ProNaturaFund助成研究成果
淡路棚田研究会では、2002年10月から2003年9月までの間、ProNaturaFundの研究助成を頂きました。ここでは、その研究成果を紹介しています。なお、この内容は、ProNaturaFundの報告書に掲載されました。
2002年度(第13期)プロ・ナトゥーラ・ファンド助成研究報告書
淡路島の農村地域のため池群における生物多様性保全に関する研究
Biodiversity conservation on small irrigation ponds in the rural area of Awaji Island
淡路棚田研究会生物多様性保全研究グループ
メンバー(当時の所属)
研究代表者 一ノ瀬友博(姫路工業大学/淡路景観園芸学校)
美濃伸之(姫路工業大学/淡路景観園芸学校)
藤原道郎(姫路工業大学/淡路景観園芸学校)
岩崎寛(姫路工業大学/淡路景観園芸学校)
森田年則(淡路景観園芸学校)
片岡美和(淡路景観園芸学校)
浅田増美(国営明石海峡公園)
片野準也(淡路景観園芸学校)
加藤和弘(東京大学大学院)
松村俊和(兵庫県)
要旨
小規模なため池が高密度に多数分布している兵庫県淡路島において、ため池群を中心とした農村地域に成立している生物相を明らかにし、その生物多様性を保全する方策を明らかにすることを目的として調査研究を行った。ため池は、耕作地への農業用水を確保するために、人為的に造成された水域である。よって、人為的な影響、さらにはその変化を抜きにして考えることはできない。本研究では、ため池を含めた農村地域の景観、土地利用変化、農業用水の管理形態といった文化的な側面と、そこに成立している自然的な側面の両面から研究を実施した。まず、文化的な側面の研究の結果、以下のことが明らかになった。水域を単位とした約100年間の景観構造の変化としては、下流域で変化が大きい一方で、上流域ではそれほど変化が見られず、また農村地域に点在する孤立林もそれほど変化していないことが明らかになった。さらに、詳細な集落レベルにおける過去40年間の土地利用変遷の分析の結果、耕作放棄地が増加していること、水田から畑地に転作される傾向が見られること、さらに農業用水の管理形態が土地利用変遷に影響を及ぼしていることが明らかになった。水利組合による農業用水の管理実態についての調査の結果、本研究対象地では非常に狭い範囲でも、異なる管理形態が存在する上に、それらが複層的に絡み合い、非常に複雑な水資源管理がなされていることが明らかになった。
主に生物相を対象とした自然的な側面の研究の結果は以下の通りである。ため池の水質はため池の地形的な位置にかかわらず、あまり大きな差が見られなかった。これはため池間で複雑な水のやりとりがなされるためである。また、多くの池で大きな水位変動が見られた。トンボ類についての調査の結果、ため池の環境に応じて、出現するトンボ相が変化することが明らかになった。主にイトトンボ類に対して行った標識調査の結果、移動距離は長くても150m程度であった。ため池の提体の草本層においては、提体の上部と下部で、異なる種が出現すること、また上部では外来種の占める割合が高くなることがわかった。ため池内部の付着珪藻については、付着珪藻の種組成が周辺の樹林率と水質に影響を受けていることが明らかになった。ため池を取り囲む水田の畦畔植生についての調査分析では、圃場整備が草本層の種多様性を減少させていること、高茎多年草の優占によって種多様性が減少した畦畔については年数回の刈り取りが必要であることが明らかになった。さらに、クズがアレロパシー効果により草本層の多様性を減少させている可能性が高いことが明らかになった。
以上の調査研究から、伝統的な水利慣行に支えられてきた多様な環境を持った数多くのため池の存在と一定の農業を通しての人間の関わりがこの地域の生物多様性を維持してきたことが明らかになった。
成果報告会のプレゼンテーションのスライドは、以下でダウンロードできます。
一ノ瀬友博(研究代表者) (2003.12) 淡路島の農村地域のため池群における生物多様性保全に関する研究. 第9回プロ・ナトゥーラ・ファンド助成成果発表会, こどもの城, 東京都. (QuickTimeファイル 648KB)
ProNaturaFundとは
ProNaturaFundとは、日本自然保護助成基金と日本自然保護協会による研究助成金です。詳しくは、日本自然保護協会のホームページのP.N.ファンドの項目をご覧ください。