素顔なんてないの
 


そもそも調査を『する人』と『される人』はどのような役割関係にあるのだろう か。常識的には、調査される人は『サンプル』というレッテルをはられて、それに我 慢しなければならない。かれらはサンプルという共有の役割を付与されることによっ て、調査の客体としての地位をあてがわれ、それと対照的に、調査する人は主体とし て調査を制御する権力的な地位を確保する。
ここでは、調査主体の地位はあたかも神のごとく調査される人を天上から見下ろ し、調査される人はその神の存在すら認知しえず盲目的にうつろう、そんな風景が想 定されるだけである。つまり調査される人は、調査そのものには関与することを許さ れず、ただ素材としてじっとしていればいいとされ、調査はすべて主体である『する 人』にまかせておけばいい、という役割関係が形成されている。

サンプルとは沈黙する客体のことであり、調査における主体との実質的な役割関係 を拒絶された存在にすぎない。これが調査の客観性というものである。