SFC 清水唯一朗研究室

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研究関係
2020年1月30日
台湾総選挙見聞録(5・終)投票日(1月11日)


(決戦の日の朝の台北・中山堂。台湾の民主主義にとっては歴史的に重要な場所だ)

 いよいよ投開票日です。もちろん選挙権はありませんが、終日、あちこちを見て回りました。
 9日、10日の凱道大造成を見に行ったことで夜更かしが続いていたため、投票日の朝はゆっくりスタート。旧知の先生にお声がけいただき、投票所の見学に向かった。
 

(台北市内の投票所。地番ごとに部屋が異なる)

 台湾の立法委員選挙は、小選挙区比例代表制を採る点で日本の衆議院選挙と似ているが、いろいろと面白い違いがある。まずは選挙権。何度か書いてきたとおり、投票は本籍地で行う。多くの場合、学校や公共施設が投票所となることは日本と同じだが、写真のように、地番によって投票する部屋が分けられている。投票所のスタッフには学校の教職員なども借り出されるそうだ(日当が高いという話も耳にした)。
  

(投票の方法と禁止事項を伝えるCM(TVBS新聞台)。買収禁止などもあり、生々しい)

 投票は当日の朝8時から夕方4時までの8時間と短く、期日前投票はない。投票所で必要となるのは身分証と印鑑で、携帯は投票所に持ち込むことが固く禁じられている。撮影や教唆を避けるためだという。罰金は日本円にしておよそ10万円以下と高額。同様に投票用紙を持ち帰るとおよそ5万円以下の罰金。特に後者はうっかりさんが多いのか、投票日当日のニュースでもひたすら注意が喚起されていた。
 投票所に至る廊下には選挙広報が貼られ、総統・副総統の場合は候補者の指名、生年月日、性別、政党、住所(!)、学歴、経歴が、立法委員の場合は氏名、生年月日、出身地、政党、学歴、経歴、政見が記されています。立法委員は選区(小選挙区)、不分区(比例代表)、原住民選挙の三つがある。比例代表は拘束名簿方式で、今回選挙では国民党の名簿順位がいろいろ話題になっていた。
 
 
(左:投票風景(前回選挙のテレビCM)、右:蒋候補のビラにあった投票用紙イメージ)

 もう一つの大きな違いは、投票用紙が自書式ではなく、捺印式であることだ。投票用紙には番号、候補者の顔写真、同氏名、政党がかかれ、投票したい候補の上に赤い指定のハンコを押す。一昨年に見たトルコの総選挙も同じ方式だった。他方、候補者数や政党数が多いと、投票用紙はかなり横長で扱いにくいものになる。実際、今回選挙では比例区に19の政党が名乗りをあげ、投票用紙はハチマキを超える長さだった。(Taiwan Todayの記事に写真があった<リンク>)
 自書式でないことにより、開票は容易になる。開票は投票所ごとに行われ、投票箱(厚手のボール紙製?)から一枚づつ取り出して掲げられ、読み上げと確認が行われる。票数は正の字で積算され、選挙管理委員会に報告される。
 

(台北の繁華街・中山駅からすぐの投票所。自動車修理工場の隣にある小さな集会場のようなところ)

 
 開票が小さい単位で行われること、統一されたハンコを捺して投票するため、一票一票の内容が明確であり疑問票が少なく済むことなどから、開票の進捗は早い。夜7時には大勢が判明すると言われていたので、若い知人との食事を早々に終えて宿に戻り、中継を見始めた。知人は友人たちと集まって見るといい、台湾の選挙はマツリであるという話は本当なのだなと感じた(彼には一人で中継を見ると言ったところ笑われたが、こればかりは中継で見ないと全体像がわからない)。
 

(国民党に近いとされるTVBS新聞台の速報)

 台湾のメディアは、親国民党、親民進党など、党派色があるところが多いといわれる。バランスよくと思い見始めると、国民党に近いとされるTVBSが国民党が発表する票数をあげて報道していた。7時前の段階ですでに133万票差。圧倒的な蔡候補の勝利がこの時点でほぼ間違いないものとなっていた。9時ごろになると各局とも選挙管理委員会が発表した票数に切り替えていた。少しタイムラグがあるようだ。
 興味深かったのは、当選確実の報道がないようで、候補自身が自ら当選を声明するスタイルが取られていることだった。台北第6選挙区の許淑華候補(民進党)が接戦のなかで早々に勝利宣言を行うと、国民党の林奕華候補が反論の中継を行うなど、混乱も見られた。日本の「当打ち」の意味を考える要素になりそうだ。 
 

(国民党に近いとされる中天新聞台による蔡候補の勝利演説中継)

 9時になり、民進党本部前の特設会場で、蔡候補の当選演説が始まった。表題は「国際記者会見」であり、世界に対して蔡政権による台湾の立場を明確に発信するものとなった。
 総統選挙だけみれば、蔡候補817万票に対して韓候補552万票で民進党の圧勝と見える。蔡候補は前回より128万票伸ばして信任されたかたちだが、韓候補も前回の国民党候補より171万票伸ばした(この背景には、前回選挙で年金問題に絡んで官僚と軍人が国民党に投票しなかったこと、それがおよそ170万票程度であったといわれる)。
 他方、立法委員選挙では民進党は7議席減の61議席の一方、国民党は3議席増の38議席であり、比例代表では民進党が33.98%(13議席)に対して国民党も33.36%(同)と健闘したことは注意すべきだろう。このあたりは別稿を期したい。
 

(中山駅ちかくの文昌宮。参拝客でにぎわっている)

 なぜこれほどまでに自分は台湾に惹かれるのか。選挙を見に来るたびにその答えに気が付かされる。ここからの4年間、そして4年後の選挙はどうなるのか。10日夜の調和に包まれた選挙集会のような、穏やかな日々が待っているとは思えない。優しく、温かく、しかししたたかで強い。そんな台湾にこれからも惹かれ続けるのだろう。