ピークディストリクト国立公園

 ピークディストリクト国立公園は、日本ではほとんどなじみがありませんが、イングランド北部に位置し、マンチェスター、シェフィールド、ノッティンガムなどの大都市に囲まれていてアクセスも良いこともあって、イギリスで最も訪問者が多い国立公園だそうで、その数は世界的にも日本の富士箱根伊豆国立公園についで、2番目だそうです。(確認していませんが。)標高差がそれほど大きくなく、トレッキングには絶好の国立公園です。さらに、小さな美しい村々があり、最近では日本のガイドブックにも紹介されるようになってきたようです。マナーハウスもいくつか点在し、イギリスの庭園の中では著名なチャッツワースもこの国立公園内にあります。

 ピークディストリクトは、大きく2つの地域に分けることができます。砂岩を母岩とし、少し標高の高い北部と、石灰岩を母岩とし、古くから天然水が豊富で保養地ともなってきた南部です。観光地としても、農村としても、開けていて明るいイメージの南部に対して、北部は粗放的な放牧にしか適さないヒースの丘が広がります。その境は、拠点でもあるキャッスルトンあたりで、景観がドラスティックに変化します。

 まず、北部のヒースの丘ですが、左のように見渡す限り、ヒースです。ここは標高数百mなのですが、気温と水分の多い環境で背の高くなる木本は生育できないそうです。降雨によって供給される水分より、丘の上はすべて湿地で、厚く泥炭が堆積しています。しかし、近年酸性雨の影響か、この泥炭層が浸食されているそうです。

 8月の下旬から9月にかけては、ヒースがきれいな小さな紫色の花をつけて、一面紫色になるのですが、スライドでしか撮っていないので、またスキャンできたら載せたいと思います。ここでは、本当に見渡す限り、ヒースの湿地しか見えません。いつもかなり風が強く、このときも強風でした。

 次は、北部と南部の境目にあるキャッスルトンです。ここは、国立公園北部の拠点の村とも言え、夏には観光客が殺到し大渋滞になります。小さな村ですが、日帰り旅行に最適です。左の写真の真ん中に小さく見えるのが、キャッスルトンの丘の上に今でも残るローマ時代の城跡です。その他には石灰岩の洞窟がありますが、私は入ったことがありません。石灰岩の南部には、観光客に後悔されている洞窟がいくつかあります。また、この地方で取れる水晶の仲間のブルーストーンという石の採掘地も公開されているそうです。

 街並みも工業都市で、煉瓦造りばかり見ている目には、新鮮です。結局かないませんでしたが、時間があれば B&Bで一泊ぐらいしてみたいところです。

 次は、南部でもっとも人気の街とも言えるベイクウェルです。イギリスでは、ベイクウェルプティングが生まれた街として誰でも知っているそうです。ベイクウェルはキャッスルトンよりは大きいもののコンパクトな街で、何かがあるわけでもありませんが、そぞろ歩きをするような街です。イギリス国内の団体客もたくさん訪れます。
 こんな細い路地もあり、歩いていると面白い街です。また、小さな街にもかかわらず、洗練されたお店が多く、女性には堪らないようです。日本人の若い女性でしたら、「え〜、これかわいい〜〜。」連発することになるでしょう。
 路地裏には、こんなしゃれた喫茶店もあります。さて、ベイクウェルプティングですが、ロンリープラネットには、イギリスが世界に誇る菓子であるとまで書かれているので、食べてみました。2つ元祖をうたうお店があるのですが、両方試しました。よほど甘いものが好きな人以外はやめた方が良いでしょう。私にとっては4分の1でも、結構大変でした。
 ベイクウェルから車で10分ほど行った丘の上で、左のように国立公園南部の典型的な景観を一望できるところがあります。石灰岩が露出した急な傾斜の下には、川が流れています。この展望台には、カフェやパブがあり、イギリス人には人気のスポットになっていて、休日には駐車場もいっぱいです。ここから歩くフットパスもあります。
ここまでの写真はすべて大学時代の同級生河合氏の撮影
 場所は変わって、ピークディストリクト国立公園でも一番西のはずれで、マンチェスターとの境に位置するライムパーク (Lyme Park)です。ここは、ナショナルトラストの所有する土地で、マナーハウスと庭園、さらにはそれを取り囲む旧領地が保存されています。トラストの管理する区域は、自由に歩けるので、マンチェスターから近くて、国立公園の雰囲気を十分に楽しめます。
 左の写真ではあまりよくわからないのですが、高台からはマンチェスター市街を一望することができます。ここからそう遠くない空港もわかります。マンチェスター周辺は非常に平坦なので、街を望むことができるところは限られています。手前は、敷地内の放牧地で、現在でも羊や牛が放牧されています。
 敷地内には、放牧地だけではなく、森もあり管理されています。森の中に家畜が入らないように石の塀があるのですが、トレッキングする人は左のようなはしごで塀を越えなければなりません。昔ながらのはしごですが、なかなか楽しい散歩コースです。この塀は、伝統的な空石積みで、この地方での農地の教会としても使われています。崩れてしまうと修復が難しく、その維持が課題になっています。
 森の抜けると、ライムパークで最も高い地点に出るのですが、その景色はもう大都市のすぐそばであることを忘れさせるようなものです。敷地全体を1周してもたかだか1時間半ぐらいなのですが。
 木に隠れてしまっていますが、ビスタの向こうにはお屋敷があります。屋敷には美しい庭園がありますが、こちらはまたの機会に。
 最後に、ベイクウェルで見つけたすてきなティーポット。ここにはいろいろなかわいいティーポットがあったのですが、これはやっぱりあんまりかも。ズバリ便器です。これで入れてもらったらショックでしょうね。お値段は22ポンド、買って帰りたい衝動に駆られましたが、うけねらいだけですし・・・。