Main

2006年08月18日

ハイ・コンセプト

荒野高志さんのおすすめでダニエル・ピンクの『ハイ・コンセプト』を読む。芸術的センスのなさを悲観し、左脳主導的な仕事ばかりしてきたことを反省する。

今、SFCではカリキュラムを作り直しているが、「『専門力』ではない『総合力』の時代!」という<はじめに>の言葉には励まされる。本の帯や大前研一さんの訳者解説には、給料とか富という言葉が出てきて、ノウハウ本なのかと思うが(私はノウハウ本も好きだけど)、大きな社会変化を示唆している本だ。トーマス・フリードマンの『フラット化する世界』とも呼応している。

「ハイ・コンセプト」とは「パターンやチャンスを見出す能力、芸術的で感情面に訴える美を生み出す能力、人を納得させる話のできる能力、一見ばらばらな概念を組み合わせて何か新しい構想や概念を生み出す能力、などだ」という。そして、対になる「ハイ・タッチ」とは、「他人と共感する能力、人間関係の機微を感じ取る能力、自らに喜びを見出し、また、他の人々が喜びを見つける手助けをする能力、そしてごく日常的な出来事についてもその目的や意義を追求する能力など」である。

そして、「今の仕事をこのまま続けていいか」という疑問に三つのチェックポイントを提示してくれている。
(1)他の国なら、これをもっと安くやれるだろうか
(2)コンピュータなら、これをもっとうまく、早くやれるだろうか
(3)自分が提供しているものは、この豊かな時代の中でも需要があるだろうか

ううむ。教育は例外だとはいえない時代だよなあ。

2004年07月18日

奇特なイギリス人

これは別の先生に教えてもらった本。イギリス人の奇特さをブラックに笑いものにしているらしくて、紹介してくれた先生が留学していたところではこんな人々がウロウロしていたらしい。極左のくせにグルメという矛盾が笑えるらしい。

George Mikes, How to be an Alien, Penguin Books, 1970.

2004年05月16日

雑誌部数、水増し

雑誌部数、水増し「公称」やめます 「印刷部数」公表へ (asahi.com)

やっぱりいいかげんなものだったんだ。出版業界はデジタル化で危機だとあせっているけど、自らの商売のやり方を正さないとどうにもならないのではないか。

2004年05月13日

印税も支払わぬという非常識

印税も支払わぬという非常識」(sankei.co.jp)

私は本で印税をもらったことは、自慢じゃないがほとんどない。しかし、出版社がこんなことばかりしていると、ますますデジタル媒体に逃げていってしまうんじゃないのかな。

2004年05月10日

若者たちの《政治革命》

若者たちの《政治革命》−組織からネットワークへ−』(中央公論新社)
丸楠恭一/坂田顕一/山下利恵子 著

旧知の丸楠先生と坂田さんが本を出したそうだ。

インターネット元年(1995年)、インターネット政治元年(2000年)を機に、ふつうの若者の中から、政治を面白がる「ネットワーク族」が現れた。彼らは統制を嫌い、NPOやボランティア通じて公共空間を遊泳する。無党派知事の誕生も、小泉現象も、この地殻変動の上に成り立つ。本書はこの静かな《政治革命》の来歴と構造、今後の展望を分析する。また急増する若手議員たちの論理と心理に斬り込む。「若者の政治離れ」論が虚像であることが明らかになることだろう。

オンラインの政策誌『政策空間』をベースに生まれたという。

2004年05月03日

創発

創発に関する研究プロジェクトを進めている。機中で読んだジョンソンの本の抜き書き(文中太字は原文のママ)。

=====

スティーブン・ジョンソン(山形浩生訳)『創発―蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク―』(ソフトバンクパブリッシング、2004年)。

p. 10
[アラン・]チューリングが一九五四年に死亡する前の、最後の刊行論文の一つは、「形態形成」の謎を取りあげたものだった。形態形成とは、あらゆる生命形態が、とんでもなく単純な出発点から、すさまじくバロックで複雑な体を発展させる能力のことだ。

p. 12
チューリングの形態形成に関する研究は、単純なエージェントが単純な規則にしたがうだけで、とんでもなく複雑な構造が生成できるような数学モデルの概略を述べていた。

p. 16
それは複数のエージェント同士が、複数の形でダイナミックに相互作用して、ローカルなルールにはしたがうけれど、高次の命令などまったく認識していないシステムだ。でも、これが本当に創発的なものとして認められるのは、こうしたローカルな相互作用が、何かはっきり見えるマクロ行動につながった場合だけだ。(中略)つまり、ローカルなエージェント同士の複雑な並列相互作用で、高次のパターンが生じるということだ。

p. 68
アメリカ企業でも、流行り言葉は「品質管理」から「ボトムアップ知性」になりつつあり、ラディカルな反グローバリズム抗議運動は、意識的に自分たちのペースメーカーなしの分散組織をアリの巣や粘菌にしたがってモデル化している。

p. 74
そもそもデボラ・ゴードンがアリに興味を持ったのも、このミクロ組織とマクロ組織との結びつきのためだった。「個体が全体的な状況を判断できないにもかかわらず、協調して働くようなシステムに興味があったんです。そしてアリは、局所的な情報だけを使ってそれを実現しています」と彼女は今日語る。
 実は局所性こそが、群生理論の力を理解するにあたっての鍵となる用語なのだった。アリのコロニーのようなシステムに創発行動が見られるのは、システム内の個別エージェントが上からの命令を待つのではなく、その直近のご近所に関心を払うからだ。彼らは局所的に考えて、そして行動も局所的だけれど、その集合的な行動はグローバルな行動を生みだす。

p. 77
この局所的なフィードバックこそは、アリ世界の分散化した計画の秘密なのかもしれない。アリの個体は、その時点で何匹の食糧調達アリがいるか、巣作りアリがいるか、ゴミ集めアリがいるかを知るよしもない。でも自分が一日の行程でそれぞれ何匹に会ったかは記憶できる。その情報――フェロモン信号そのものと、その頻度――に基づいて、自分の行動を適切に調整できる。

p. 84
DNAの圧政は、創発の原理に反するように見える。もしすべての細胞が同じ台本を読んでいるなら、それはまるでボトムアップのシステムではない。究極の中央集権だ。それは、アリのコロニーでそれぞれのアリが一日の始めに慎重に計画された予定表を読むようなものだ。昼までゴミ出し作業、その後昼食、午後は片づけ、という具合。これは指令経済であって、ボトムアップシステムではない。

p. 85
細胞は、DNAの図面を選択的にしか参照しない。それぞれの細胞核は、人体すべてについてのゲノムを持っているけれど、個別の細胞が読むのはそのごく一部でしかない。

p. 85-86
細胞は近隣から学ぶことで、もっと複雑な構造に自己組織化する。

p. 87
でも細胞は自分を含む組織の俯瞰図は持っていないけれど、細胞連接経由で送信される分子信号を経由して、街路レベルでの評価を行うことができる。これが自己構成の秘密だ。細胞共同体は、各細胞が自分のふるまいについてご近所を見ることで生じる。

p. 100
エージェント間のフィードバックが必要なのだ。他のセルの変化に応じて他のセルも変化しなければならない。

p. 103
その速度で見ると――千年紀単位の高速度撮影で見ると――人間個人の自由意志はコロニーの一五年にわたる存在のうち、ごく一部しか生きて見届けられないゴードンの収穫アリとそんなに異なるようには思えない。今日の都市の歩道を歩く人々は、アリがコロニーの生命について無知なのと同じくらい、大都市の千年単位のスケールという長期的な視野については無知だ。このスケールで見てやると、都市という超有機体の成功こそは過去数世紀における唯一最大のグローバル現象かもしれない。

p. 117
ただしこうした住民たちは、別に居住地を大きくしようとして努力したわけではない。みんな、自分の畑の生産力を上げるにはどうしよう、とか、発達した都市の排泄物をどう処理しよう、といった局所的な問題を解決しようとしていただけだ。でも、こうした局所的な意思決定が組み合わさって、都市の爆発というマクロな行動が形成される。

p. 147
台風や竜巻もフィードバックの強いシステムだが、だからといってそれを裏庭に欲しいという人はいない。構成パーツや、その組み合わせに応じて、創発システムは多くの違った目的に向かうことができる。

p. 180
システム全体が、初期条件にきわめて敏感です。

p. 247
創発の進歩的な可能性が最もはっきり表れていたのは、反WTO抗議運動だった。これは意図的に、自己組織型システムの分散型細胞構造に基づいて自分たちを組織化していた。一九九九年のシアトルの抗議運動は、驚くほどの分散組織に特徴づけられていた。

2004年04月29日

学者の人生

ボストンのフリーダム・トレイルをたどっていたら、横にボーダーズ(本屋)があったので思わず入ってしまった。そうしたら、ジョセフ・ナイがこんな本を出していることにも気がついた。

Power in the Global Information Age: From Realism to Globalization (Amazon.com)

2004年5月発行とあるから出たばっかり。

内容は1970年代から書いてきた代表的な論文をテーマごとに並べなおしたもの。

おもしろいのは、一番最後の「Praxis and theory」という文章。ナイはよく知られているように、学者であるとともに、国務省や国防総省でも仕事をしてきた。生まれてから今までの自分の人生を振り返ってみて、二つの道を行き来したことが良かったと書いている。ただ、幼少時代は農業をやりたかったり、学部を卒業した後は海兵隊に入ろうとしたり、紆余曲折があったことも書いてある。博士課程での勉強は苦痛だったが、論文を書くのは楽しかったそうだ。学者の人生を考える上でとても興味深い文章。

2004年04月27日

ソフト・パワー

Soft Power: The Means to Success in World Politics (Amazon.com)

ジョセフ・ナイの新著がいつの間にか出ていた。ソフトパワー論の総決算というところか。

序文にも書いてあるけど、ソフトパワーはどうも誤解されている気がする。本当は安全保障を論じるための概念で、コンテンツ産業育成のための議論ではない。

初版150万部

Clinton's 'My Life' hits stores in June

クリントン前大統領の回想録が6月末に出るそうだ。なんと初版150万部。ヒラリーが100万部だったから50万部多い。ヒラリーの回想録は総計200万部売れている。クリントンはこの本で1200万ドル(12億円以上)もかせぐ。もう借金は返し終わっているのだろうか。

問題はクリントンが本の宣伝ツアーを7月以降に行うことでケリーの選挙戦がかき乱されるのではないかということ。

2004年04月04日

組織の限界

通読すると面白くないが、抜き書きしてみると味わいがある。もう入手できないのが残念。

=====

ケネス・J・アロー(村上泰亮訳)『組織の限界』岩波書店、1999年。

p. vii
政治的組織が挫折するにもかかわらず、形式的構造に乏しい知的組織が力を発揮するということは、まさしく組織理論が取り組むべき論点の多様性の例示でもある。

p. 28
そしてわれわれは、過去の誤ちを認め、方向を変更する可能性をつねに開いておかなければならない。

p. 29
「組織」という言葉は、前章での議論で注意しておいたように、十分広く解釈すべきである。公式#フォーマル#組織、すなわち企業、労働組合、大学、政府などが、組織のすべてではない。倫理的な規則や市場システムそれ自体も、組織として解釈することができる。市場システムは、まさしくコミュニケーションと共同的意思決定のための高度な手段を備えている。

p. 30
組織の目的とは、多くの(事実上はすべての)決定が、実際に成果をあげるためには多数の個人の参加を必要とするという事実を十分に生かそうとするところにある。とくに既に注意しておいたように、組織とは価格システムがうまく働かない状況のもとで、集団的行動の利点を実現する手段なのである。

p. 35
本質的な原因は、契約に関する両当事者間の情報の不平等というところにある。

p. 50
以下で示されるテーマは、情報チャネルとその使用に伴なう不確実性、不可分割性、資本集約性の組み合わせより成る。そしてそこから導かれるのは、(a)組織の現実の構造や行動は、偶然的事件、言いかえれば、歴史に大きく依存するかもしれないということであり、(b)効率性のみの追求は、いっそうの変化に対する柔軟性と感応性の欠如につながるかもしれないということである。
 意思決定は、必然的に情報の関数である。かくて、ある一群の意思決定に必要な情報を集めないという決定が下されれば、それら一群の決定は行動計画ならざるものとなる。

p. 71
組織にはさまざまの共通な性質があるが、なかでも権威#オーソリティ#による配分というやり方が広く行なわれている点に特徴がある。事実上普遍的といってよい現象であるが、いかなる規模の組織においても、ある個人によって行なわれた決定が、他の個人によって実行されるのである。権威が正当性を与えられている領域はそれぞれ限定されているかもしれないし、あるレベルにおける命令の受け手が、彼自身権威を与えられているような自分の領域を持っているかもしれない。しかし、これらの限定の範囲内で、命令のやりとりは、ある人をして、ある他の人になにをなすべきかを教えさせるのであって、このような命令のやりとりこそ、組織の機能するメカニズムの基本部分である。

p. 82
権威の価値がもっとも純粋にあらわれる例は軍隊である。そしてもちろん多くの面において、軍隊は事実最初の組織であって、その後国家に成長する。広く分散した情報と、迅速な決定の必要という条件が与えられている以上、戦術的なレベルでは権威による統制が成功のために不可欠である。

p. 82
権威に対立する逆の極端な代案は、合意#コンセンサス#である。(略)私が理解するかぎり、合意とは、個々人の利害を集計するところの、無理のないそして受け入れられた手段を意味する。

p. 86
制裁の存在は権威への服従の十分条件ではない。明らかに、もしもある程度以上の数の従業員が命令に従わなければ、そのような命令は強制できない。