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2005年07月04日

Checkland, Peter B., “SYSTEMS THINKING, SYSTEMS PRACTICE,” John Wiley & Sons, 1981.(高原康彦・中野文平(監訳)、飯島淳一・木嶋恭一・佐藤亮・高井徹雄・高原康彦・出口弘・堀内正博(共訳)、『新しいシステムアプローチ-システム思考とシステム実践-』、1985年.)

■概要
本書は、還元主義的科学では説明しきれない複雑性を理解するための全体論的アプローチ、システム思考について述べたものである。我々がおかれている状況を理解するのに有効な方法の一つは、西洋文明の文化的発明である科学的アプローチ、即ち還元主義、再現性、反証可能性を使うことだ。ただし諸科学は、物理学、科学、生物学、心理学、社会科学という序列で、後者ほど複雑性を増し、複雑性があるレベルになると創発的性質が生じ、下位レベルのものでは説明しきれなくなる。そうした複雑性を理解するためのシステム思考は、創発性、階層性、通信(コミュニケーション)と制御を二対の中心概念とする。
システムには自然システム、人工的物理的システム(ハンマー、路面電車、ロケット)、人工的抽象システム(数学や詩、哲学)、人間活動システム(合目的的purpositive人間活動の集合)がある。人間活動システムは前3者と異なり、人間が設計、改善(工学)するもので、人間行為者が知覚したものにどのような意味づけを行おうと自由であり、単一の検証可能な解釈はありえない。社会システムは自然システムと人間活動システムの境界に置かれる。
現実世界問題の状況を、工学概念を使い改善する方法として、既知の目的を実現するために代替手段間の選択を行うシステム工学や、ランド社が開発したシステム分析が模索されたが、ハードなシステム工学は、構造化されていない現実世界の問題(ソフトシステムズ)にはうまく適用できない。
ソフトな人間活動システムでは、研究者が調査対象の外の観察者としてとどまらず、関連したグループの参加者となる。研究者は行為の参加者となり変化の過程それ自体が研究題目になる(170p)。また問題とは何かということ自体が研究の一部であり、問題の認識は常に主観的で時間とともに変化する。方法論は、7つのステップからなる。①②認知された問題が置かれている状況(問題自身ではなく)を、構造概念と過程概念、その関係によって表現する。③この調査を背景に、問題を解くあるいは改善することに関連するシステムの候補集合を作成。問題の核心部分に対して適切と思われる特定の観点で一つの全体を観る(=根底定義)を行い、この観点から論理的にシステム的帰結を導く。根底定義は、システム分析者と問題所有者が実行可能で望ましいとみなす変革を実施した場合の、問題状況の最終的改善に関する仮説群(問題が何であるか)である。④根底定義に対応して人間活動システムの概念モデルがつくられる。概念モデルは活動システム(システムが行わなければならない活動)のモデルで故に構成要素は動詞である。⑤できあがった概念モデル(④)と現実世界の問題状況で実際に観察されたもの(②)とを比較する。⑥比較段階で改革案(あるシステムの製作・実現)について論争が起きる。論争の目的は改革案が望ましく実行可能であるか、システム論的に望ましく文化的に実行可能であるかという2点である。⑦最後に改革案の実施が現在の問題の新しい定義となり①に戻る。以上のステージのうち、①②⑤⑥⑦は現実世界の活動で、③④はシステム思考レベルの活動である。また知覚(①②)、賓述(③④)、比較(⑤)、行為決定(⑥)という基本的精神活動がシステム論の考えを使って定式化されている。①~⑦は順序だてて行う必要はない。この方法論で人間活動に意味づけを行うが、それは根底定義の世界観(観察者の世界観)の下で(のみ)意味を持つ。人間システムを表現する単一の記述は存在せず、異なる世界観を体現する1組の記述だけが存在する。
ソフトシステムズ方法論の性質は、a)根底定義にCATWOE(customer、actor、transformation process、Weltanschauung、owner、environmenal constraints)を含む。b)根底定義では組織体の基本課業を表現可能、c)分析レベル(Whats、hows)の明確化、d)社会システムを役割の集合と役割を判断する価値観の集合とみなすと、構造と過程がわかる、e)奉仕されるシステムの定義とモデルが、求めるシステムの定義とモデルに先んじて必要。f)問題解決、問題内容システムの2システムを含む。
ソフトシステムズ方法論は、定義が明確でない現実世界問題と取り組むためのシステム論に基づく方法論で、問題があると考えている人が少なくとも一人はいる状況の中に新しい知見を見出すシステムである。社会の実在は所与のものではなく過程であり、絶えず新しい社会的世界が構成メンバーにより創造される、学習のシステムである。
■コメント
 現実社会の問題のなかに新しい知見を見出すため、研究者も行為の参画者となり、研究者の世界観で問題をモデル化するアクションリサーチのアプローチを宣言している。自身の研究はこの方法論以外にない。実際の研究設計をソフトシステムズアプローチに即して見直したい。(2005年7月3日高橋明子)

投稿者 student : 2005年07月04日 02:18

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