チトワン国立公園 (Chitwan National Park)

 チトワン国立公園は、カトマンズから西南西に下ったインドとの国境付近に位置します。カトマンズとの距離は直線で100kmぐらいしかないのですが、道路事情が悪いために結局半日かかります。カトマンズは標高が高いのですが、インドとの国境に向かってどんどん標高が下がって行くようになります。よって、私たちが持つネパールのヒマラヤ山脈のイメージとは、大きく異なり亜熱帯性気候に属します。 私が訪れた2005年11月下旬ですが、日本を発った11月中旬は、関西でもその後の厳冬を予感させるような寒さだったので、ついネパールというイメージで大量の防寒具を持って行きました。しかし、チトワンはまさに夏でした。昼間はTシャツで十分です。


sunset

 私たちは、チトワン国立公園から川を挟んだ対岸のホテルに午後につき、一休みしてから夕方バードウォッチングのプログラムがありました。チトワンは、カトマンズの喧騒と学会の疲れを抱えてきた私たちにとっては、悠々と川が流れ、鳥のさえずりがあちこちから聞こえるまるでオアシスでした。この学会のエクスカーションにはさまざまな国の方々が参加していたのですが、やはり鳥好きが多いようで、学会の時よりがぜん張り切っている人たちがかなりいました。河畔林と河川敷の草地でいきなり多くの鳥が出現し、皆時間を忘れて興奮していましたが、気がつけば日が沈みつつあり、とても素晴らしい夕日が私たちを迎えているようでした。
jeep  さて、2日目は早速早朝からジープで国立公園内に入ります。なんて言うとかっこいいのですが、こんな感じでロシア製のジープに乗り込みました。ジープにはメーターも、フロントガラスもなく、朝は霧がかかるので、前にいると露で全身びっしょりです。いろいろなものが壊れていたジープでが、クラクションだけは必須のようで、私の乗った車ではクラクションを鳴らすときに、切れているコードを直接手でつないで鳴らしていました。とにかく、4台の車にガイドも含め全員を乗せるので、とにかくきつくて、変な体勢で乗っているうちに足がつりそうになっていました。身動きするとシートがいきなり外れるし。
bridge  チトワン国立公園は、人間の居住が認められていないコアエリアと人間も生活しているバッファーゾーンからなります。農耕地と隣接するバッファーゾーンを抜けて、この橋を渡ると向こうが国立公園のコアエリアです。以前はこの中にも人が住んでいたそうですが、現在は国立公園の施設と軍の基地があるのみです。私たちもここまではジープで来られるのですが、ここからは徒歩で入ることになります。ちょっと橋は新しくてきれいなのですが、それまでのガタボコ道に揺られて延々走ってくると、野生のベンガルトラも生息するという秘境感がいやまします。
forest  橋を渡って見ると、こんな森に入りました。でも、思っていたよりも密林というわけではなくて、樹冠が閉じていない明るい林です。また道も広く、何だかジープを降りてこなければ行けないのが不思議なぐらいです。まあ、軍や公園管理の車両が走るためなのでしょうが・・・。また、レンジャーはこの林が天然林だというのですが、どうもそうは思えませんでした。一緒にいた日本人の皆さんとも議論したのですが、どうも里山が放棄されて大きくなった林のような感じで、樹高も樹齢もそろっているような印象でした。樹高はかなり高く30mぐらいだと思いましたが、どの胸高直径も同じぐらいです。資料を見ても、1970年代まで多くの住民がいて、農業がなされていたようなので、森林も後で紹介するコミュニティフォレストのように利用されていたのではないかと思います。つまり二次林だったと思われます。でも、レンジャーの話では、氾濫原なので水位が上がったときに枯れる木があって、明るい林になっているとのことでした。いずれにしても、あまりジャングルという感じではありませんでした。みんな少し肩透かしにあったような気分でした。でも、林内も明るい分だけ、鳥を見るには好都合でしたが、やはり時間が遅くなると数もそれほど出ませんでした。
wani  これは公園内にある貴重生物の繁殖施設です。この公園の河川にもワニがうじゃうじゃいるそうですが、こうして見ている限りにおいては、あまり怖い感じはしませんでした。みんなのんびり寝ていました。もっとも、ネパールにいるほとんどの種がオーストラリアの種のように危険なわけではなくて、主に魚を食べているそうです。いくつかの種は人間に危害を加える可能性があるそうですが、それも狙ってではなくて、出合い頭で驚いてという程度だそうです。それにしてもワニは本当にたくさんいてまさにワニの養殖場でした。
plate  その繁殖施設内にあったプレートですが、あまりのすごさに写真を撮ってしまいました。そりゃないだろう・・・というすごさでした。みんなに結構受けていました。奥の方では、飛んでいる鳥をキャッチしています。
rhino  繁殖施設で飼育されていたインドサイです。野生のインドサイが生息しているのもチトワン国立公園の売です。かなり人懐っこいサイでした。ベロベロなめられている人もいました。体の表面は硬い皮膚に覆われていてざらざらごわごわです。初めてサイに触りました。
tiger

 繁殖施設の中でも、ひときわ高い木の柵の中にいたのは、ベンガルトラです。柵の高さは5mぐらいでしょうか。この写真は柵のすき間から撮りました。このトラは3歳のメスで、母親は人間を何人も殺した末に銃殺されたそうです。その時保護された3頭の子供の一頭だとのことでした。いずれはこのトラも野生に戻されるとのことでした。しかし、サイと違って、気性の荒さは格別で、近くから写真を撮ろうと横の柵に近づいた人が、いきなり威嚇されていました。レンジャーからも柵に近づかないようにと注意されていました。

river  繁殖施設から離れて、河川に向かって旧河道沿いを歩きました。水辺があるので、鳥もたくさん見られました。クロトキが木に群れて止まっていたりと驚きでした。旧河道は、びっしりと赤いアゾラで埋め尽くされていました。この河道までサイが水を飲みに来るそうで、ヨシが踏み倒されている箇所がいくつも見られていました。この近くで昼食をとったのですが、以前はここでキャンプが許可されていたそうです。自然保護のためにキャンプが認められなくなったそうです。キャンプするのも怖いですが、早朝だったらいろいろな鳥や動物が見られそうです。
rhino2  国立公園からホテルに戻る途中で、レンジャーがサイがいたというので、皆ジープを降りてわーと見に行ったのですが、柵の向こうのバッファーゾーンのはるか彼方で双眼鏡で見ても米粒のようでした。良くこんなものが走っているジープの上から見えたものです。でも、野生のサイということで、みんなひとしきり盛り上がりました。
river2  3日目の朝は、川下りからでした。一本の木から切り出したこんなカヌーで、川を下ります。早朝大変静かで心地よい中なので、みんな期待感が膨らみます。水面から近づけば、生物も観察しやすいですし。このような川下りも国立公園の周辺地域が提供しているエコツーリズムのプログラムだそうです。ネパールでは、農村地域では経済的に恵まれていないので、なかなか自然保護に対する理解が得られないそうですが、このような自然資源を元にしたエコツーリズムが観光収入につながるように自然保護団体は積極的に活動しているそうです。今回の学会のエクスカーションの誘致もその一環です。
river2  おおっ、ワニだーと、歓声が上がっていましたが、河岸には野生のワニが結構たくさんいました。カヌーは水面すれすれを滑って行くので、ちょっと怖いようでもあり、スリリングでした。水面は非常に静かで、涼しく気持ちよくてずっと乗っていたい気分だったのですが、以外にも20分も経たないぐらいで川下りは終わりでした。みんなもう終わり?という感じで、物足りなそうでした。
elephant  カヌーを降りて向かったのは、ゾウのリハビリテーション施設です。かつてはこの地域にも野生のインドゾウがいたそうですが、現在ではほとんど見られないそうです。この施設では、いずれゾウを野生に戻す目的で飼育をしているようでしたが、中には調教を受けているようなゾウもいて、どんなプログラムが進められているのか、いまいち良くわかりませんでした。子象は、施設の中でフリーにされていました。この2頭は1歳ぐらいだそうです。じゃれついてくるのですが、体重は100キロ以上あるそうで、相撲取りと遊んでいるようなもので、すごい力です。
community  午後は国立公園のバッファーゾーンで運営されているコミュニティフォレストを訪れました。日本で言う入会い林野ですが、国立公園のバッファーゾーンとして、自然保護にも貢献しながら、適正な利用を目指しています。元々木材は建築材としての利用以上に、燃料としての需要が大きく、所得が低い農家はみな違法な伐採をしていたのですが、村でバイオ燃料のプラントを作り、燃料はそのメタンガスを使うようにしているそうです。(このプラントは残念ながら見学する時間がありませんでした。)左は、建築用の材を搬出しているところだそうです。このコミュニティフォレストでは、エコツーリズムに力を入れています。
community  左は、コミュニティのリーダーへのヒアリングの様子です。レンジャーの通訳で、いろいろと話を聞きました。コミュニティフォレストの年間収入のかなりの部分がエコツーリズムによるものだそうですが、近年は観光客数が減少しているのが、このところの悩みだそうです。このコミュニティフォレストの問題というよりは、ネパールの国全体の政情不安定の影響で、全体の観光客が減少していると考えられます。ちなみに、ここにも日本のツアーも訪れていて、先のゾウのリハビリテーション施設でも日本からのグループに出会いました。国立公園での違法伐採や密猟を減少させるためにも、周辺地域の経済の発展に貢献するツーリズムの発展が重要な課題です。
ride  このコミュニティフォレストのエコツーリズムの目玉は、このエレファントライドです。だいたい一頭のゾウに3人ぐらいで乗って森林を廻ります。私も初めてゾウというものに乗りました。何しろ座っている位置が高いので大変気持ちが良いものです。しかし、ゾウの歩みに体を合わせるのが意外に大変で、座るところに木の枠があるのですが、この枠に足を絡めて体を固定していたところ、そのうち足が痛くなってきてしまいました。でも、ゾウに乗って森の中を進んでいると、実に静かで、他の動物も警戒しないようで、ゾウに乗ってラインセンサスしたらきっとさぞかしいいだろうと想像しました。でも、ゾウを自由に使えるようになるまでに何年もかかるそうですが・・・。
rhino2  エレファントランドの間に、私が乗っていたゾウのゾウ使いが野生のインドサイを発見。追いかけて、じっくり観察することができました。前に豆粒のようにしかみえなかった野生のサイだったので、みな大興奮でした。もっとも、この年老いたサイは、いつもこの辺りにいるようです。森に入るとゾウ使いはそれぞればらばらに別れてサイを探しているようでした。森の中の水場がポイントのようです。どうやらこのツアーのハイライトのようです。とは言え、うちのゾウ使いが最初に見つけてくれたので、特等席で観察でき、感動でした。ゾウに乗っていると人間に対してもあまり警戒しないようです。慣れているというのもあるのでしょうが。
sunset  エレファントライドは、朝のカヌーと違って、思いの外長いものでした。たぶん、1時間半ぐらい乗っていたと思います。インドサイの他にも、イボイノシシやガゼルの仲間なども見られて、本当に満足でした。最後は、朝カヌーで通った川をジャブジャブと渡ったのですが、ちょうど夕日が美しく、本当に幸せな気分でした。一緒にいた日本の人の皆さんも普段は大変忙しい方々ですが、みな幸せそうな顔をしていました。このエレファントランドを今回のエクスカーションの最後に持ってくるあたり、企画したNGOもなかなかです。また少しは私たちの訪問も、コミュニティフォレストの運営に貢献できたかと思うのと、何だか良い気分でした。
old photo  昔は、ゾウは貴重な移動手段であるとともに、労働力でした。左は、第2次世界大戦後、イギリスの偉い人たちによる大規模なハンティングの様子で、そのさいにもゾウが使われたそうです。ゾウに乗っていれば獲物に近づきやすいのと、トラにも襲われにくいからだそうです。このときの猟は、記録に残る最大規模のものだそうで、一回の猟で何十頭ものベンガルトラが捕獲されました。この写真は、私たちが滞在したホテルの食堂に飾ってありました。横のもう一枚もやはり撮ってきたのですが、暗くてあまり良くわからないのですが、トラの皮を剥いで干してある写真で、何十等分もの皮が干されています。今では考えられませんが、当時は最高に名誉なことだったのでしょうね。しかし、現在のネパールでは、トラの違法な狩猟は後を絶たないそうで、個体数確保のための緊急の課題です。
hotel  最後は、朝靄に包まれたホテルです。昼間の気温は高いのですが、朝夕は涼しく、朝は必ずこのような靄に包まれていました。よって、鳥の観察にはちょっと適当ではなかったのですが、靄に包まれた朝も神秘的ですてきです。短い滞在でしたが、もっといたいとみなが思っていました。ここで何とか研究を始められないかと本気で考えている人もいました。もっとも、参加者の中には、ここで数年間調査をしていたという方もいました。一連の今回の学会のプログラムでは、いろいろな方に出会え、交流ができたことも大きな収穫でした。次は世界大会が2年後に南アフリカであるそうで、何とかがんばって行きたいものです。

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