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Juli 25, 2005
愛すべきアドグル様
前略アドグルさま
お久しぶりですね。すっかりお互いに忘れていたかも知れませんね。でも、どうしても手紙をしたためておきたくて、こうして文字をつづっています。昔からのあなたを思い出しながら。
思えば、あなたが生まれたのはこのキャンパスと同じ日でしたね。はやいもので、もうあなたも十六歳ですか。まだ、キャンパスの造成も途中だったあの日、希望だけがこの場所には満ち溢れていたのですよね。
あなたが生まれた経緯を覚えていますか。今までのように担任制度にしてしまうと、教員と学生という軸が固定されてしまう。そうじゃなくて、学生と対等なパートナーとしての「アドバイザー」を目指していましたね。そういえば、欧米のチューター制度を参考にしたと、関口一郎先生も言っていましたっけ。カリキュラムが自由なこの学校で、具体的にどんな授業をとるかを話し合える「パートナー」が必要だと。
生まれたばかりのあなたは、とても可愛がられましたね。何せ、一年生と先生しかいないキャンパスでしたから、他のコミュニティなんてほとんどない時代でした。あなたがほとんど唯一の「場」と言ってもいいような状況でしたもの。幸せな日々だったでしょうね。だけど、月日の流れはあなたの価値までもを変えてしまいました。
今、わたしたちにはあなたしかいないわけじゃありません。百を越えるサークルや団体でいくらでも友達なら作れますし、そうそう研究プロジェクトも一年生から履修可能になったのですよ。さらに、先生もいつしかあなたを重荷と考えるようになってしまったようです。あの大学院も研究プロジェクトさえもなかった頃と違い、先生には他にやることがたくさんあるんですよ。学生とも、研究プロジェクトで出会えますしね。
そもそも教員が「アドバイザー」をかねること自体、無理があると思いませんか。欧米のチューターというのは、学生の相談専門の職員であって、教員との兼務なんかじゃなんですよ。だからこそ学生のきめ細かい相談に答えることが出来るんです。他の業務や授業に追われる教員に、そんなことを求めるのは酷だと思いませんか。
さらに、あなたは知らないかもしれないけれど、あなたじゃない相談制度も随分と整ったんですよ。キャンパスライフの悩みなら福利厚生団体もいるし、こころの悩みならウェルネスセンターがある。あなたは、これらとどう差別化をはかれるのでしょうか。難しいですよね。今、あなたに、あなたしか出来ないと掲げられる価値ってありますか。
きついことばかり書き連ねてしまいましたね。でも、そもそも変わろうとしなかったあなたも悪いのですよ。いくらなんでも、SFC GUIDEでの紹介文がここ十年以上、まるで変わっていないことに恥じらいの気持ちくらいはもって頂きたいのです。もう若くはないあなたが、無邪気に変わろうとしないことは、正直こちらが恥ずかしくなってしまいます。
とはいえたしかに、変わることは難しいですよね。変わるのには膨大な労力は使うし、そのくせ成功するとは限らない。いくら実験するキャンパスといっても、出来上がってしまったものに手をつけるのは、やはり面倒なようですしね。だけど実はわたしも、あなたが最近二回ほどこっそり変わろうとしたことを知っているんですよ。
2003年に、あなたはクラス制度を結びつけられました。あなた三つで、クラス一つが構成されるようになりました。これ自体の成功か失敗かは意見がわかれるでしょうけれど、確かなこととしてあなたの存在感はますます薄まりましたよね。何せ、それ自体の拘束力はないあなたよりも、授業が同じクラスでまとまってしまう人が多いのは当たり前ですから。クラスの力が強くて、あなたの名前を知らない人もいましたよ。学部長と学生たちが連携して、あなたについて大規模に考える機会だったのに、少なくともあなたにとっては残念な結果になったようですね。
そして、今年2005年。あれは無残でした。あなたをもう一度活性化するための試みだったようですが、逆にあなたを貶めようとしている誰かの作戦としか思えませんでした。まるで国防の義務を前面に押し出して、憲法改正を阻止する一派のような。いえ、それ以下の単純で安易なものでしたね。江ノ島ウォーク。ごめんなさい、意味がわかりません。一緒に江ノ島まで歩けば結束力が高まる?国民全員に君が代を強制すれば、誰もが国を愛し、犯罪もテロもない素晴らしい日本になると言っているのと、同じレベルですよ。
だけど、ね、あなたは知らないかも知れないけれど、あなただけの価値って皆無ではないんですよ。たとえば、学年の枠を越えた異文化交流の場として、わたしはあなたを必要かもしれないと考えるんです。サークルじゃ勉強って雰囲気にはならないし、研究プロジェクトじゃ同じ志向の人しか集まりませんよね。だけど、あなたは違う。学年も趣味もまるで違うひとたちの交差点、サロンのような機能を果たせる可能性がある。まさにSFCの理念を体現する場じゃないですか。
だけど、今のあなたには荷が重過ぎるとも思います。あまりにも年老いてしまったあなたに出来ることは、現状維持くらいですよね。それさえも最近では辛くなっている。そうじゃありませんか。もう歩きすぎて、そろそろ立ち止まってもいいと思っていませんか。だから、わたしはあなたを愛しているから、あえて言わないといけないのかも知れない。まだ愛が残されているうちに。あなたが完全に壊れてしまう前に。他の人はこれほど真剣にあなたについて考えさえしないものだから、愛しているわたしから。
ねえ、アドグルさん。今までありがとう。そして、さようなら。
愛を込めて
投稿者 POE : Juli 25, 2005 05:44 EM
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