動の多くは科学であり工学ではないため、「望ましい性質をもった人工物をいかにつくり、またそれをいかにデザインするか」、という「デザインの体系」を構築していく必要がある。具体的には、1)デザインの評価のための「評価理論」、「評価方法」、「デザインの形式論理」 2)代替案の探索のための「発見的探索」、「探索のための資源配分」、「構造の理論およびデザイン組織化の理論 (階層システム)」、「デザイン問題の表現」、などである。
 社会計画におけるデザインは、通常のデザインの科学に比べて、「限定された合理性」、「計画設定のためのデータ」、「顧客の識別」、「社会計画における組織」、「時間的・空間的視界」、「究極目的のないデザイン活動」などの視点を加えなくてはならない。
 複雑性は、システムの主要な特徴であり、その諸理論は人工物のデザインに有益な場合がある。具体的には、カオス、遺伝的アルゴリズム、セルラーオートマトン、カタストロフィ、階層システムなどである。
 複雑なシステムにおいては、階層構造という共通性が見られる。複雑性が単純性から発展していく過程においては、複雑なシステムは階層的になりやすい。階層はその行動を単純化する特性「準分解可能性」を持ち、複雑なシステムの記述を単純化し、システムの発達や再生産に必要な情報を提供する。

【コメント】
 SIVというインキュベーション・プラットフォームのアーキテクチャ・デザインのための有益な知見が多数含まれていた。SIVは階層構造ではなく「準分解可能性」が低いため、人間の認知能力の限界への対応が不十分である。また内部と外部の特性の定義も不明瞭である。本書に基づいて、全体の再設計を行う必要がある。
 なお、私は文献を読むときは、エッセンスとその相互関係(外部環境)のみを理解し、そのエッセンスの説明(内部環境)は必要に応じて理解するようにしている。本書は、章ごとの「準分解可能性」は高かったが、章内の「準分解可能性」は低く、理解が困難な部分が多数あり、認知限界を超えた。「システムの科学」という文献自体を人工物と捉えた場合には、デザインに失敗しているように感じた。 (牧 兼充)

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