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2005年07月14日

Hevner,March,Park and Ram, “Design Science in Information Systems Research,”
Benbasat,Zmud, "The Identity Crisis within the IS Discipline: Defining and Communicating the Discipline's core properies,"

Hevner, Alan R., Salvatore T. March, Jinsoo Park and Sudha Ram, “Design Science in Information Systems Research,” MIS Quarterly, Vol. 28, No. 1, 2004, pp.75-106.

■概要
IS分野のリサーチの多くは行動科学(behavioral-science)と設計科学(design-science)の2つのパラダイムで特徴づけられる。前者の目的は真実の探求で、人間や組織行動を説明したり予測する理論を発展させたり、正しいことを確かめるものだ。後者の目的は有用性で、新しくイノベイティブな人工物を創り出すことによって人間や組織の能力の限界を拡張することをめざす。すなわち設計科学では、知識や問題領域の理解やその解決方法は、設計された人工物により達成される。IS研究は行動科学と設計科学のパラダイムを結びつけるもので、ビジネス戦略と組織的インフラ、IT戦略とISインフラの相互作用を扱う(図1)。
本論の目的は、IS研究を理解、実行、評価するための「フレームワーク」や「ガイドライン」を通じて、IS研究における設計科学の効果を記述することである。
IS研究の「フレームワーク」は図2で提示される。IS研究の問題領域として定義される『環境』(人々、組織、技術)があり、組織内の人々により認知されたビジネスニーズが存在する。『IS研究』は、ビジネスニーズに対し、行動科学の理論を発展/設計科学の人工物を構築するフェーズと、様々な方法でそれを正当化したり評価するフェーズから成る。『知識ベース』は、基礎的な事象や方法論から構成され、IS研究に応用可能な知識を提供する。行動科学・設計科学のIS研究における貢献は、それらがビジネスニーズに応用されたときや未来の研究に対するナレッジベースの内容を付加したときに査定される。ただし理論を正当化する行動科学は、存在しない問題を解くには適していない。他方、設計科学研究は未解決の問題を独特の革新的な方法で扱い、必要な知識をコード化し、ベストプラクティスをつくる。
このように設計科学は本質的に問題解決プロセスであり、研究の基本原則は7つの「ガイドライン」で提示される(表1)。1)人工物としてのデザイン(研究は実行可能な人工物を作り出す)、2)問題の関連性(研究の目的は重要問題の技術的解決策を得ること)、3)設計の評価(人工物の利便性、質、効果は、厳格に吟味された方法で評価される)、4)研究の貢献(効果的な設計科学研究は立証可能で明確な貢献が必要)、5)研究の厳密性(設計された人工物の構成と評価の両面で、厳密な方法論が適用される)、6)プロセスとしての設計(有効な人工物探求は原則に基づいた手段を必要とする)、7)研究コミュニケーション(設計科学研究は、経営、技術の両分野で効果が提供される)。
 続いて、ガイドラインのIS研究への応用について、3つの典型的な論文を選び、7つのガイドラインを説明している。設計科学研究は「新しい人工物はどんな利便性をもたらすのか」「その利便性を現すものは何か」を問うものである。もし既存の人工物で十分な場合、新しい人工物をつくりだす設計科学研究は不要であり、新しい人工物が現実社会を十分に表現しない場合は有効性を持たない。
以上、我々は行動科学と設計科学の両方のパラダイムがIS研究の効果や妥当性を強化するのに必要であることを論じた。IS研究は人間、組織、技術の交差点にある。研究方法の厳密さ、妥当性、分野の境界、行動、技術など、IS研究に蔓延している基礎的なジレンマを解決するうえでも、設計科学のパラダイムは重要な役割を演じるようになるだろう。またISマネージャーは、組織をゴールに導くために、IT人工物の創造、発展、改善などの設計行為に積極的に関与するようになるだろう。今後、設計科学の研究者は、IT人工物の能力とインパクトをマネージャーに与えることに挑戦すべきだ。


Benbasat, Izak and Robert W. Zmud, "The Identity Crisis within the IS Discipline: Defining and Communicating the Discipline's core properties," MIS Quarterly, Vol. 27, No. 2, 2003, pp. 183-194.

■概要
IS研究においては、中心的研究領域がアイディンティティ・クライシスに陥っているが、本稿で筆者らは、なぜIS分野のアイデンティティを確立することが重要なのか、IS分野のコアとなる特質は何か、なぜIS研究者がアイデンティティの確立に失敗してきたのかを説明し、IS領域を定義する現象やコンセプトについて結論する。
Aldrichによれば、新しい分野の研究者は、有効なルーティンやコンピタンスを作り出すこと(learning-issue)、各要素間の結びつきを発見すること(legitimacy-issue)という2つの問題に直面する。IS分野はlearning-issueを解決するには大きな進展をみたものの中心的、核となる特質の欠落から、legitimacy-issueには問題が多い。特にIS研究の学際的性格から、研究者は多様なバックグラウンドを持ち、理論、方法論、テーマが多様化し、定義に多様性が生じるため、認知的なlegitimacy-issueはあいまいだ。
 IS分野のアイデンティティを確立するうえでは2つの問題がある。1点はerrors of exclusionで、IT artifactやelement間に直接的な変数相互の関係(nomological net)がない、すなわち、IS研究のモデルは、IS分野の核となる特性を反映していないことだ。反対に2点目は、errors of inclusionで、IS研究モデルが、他の領域の要素を含むことだ。これは我々の所期の目的であるITの役割を明らかにする研究からフォーカスをずらし、またIS分野に貢献すべきエネルギーを、周辺的な追加理論に費やすことになる。
 つまり我々のリサーチクエスチョンは、ISの現象を理解する活動に焦点をあてるべきだ。

■コメント
Benbasat&ZmudはIS研究の研究領域があいまいなため、研究でもっとも重要な変数間のリンク(相互作用)を無視したり、逆に関連のない要素を取り込んでフォーカスがずれるなど、IS研究のアイデンティティ・クライシスを提唱している。自身の研究分野に即して考えると、「映像情報発信を誰でも行えるようになる」という新たな人工物を研究する際、研究領域があいまいなため、ISとして核となる要素(変数)が研究者ごとに異なり、このことが研究はもとより、実際の現場にも、多義的な価値よりむしろ混乱を生じさせているように感じている。Benbasatらの議論に納得した。
 他方、Hever&Ramの論文では、IS研究を行動科学と設計科学の接点にある意義深いものと位置づけ、両者は相互補完的であるとしつつ、既存理論で解決できないことが多いため、新たな人工物設計により組織や人間の能力を拡張する設計科学が今後は重要性を増すことを説いている。
 自身の研究は、「新たな人工物設計により組織や人間の能力を拡張する設計科学」と位置づけたいと考えるが、同時に、新たな人工物によって変化した人間や組織行動はどのような理論で説明、予測できるか、分野のコアとなる特性や理論的枠組みについても常に考慮することにより、何よりも、現場に貢献する研究を行うことを目指したい。
(2005年7月14日 高橋明子)

投稿者 student : 2005年07月14日 06:51

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