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2005年07月28日
第13回授業レビュー(その2)
【日本の現在の防衛政策:07大綱】
冷戦後の国際情勢の変化を踏まえ、日本は1995年9月に「平成8年度以降に係る防衛計画の大綱」(防衛大綱⇒07大綱)を策定しました。その前後に、日本をとりまく安全保障環境にも変化が生じていました。1991年のソ連邦の崩壊に伴い、極東ロシア軍が大幅に削減されたことにより、日本も冷戦期の緊張関係からは相当程度解放されました。しかし、日本周辺の安全保障環境は、むしろ緊張を高めていきました。1993~94年には朝鮮半島の核開発問題をめぐる緊張が高まり、「米軍の軍事行動まであと一歩まできていた」(ペリー国防長官:当時)状況にありました。さらに日本国内では、1995年に阪神淡路大震災、東京では地下鉄サリン事件が起こりました。日本の周辺、日本国内の双方から「安全」に関する価値観を大きく問われた時期だったわけです。
このような背景で策定された「07大綱」には、三つの大きな特徴がありました。第一は、1978年に策定された防衛大綱のコンセプトである「基盤的防衛力」構想を、07大綱でも踏襲したということです。「基盤的防衛力」とは「自らが力の空白となって周辺地域の不安定要因とならないよう、独立国として必要最小限の基盤的な防衛力を保有する」という考え方です。かねてより、「力の空白論」と「必要最小限の防衛力整備」には矛盾する論理(第11回レビューを参照すれば、前者は絶対性・後者は相対性による論理なのです)が指摘されていましたが、この基盤的防衛力は政治的に便利(日本の平和主義に沿った防衛力であることを内外にアピールしながらも、防衛力整備を進めることができる)な概念であることから、改訂されることなく踏襲されていきました。
第二の特徴は、控えめながらも「周辺地域への対応」「国際平和協力」といった、日本の領域外での自衛隊の活動を銘記したことです。しかも07大綱当時では「周辺事態への対応」という言葉が刺激的過ぎて記載することができず、「大規模災害など各種事態への対応」(笑)という項目の中に、しれっと「周辺地域でわが国の平和と安全に重要な影響を与えるような事態が発生した場合は、憲法と関係法令に従い、必要に応じて国連の活動を適切に支持しつつ、日米安保体制の円滑かつ効果的な運用を図ることなどで適切に対応する」と書き込んだわけです。後者の「国際平和協力」については、1993年に日本がはじめて国際平和維持活動(PKO)に参加したことを契機に、自衛隊の任務として国際平和協力をより積極的に推進していく姿勢を打ち出しました。
第三の特徴は、防衛力の規模と機能の見直しを「合理化・効率化・コンパクト化」というコンセプトの下に進めることを謳ったことです。これは、必要な機能の充実と防衛力の質的な向上を図ることで、多様な事態に有効に対応し得る防衛力を整備し、同時に、事態の推移にも円滑に対応できるよう適切な弾力性を確保し得るものとすることが適当であるという考え方です。日本の財政的な制約の中で、新しい転換は常にスクラップ・アンド・ビルドによって達成しなければならない、という今日まで引き継がれていく考え方ですね。
【現在の防衛政策:新大綱の特徴】
さて、「07大綱」から10年経った2004年12月に「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」(新大綱)が閣議決定されました。この10年間にも、安全保障環境は刻一刻と変動を続けました。1996年には台湾海峡における中国人民解放軍の大規模ミサイル演習があり、1998年には北朝鮮からテポドン・ミサイルの試射がありました。そして、2001年には米国における同時多発テロ事件が起こり、その後米国は「対テロ戦争」という新しい軸のもとで、安全保障政策を改編していくことになります。安全保障環境の大きな変化に、日本の防衛力整備がどう対応していくべきか、その答えを出したものが新大綱であるといえるでしょう。
日本政府は、その間に「周辺事態法」(1999年)、「対テロ特別措置法」(2001年)、「イラク支援特別措置法」(2003年)、「有事関連法制」(2003年)、など、グローバル・リージョナル・ナショナルの三つの空間における自衛隊の役割を規定していきました。
このような過程の中で、防衛庁は「防衛力に関するあり方検討会議」という内局の検討会を中心に防衛大綱見直しの作業を進め、その成果を示したのが2003年12月の「弾道ミサイル防衛の整備等について」でした。この閣議決定の中で、日本政府は弾道ミサイル防衛(BMD)の導入を決定すると同時に、「我が国の防衛力の見直し」という項目の中で陸・海・空自衛隊の全般的な見直しを提言しました。これが、日本版トランスフォーメーションのあり方を示す、重要な決定となりました。
2004年10月には首相官邸での諮問機関である「安全保障と防衛力に関する懇談会」(座長:荒木浩東京電力会長)が、最終報告書を提出し、①伝統的脅威と非伝統的脅威の「あらゆる組み合わせ」が存在する国際情勢、②「多機能弾力的防衛力」の導入、③国際平和協力任務の主任務への格上げ、④武器輸出三原則の柔軟運用、などを提案しています。この資料は、将来の日本の防衛力の方向性を示す文書ですので、ぜひ熟読してみてください。
このような経緯をへて、2004年12月に「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」が策定されました。すでに上記二つの文章で相当レールが敷かれた上に出された大綱だったので、あまりその内容を繰り返すことはしません。重要なのは、①伝統的脅威に加え、非国家主体の脅威を日本の脅威認識として認識していること、②「基盤的防衛力」について「その有効な部分は継承しつつ」(わけわからん文章だけど・・・)、新たな脅威に対応する能力を具備する必要があり、その内容として「即応性、機動性、柔軟性及び多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度の技術力と情報能力に支えられた、多機能で弾力的な実効性のあるものとする」こと、③そして国際情勢認識としては、リージョナルな不安定要因としての朝鮮半島や台湾海峡、将来の中国の軍事動向などが挙げられ、これに対し独自の防衛力整備、日米安保体制の充実化によって対応していくこと、④そして最後にBMD導入に伴う防衛構想の変化、厳しい財政の中で日本の防衛力の多機能化を図っていくこと、等が今回の防衛計画の大綱の柱ということになります。
日本の防衛政策も、徐々にグローバル・リージョナル・ナショナルの三空間における役割を規定しつつあります。ただし、①日本の憲法と安全保障政策との関係、②一般法としての「安全保障基本法」のあり方、③逼迫する財政の中での防衛力整備のあり方、などについて、まだまだ多くの課題が残っているのが実情です。防衛計画の大綱は、今後数年内にも再度の見直しが行われる予定ですが、今回十分に概念化できなかった内容について、さらなる検討が続けられています。
(つづく:次回が最後です)
投稿者 jimbo : 2005年07月28日 18:37