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2005年04月28日
第1回講義レビュー
26日(火)の授業を休講にしてしまいまして、申し訳ありませんでした。次回の授業(第3回)は5月10日(火)に開催されます。ゴールデン・ウイークをはさみ、少し授業間隔が空きますので、その間に第1回・第2回の授業レビューをお送りすることにします。ゴールデン・ウイークはすでに多くの予定が入っているかと思いますが、学習の参考にしてください。
【第1回講義レビュー】
「空間横断の安全保障の出現?」:冷戦後と9.11後の安全保障
第1回の講義を簡単におさらいします。第1回の講義では大きく分けて「安全保障とは何か?」「脅威の多元化をどのような座標軸で捕らえるべきか?」「安全保障の『空間軸』『時間軸』が大きく変化しているのではないか?」という3つの問題提起を行いました。
まず冒頭で「安全保障っていったいどんな概念なのか?」というお話をしました。受講者のみなさんも「安全保障」と聞いて「国防」「軍事」といった軍事的イメージを持つ方もいれば、「北朝鮮」「イラク」といった地域情勢だったり、「米軍基地」「自衛隊」といった日本固有の課題だったりと、さまざまな角度からのイメージを持っていると思います。
安全保障をもっとも一般的に捉えると、「何を(価値)、誰が(主体)、何から(脅威)、どのようにして(手段)、誰と(協力関係)守るのか」ということになります(*世界中の学者が「安全保障とは何か?」という多くの定義を試みていますが、定義の蛸壺にはまりがちなので、とりあえずは置いておきましょう)。重要なことは、これらの価値・主体・脅威・手段・協力関係が、時代の変遷によって変化する「ダイナミックな概念」だということです。これらのことを、「安全保障の多元化」というスライドで紹介しています。
その中で「国防」(Defense)という概念から、「安全保障」(Security)の概念への変化が置きた過程に触れました(*この論点に興味のある方は、参考論文<和文>の[4]を参照のこと)。昔も今も「国家」は主要なアクターとして概念の中心に位置しますが、多元化したアクター・脅威・手段をどのように捉え、「安全保障」の政策学へと結び付けていくかが、冒頭の問題提起でした。
さて、次に指摘したのは「多元化した脅威」をどのような座標軸でとらえるか、ということでした。スライドに示したように、横軸として「対称性」「非対称性」をとり、縦軸として「強い烈度」「弱い烈度」をとった場合、現代の安全保障の脅威はどう捉えられるのか。冷戦期までの脅威の態様が、「対称性」「烈度」がそれぞれ高い国際関係(たとえば米ソ対立)が特徴的であったのに比べ、冷戦後・9.11後の国際関係では、「対称性」が下がったアクターが、高い「烈度」で迫ってくる事態を想定する必要がでてきた。こうした第2象限に象徴される事態を「新しい安全保障」の中核にすえた政策の再構成が求められる、というのが第二の問題提起でした(*こうした脅威の分類については、参考論文<和文>の[1][2]を参照のこと)。
そして最後に安全保障の「空間軸」・「時間軸」のパラダイムが、大きく変化していることを指摘しました。「空間軸」の変化を分かりやすく捉えるために、日本の「(日本有事としての)防衛」「周辺事態」「国際貢献」という三つの空間が、上記の脅威の変化によって新しいコンセプトに変化しているといいましたね。この辺、ちょっと分かりづらかっただろうと思います。
2つ例を出しました。1つめは「リージョナル」から「グローバル」への空間シフトです。たとえば従来(1993~1994年)の北朝鮮の脅威は、「北東アジア」という戦域(theater)が中心の脅威でしたが、現在の脅威は長射程ミサイルの開発と、大量破壊兵器の第3国移転の可能性があることにより、「周辺事態」にとどまるような地理空間ではなくなり、より「グローバル」な脅威として出現しつつあります。ここに「リージョナル」から「グローバル」への空間シフトが起きているわけですね。
2つめは「グローバル」から「リージョナル」→「ナショナル」へのシフトですね。たとえば日本は1990年代から国連平和維持活動(PKO)に参加してきたわけですが、その際の基本的な前提は「非戦闘地域」における協力活動であり、それを国内的に担保したのがPKO五原則だったわけですね。いわばそれは、「グローバル」空間と日本の「ナショナル」な空間との「断裂」を前提とした概念だったわけです。ところが、テロリズムの脅威は授業で説明したように「空間を横断」してやってきますから、これにどう政策枠組みとして対処するのか?ということが大きく問われています。
自衛隊のイラク派遣をとってみても、「非戦闘地域」への派遣を前提にしているものの、イラクを破綻国家にせず、テロの温床としないことが、日本の安全保障に資するということを、小泉総理は明言しています。こうした動向に、周辺事態を超えたグローバルな事態が、日本の安全保障と「リンク」する方向性が徐々に形成され、「グローバル」⇔「リージョナル」⇔「ナショナル」という空間を相互横断する安全保障が徐々に出現しているというのが私の見方です(*第1回リーディング・マテリアルの拙著論文で触れていますので、読んでみてください)。
「時間軸」については、従来の紛争発生から収束までのスペクトラムで「平時」(通常の国際関係)→「危機」(緊張の高まった国際関係)→「有事」(戦争状態)→「ポスト・コンフリクト」(戦争終結後の状態)→「平時」というカーブをなだらかに描くイメージをもって、紛争を語ってきましたが、テロの時代になるとずいぶんこの時間軸も変化するということですね。テロリストは「危機」を高めることなく、突然の攻撃に出たり、ポスト・コンフリクトの安定性も得られにくい性質を持っています。ということは、なだらかなカーブが突然上下するような、新しい「不安定な時間」に、われわれの安全保障の概念が置かれているということでしょうか。
今後の授業でも、こうした概念を発展させて考えていきたいと思っています。
では、今回の参考文献・論文について。
【第1回講義に関する参考文献・論文について】
〔リーディング・マテリアル〕
神保謙「新しい日本の安全保障:『専守防衛』・『基盤的防衛力構想』の転換の必要性」坂本正弘・吹浦忠正編『新しい日本の安全保障を考える』(自由国民社、2004年)
〔さらなる学習のために〕(和文)
[1] 田中明彦「21世紀に向けての安全保障」及び「現在の世界システムと安全保障」『複雑性の世界:「テロの世紀」と日本』(頸草書房、2003年)
[2] 山本吉宣「安全保障概念と伝統的安全保障の再検討」『国際安全保障』(第30巻第1・2合併号、 2002年9月)
[3] 納家政嗣「人間・国家・国際社会と安全保障概念」同上書
[4] 佐藤誠三郎「『国防』がなぜ『安全保障』になったのか:日本の安全保障の基本問題との関連で」『外交フォーラム』(1999年特別号、1999年11月)
〔さらなる学習のために〕(英文)
[1] John Lewis Gaddis, ”Grand Strategy in the Second Term” Foreign Affairs (January/Februrary 2005)
[2] Curt Campbell, ”Globalization’s First War?” Washington Quarterly (Winter 2002)
[3] John Ikenberry, ”American Grand Strategy in the Age of Terror” Survival (Winter 2001-2002)
[4] Max Boot, ”The Struggle to Transform Military” Foreign Affairs (March/April 2005)
[5] Christpher Layne, ”Offshore Balancing Limited” Washington Quarterly (Spring 2002)
[6] Jason D. Ellis, ”The Best Defense: Counter Proliferation and U.S. National Security”Washington Quarterly (Spring 2003)
* [1] のジョン・ギャディスは冷戦史の専門家。[2][3]は、米国における9.11直後に専門家がどのように国際安全保障の変化を捉えたかをみるうえで有益。[4][5][6]については、「新しい脅威」に対抗するために国際安全保障体制について「軍事変革」「オフショア均衡」「拡散対抗」といった視点から論じている。
投稿者 jimbo : 2005年04月28日 18:55