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2004年09月18日
第4回 ガバナンス
第4回 ガバナンス:理論的説明と分類
■われわれはどうやって意思決定を行っているか。
経済学では、合理的な判断をする経済人を想定してきた。しかし、個人に限っても、現実世界では合理的な判断ができるかどうかは疑わしい。少なくとも、自分が知りえている情報の範囲でしか合理的な意思決定はできない。
■われわれはどうやって他者との間で合意形成を行っているか。
古典的なパワーの問題
ケネス・ボールディング『経済学を超えて』
人間の社会には三つの主要な「組織因子」:脅迫、交換、統合
公文俊平『情報文明論』
脅迫・強制
取引・搾取
説得・誘導(魅力としてのソフトパワーにも近い)
■イロコイ族の意思決定
星川淳の「物語のもう半分/ネイティヴ・デモクラシー」
アメリカ先住民文化の伝承調査→合州国憲法が、じつは先住民社会から多大な影響を受けて生まれた
戦後の日本国憲法が多くの点で合州国憲法の姉妹ヴァージョンだとすれば、モンゴロイド/縄文コネクション
「民主主義は古代ギリシア・ローマ以来のヨーロッパの独創」というのも話の半分としては生きている。
フランクリン、ジェファーソン、ワシントンといった合州国建国のキーパーソンたちがイロコイ民主制の直接的薫陶に浴し、独立から憲法制定にいたる過程で具体的な示唆と手引きを受けていた
イロコイ族は一万年前にユーラシア大陸から渡ってきたと思われる伝承を口伝えしている。北米の五大湖付近に定着した後も、争いを繰り返していたが、ピースメーカーと呼ばれる人物が登場して、平和主義に転ずる。
イロコイ族の意思決定は、火を囲んだ車座での徹底的な熟議。何ヵ月でも決定に時間をかける。近代的な意味での指導者は存在しない。「七代先まで考える」のがモットー。
■インターネットでの意思決定
インターネット・コミュニティはヒッピーの影響が濃厚
ヒッピーたちの思想は、ネイティブ・アメリカンの思想に通じるところがある
インターネット・コミュニティの「デモクラシー」はネイティブ・アメリカンにルーツがある?
■「ガバナンス」?:様々な定義
■法学のコーポレート・ガバナンス(corporate govenance)
龍田節「序説−コーポレート・ガバナンスと法」『コーポレート・ガバナンス―アメリカ法律協会「コーポレート・ガバナンスの原理:分析と勧告」の研究―』(日本証券経済研究所、1994年)
「少なくとも1970年代からアメリカの会社法文献や資料で盛んに用いられている」
「企業とくに大規模な公開会社が、どのような機構を備え、どのような基準に則って行動すれば、株主その他の関係者の利益を程よく調整し、社会の要請に応えることができるか」
■経営学のコーポレート・ガバナンス
青木昌彦「日本の企業統治構造は収斂するか」平木多賀人 編『日本の金融市場とコーポレート・ガバナンス』(中央経済社、1993年)
「企業の経営行動の選択を管理する基本構造、より限定していえば企業の基本政策を決める最高経営者を選抜する構造」
■国際政治学のグローバル・ガバナンス
James N. Rosenau and Ernst-Otto Czempiel, eds., Governance without Government: Order and Change in World Politics, Cambridge University Press, 1992.
「政府なきガバナンス(governance without government)」
ガバナンス:秩序プラス意図
秩序を維持するための意識的な活動が必要
■サイバースペースのガバナンス
ジョン・バーロー(John P. Barlow)「サイバースペース独立宣言」公文俊平 編著『ネティズンの時代』(NTT出版、1996年)
「自然の働きの産物であって、われわれの集合的な行為を通じて自ずと成長するもの」
■ガバメントとガバナンス=意思決定・合意形成システム
ガバメント:拘束力、強制力をもつ法制度による権利、義務に基づき、組織の正統性と一貫性を維持しながら行われる意思決定・合意形成システム
例)議会、取締役会、学級会
ガバナンス:主体性、自発性および公益性に基づき、関与する行為者が目的意識を強くもって行う意思決定・合意形成システム
例)タウン・ミーティング、インターネットの各種組織
■Hedley Bull, Anarchical Society
現実主義者:国際関係は基本的にアナーキーであると考える
アナーキー:国家が安全その他の目的のために自らを頼りにするしかない状態
しかし、実際には国際関係はまったくのアナーキーでもない。アナーキーは混沌(カオス)とは異なる。
もしカオスならばそこには停戦も休戦も講和も無く、果てしない戦乱が続くはず。
アナーキー下でも、アクターは相互に理解する能力を持ち、利得の計算ができる状態
各国が実質的に従わざるを得ない取り決めや慣習、さらに各国が合意の上で従う条約や協定が数多く存在
だから国際関係はアナーキーな社会である:いくばくかの社会の要素を見ることができる。
国際社会と国際システムは別物
国際システムは国際社会がなくても成立する
国際システム:二国以上が相互に影響を及ぼしあう状態
国際社会:二国以上が共通の利害を有し価値を共有している状態
ホッブズ:人間は国家の中で「政府なき社会(society without government)」を作ることができない
ブル:しかし、国家は国際関係の中で「政府なき社会」を形成することができる
■国際レジーム
1970年代以降の相互依存関係の深まり:GATT、WTO、ITU、京都議定書など
国際レジーム:国際関係の特定の問題領域で、アクターの期待が収斂する明示的もしくは黙示的な原則、規範、ルール、決定手続きの総体
いかにガバーンするか
相互依存関係に影響するガバニング協定(Keohane and Nye, 1989:10)
ガバーンするのは強国の支配ではなく相互理解(Zacher, 1996)
無秩序と秩序の間にあるものをどう表現するか
■グローバル・ガバナンス成立の条件
(1)価値観の転換
(2)公益性に基づき新秩序を模索する意思の存在
(3)多様なアクターの意思決定への参加
(4)重層的な制度
(5)情報の共有
必要とされなくなった条件
(1)メンバーシップの限定
(2)強制的な権力の行使
国際社会は原始的か? 新しい中世か? ニュー・タイプか?
投稿者 taiyo : 2004年09月18日 18:15
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