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2008年04月22日

「テロとの戦い」の現段階:日本の関与政策の強化を

アルカイダの逆襲?

米外交誌『フォーリンアフェアーズ』(2007年5・6月号)に掲載されたブルース・リーデル論文「アルカイダ・ストライクスバック(逆襲)」は、その衝撃的な題名に表されるとおり、国際テロ組織アルカイダが、9・11後の世界的な対テロ作戦にもかかわらず「ますます危険な存在と化している」ことを警告している。

同論文によれば、2001年10月からの米軍のアフガニスタンにおける掃討作戦により、アルカイダは一時的に中枢機能(指揮統制・訓練・兵器・資金獲得および提供機能)を破壊され、かつてのような広域セル(テロ細胞)とのネットワークも相当程度遮断されたとみられる。しかし、アフガニスタンにおける国家建設の停滞と治安の不安定化により、地方や国外に分散していたアルカイダ幹部やセルが息を吹き返し、再組織化される現象が顕著になってきた。かつての庇護者であったタリバンも政治活動を活性化させ、とりわけパキスタン北部で権勢を強めている。こうした中で、アフガニスタン東部、パキスタン国境、パキスタン北西部の山岳地帯などでは、セルの形成、リクルーティング、資金取引など典型的なテロの再組織化が進んでいる、と分析されているのである。

問題はアフガニスタン・パキスタンにとどまらない。治安回復にてこずっている新生イラクでは、外部勢力としてのアルカイダが国内に入り込み、旧バース党の残存勢力を巻き込み、その影響力を拡大させてきた。アルカイダは、イラク西部において新規にセルを形成するばかりでなく、既存のローカルな組織に入りこみ、爆弾テロ等による秩序破壊の方法を伝授し、各地でテロを成功させている。こうしたテロ活動へのフランチャイズ機能によって、いまやイラクはアルカイダの第二の独立拠点となったといってよい。さらに、アフリカ東部、ヨーロッパ都市部、南アジア、東南アジアでは、分散化されたセルが能力を向上させ、散発的な中小規模のテロ事件を発生させている。また2005年7月のロンドンにおける連続爆破テロにみられるように、都市部で生まれ育った「新世代テロリスト」がアルカイダのプロパガンダに共鳴し、資金・兵器・ノウハウを伝授され、テロ実行に至るケースも浮上してきている。

「テロとの戦い」の現段階

今や「テロとの戦い」は、新しい段階に入ったといえる。米国ホワイトハウスの戦略文書『テロとの戦いのための国家戦略』(2006年9月)では、グローバルなテロネットワークの遮断に一定の成功を収め、現在のテロ対策の焦点は「地域化・局地化」されたテロ組織の能力を削ぐことにあるとしている。しかし「テロとの戦い」の手を緩めれば、各地に分散化したセルに対する、アルカイダのフランチャイズ機能はさらに進展し、世界各地で生じるテロ件数はむしろ増大し、その規模も深刻なものになる可能性がある。そのためには、分散化したテロリストの能力向上を阻止し、セル同士のネットワークへのアクセスを遮断するような措置を、全世界的に展開していく必要がある。世界の主要国が、不朽の自由作戦(OEF)、国際治安支援部隊(ISAF)、地方復興チーム(PRT)、インド洋・アラビア海における海上阻止活動(OEF-MIO)を展開しているのは、以上のような「テロとの戦い」に対する問題意識に基づくものなのである。

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主要8カ国(G8)の主たる「テロとの戦い」への参加状況においても、米・英・伊・独・カナダ・仏は幅広く活動に参画していることがわかる(下図参照)。日本はこのうちテロ対策特措法に基づく海上阻止活動によって、国際的な連携の一翼を担っているのである。海上阻止活動は、テロリストの海上における活動(武器移転・麻薬売買による資金取引・テロリストの移動)を監視し、それを取り締まる活動を実施している。防衛省の資料によれば、2001年9月からの実績として「不審船への質問」を14万回、「不審船への立ち入り検査」を1万1千回、このうち立ち入り検査によって12トン以上の大麻の押収、またライフル・ロケット弾などの武器の押収に成功している。これらの実績は、大麻取引によるテロ資金の遮断に大いに貢献しているのみならず、海上交通路がテロリストにとってコストの高い輸送路であることを示し、もって抑止力とする重要な活動なのである。

主要8カ国(G8)による「テロとの戦い」の参加状況 36_2.gif

現在の「テロ特措法」をめぐる国会論戦で前提となるべきは、日本として国際テロリズムの脅威をどのように評価し、「テロとの戦い」に取り組むのかというグランド・ビジョンに他ならない。テロ特措法の延長の是非を論じるに際して、海上自衛隊による各国艦艇への給油活動という「点」にのみ着目するのではなく、海上阻止活動全体、そして「テロとの戦い」全体の意義に関する「面」の議論をより重視しなければ、国会論議全体が法律論の呪縛にとらわれてしまうであろう。とりわけ、アルカイダの局地的な活動が再活性化し、他の局地セルとの連携が深まろうとしているなかで、テロの主要要素(ヒト・モノ・カネ)の移動を阻止する活動は、より強化されていかなければならないことを、日本の安全保障政策の前提におくべきである。

 さらにテロ対策特措法をめぐる議論は、日本の「グローバルな関与」政策との関連でも捉える必要がある。日本の政府開発援助(ODA)は、その拠出規模が最大であった10年前(1997年)に比較して62%まで落ち込んでいる。主要国が9.11後の戦略的関心や国連のミレニアム開発目標に基づき、軒並み援助額の増額を推進するなかで、日本の減額トレンドは著しい。過去10年間で無償資金協力の供与が半減以上となった国は59カ国を超えたほか、国際機関における拠出順位も軒並み低下している。また国連平和維持活動(PKO)への実績については、現在日本はゴラン高原における国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)等に37名の派遣をしているのみである(国連PKO局資料、2007年8月現在)。これはイタリア2449名、フランス1943名、中国1828名、ドイツ1150名、韓国の399名、米国305名と比較しても、極端に低い貢献度をいわざるをえない。

 現在のテロ対策特措法をめぐる国会論戦は、このような日本の「グローバルな関与」が縮小しているなかで、展開していることを見失ってはならない。日本が国際的なテロの脅威、紛争後の平和構築、ミレニアム開発目標に対して、どのような「関与」をすべきかが、今問われているのである。今国会でテロ特措法延長を廃案とし、日本が「テロとの戦い」の主要なインターフェースであるインド洋の海上阻止活動から離脱し、かつODAもPKOも縮小するという姿は、日本が「グローバルな関与」からの後退を意味するに等しい。地球儀を回転させ、主要国の一員として「グローバルな関与」政策のありかたを考え、骨太の議論が国会で展開されることが、外交安全保障政策における日本の国益である。そして、自民党は真摯に現在の「グローバルな関与」の必要性と有効性を提示し、民主党は自らの「グローバルな関与」の理念と方法を自民党と競い合う形の国会論戦が進むことを期待したい。


投稿者 kenj : 2008年04月22日 15:03

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