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2005年04月29日
第2回講義レビュー
【第2回講義レビュー】
安全保障政策の体系:国防・同盟・多国間安全保障の諸類型
続きまして、第2回(4月19日)の講義レビューです。当日の講義の冒頭では「中国各地における反日デモ」の問題を取り上げました。あまり講義のど真ん中のテーマではないかなと思いつつ、学生から寄せられたコメントには「こうした時事問題を講義で適宜取り上げ、議論するのはSFCらしくて良い」という声もあり、少し安心しました。今後も重要な問題は授業で取り上げていこうと思います。
さて、第2回講義の狙いは、安全保障政策の体系として、どのような枠組みがあるのかを理解することです。ひとくちに安全保障政策といっても、ある国が行う「国防」や、他国と共に防衛する「同盟」、その他多種多様な「安全保障協力」の形態があります。これをやはり、しっかりと類型化して理解することが、基礎学習として大事です。
そしてこのあたりから、安全保障に関するさまざまな専門用語が登場します。皆さんも「専門用語の森」に迷い込むことになりますが、せっかくですからどっぷりつかってみましょう(^-^)。授業ではできるだけ分かりやすい枠組みを用意していますので、ぐっと集中力を高めれば皆さんは枠組みを理解できるはずです。
とはいっても、ちゃんと専門用語を解説してくれる本はないの?と言われそうですね。残念ながら、包括的な安全保障辞典の決定版はないのですが、近著では佐島直子著『現代安全保障用語事典』(信山社出版、2004年)、少し古いですが川田侃・大畠英樹編『国際政治経済辞典』(東京書籍、1993年)は便利な手引きとして使い勝手がいいです。また、最近の多国間安全保障に関する専門用語を解説したものとしては、デービッド・カピー/ポール・エバンズ著『レキシコン:アジア太平洋安全保障対話』(日本経済評論社、2002年)が優れています。もし迷いそうだったら、こうした本をお薦めします。
さて、第2回講義では「安全保障政策の体系」に入る前提として、「個別的・集団的自衛」と「集団安全保障」について学びました。これらの概念については、SFCでの「国際法」や「国際関係論」で学んだ受講生も多いことかと思います。現代の国際社会はむやみに戦争が起こせる体系にはなっていません。1929年の不戦条約から1945年の国連憲章に至るまで、国際社会では「武力行使を違法化」する規範が定着してきました。しかし、国連憲章は武力行使を担保する手段として「個別的・集団的自衛」(第51条)と「集団安全保障」(第42条等)の二つの道筋を残したわけですね。
そして実際、その後の冷戦期を通じて主要国間の戦争を防いできたのは、国連でも集団的措置でもなく、東西冷戦下の同盟関係だったと現実主義派の学者は主張します。前回の参考文献で紹介したジョン・ルイス・ギャディスは『長い平和』という著書の中で、「東西冷戦は、実は歴史上稀に見る主要国間に長い平和がもたらされた時期だった」という主張をしています。こうした論点は、第3回、第4回の授業でじっくり扱うことにしましょう。
まずその上で理解しなければいけないのは、「個別的自衛権・集団的自衛権」の概念と「集団的安全保障」の概念ですね。自衛権が潜在的・顕在的敵性国を外部に持ち、武力攻撃の明確な存在や比例原則(propotionality)の原則に従って行使される概念であることを授業で説明しました。そして「集団的安全保障」は国連のような潜在的・顕在的敵性国をシステムの内部に組み込み、内部における秩序破壊者を集団で制裁する枠組みを指します。後者はちょっと分かりにくいですね。それもそのはず、「国連軍」は唯一の例外(朝鮮戦争における国連軍)を除いて、組織されたことがないからです。
そして第1回の授業で紹介した、安全保障の新しい「空間軸」と「時間軸」の中で、「自衛権」と「集団的安全保障」の概念も新たな挑戦を受けていることを紹介しました。「武力行使の明確な存在」っていうけど、テロに対する自衛ってどうすればいいのか?「比例原則」だってテロリズムにどう適用するのか?「攻撃を受けそう・受けてから反撃する」という自衛権で、本当に安全が保てるの?など、新たな疑問が浮かんでくるわけです。こうした視点から、なぜアフガニスタン戦争、イラク戦争が起こったのかということを解きほぐしていくことも興味深いアプローチのはずです。このあたりは、第10回、第13回でじっくり考えましょう。
最後に、「国際安全保障システムの類型」という図をつかって、「協調的安全保障」「共通の安全保障」「危機管理」などの概念がどのように分類されるのかということを説明しました。授業ではちょっと時間不足で消化しきれませんでしたね。このあたり、また「欧州の安全保障」「アジアの安全保障」を論じるときに戻ってくる予定です。とりあえずは、横軸・縦軸の性格を把握してください。横軸は「脅威の性格」が「特定・不特定」か、そして縦軸は「脅威の所在が外部にあるか内部にあるか」そしてそれらの脅威に「非包括的(軍事力中心)」で対処するか、「包括的(非軍事的手段中心)」で対処するかということですね。この図が理解できると、のちのちの「地域安全保障」の理解がいっそうクリアになると思いますので、辛抱強く眺めてみてくださいね(^-^;)。
【第2回講義に関する参考文献・論文について】
〔リーディング・マテリアル〕
山本吉宣「協調的安全保障の可能性:基礎的な考察」『国際問題』(第425号、1995年8月)
〔さらなる学習のために〕(和文)
[1] ジョセフ・ナイ『国際紛争:理論と歴史』(第5版、2005年)
第4章「集団安全保障の挫折と第二次世界大戦」
第5章「冷戦」
[2] 防衛大学校安全保障学研究会編『最新版安全保障学入門』(亜紀書房、2003年)
第1章「安全保障の概念」
第3章「国際安全保障体制論」
第11章「国際法と安全保障」
[3] 筒井若水『国連体制と自衛権』(東京大学出版会、1992年)
[4] デービッド・カピー/ポール・エバンズ『レキシコン:アジア太平洋安全保障対話』(日本経済評論社、2002年)
*[1]については広く安全保障論・国際関係論の基本書として米国の大学で採用されているもの。SFC生協に教科書指定用棚に入荷済み。[2]は防衛大学校の教員グループによる安全保障学の入門書で、ハンディで読みやすい。[3]は自衛権が国際法の中でどう扱われてきたか、国際法の教科書よりも噛み砕いて説明があり、理解に役立つ。[4]は本文にて説明あり。
〔さらなる学習のために〕(英文)
[1] Gareth Evans, ”When Does It Right to Fight?” Survival (Autumn 2004)
[2] Terence Tayler, ”The End of Imminence?” Washington Quarterly (Autmn 2004)
[3] Stephen Walt, ”Why Alliance Endure or Collapse?” Survival (Spring 1997)
[4] Ashton Carter and William J. Perry. Preventive Defense: A New Security Strategy for America, (Brookings Institution, 2003)
*[1]は9.11後の世界における武力行使のありかたについて踏み込んだ議論をしている。[2]は安全保障における「差し迫った脅威」の概念が変化していることを指摘し、国際法における位置づけを再考するもの。[3]は同盟関係がなぜ維持され、またなぜ崩壊するのかを論じたもの。[4]は安全保障に「予防防衛」という概念を導入すべきことをとく著書。
投稿者 jimbo : 2005年04月29日 03:11