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取材より

  第三章で述べた問題点は資料を研究することによって出たものである。とすれば、次は取材によってこれを証明すればよい。というわけで、私たちは取材を自分たちの今までの考察を裏付けるためのものと位置付けて、質問内容などを練った。しかし、取材の結果は、私たちに新しい方向性を示したのだ。
  取材の時期は、3つにわかれており、その一つ一つで私たちの考えは揺れ動くことになったのである。
  では、第一期の取材結果から考察してみたいと思う。勝手に第一期といったが、取材先は某政治家、および産経、読売、毎日、の新聞社と外務省の官僚の計5箇所である。
  まずは、各新聞社の結果から見てみたい。これらの新聞社はいずれも大手であり記者クラブの会員でもある。
  どの新聞社も記者クラブのメリットとして効率的な取材ができるということをあげている。しかし、それは独自取材のなさ→画一的な記事という危険性におきかえることができる。また、デメリットについては、情報操作される可能性や容易に情報を得ることができるので記者の不勉強を導いてしまうことが、裏付けられたがそれは記者自身の問題であるとした。
  そして、癒着の典型的な例としての懇談については、やはり信頼関係を重視せざるをえないが、かといっていいなりというわけでもないと答えている。
  記事の匿名発表については、責任の拡散が主な理由としたが、その記事によって世論操作が行なわれるという点については是非がわかれた。
  情報公開については、どの記者も賛成(取材がしやすくなる。特に公開をいやがる情報を得ることができる)であったが、それによって記者クラブ自体は影響をうけることはない、としている。
  どの記者もいっていることは大体同じであったが、私たちにショックを与えたのが次の言葉である。「記者クラブと情報公開は別物である。なぜなら、記者クラブはタイムリーな生の情報を扱っているが、情報公開は過去の情報を扱うものだから」。なぜ、そういい切れるのか?これが、取材が私たちに与えた最大の論点であった。
  それでは、次に政治家、の結果を見てみたいと思う。この政治家は行政改革の役職についており推進派といわれる立場の人である。
  彼は、情報公開によって「官僚が情報を独占している」状態を打破することができ、それによって行政改革が成る、という意見を示した。あまり、国民の知る権利などには触れず、行政改革をするための情報公開制度という考えが大きいようだった。また、記者との関係については「やはり良く書かれたい」という意見であり、懇談(オフレコもオンレコもあり、その会合がどちらであるかは情報提供者によって決定される)はあまりに日常的であるので、悪いなどの意識はないということだった。
  最後に、外務省の官僚、の結果を見たいと思う。この官僚は、外交記録などの公開に関わる役職についており、記者クラブよりは、官僚の情報公開に対する考えを聞くような感じでインタビューした。
  外務省といったら情報公開に対して頑なというイメージがあるが、彼は情報公開は賛成とし、情報公開の問題点をいろいろあげた。そのなかで、省庁にははかり知れないほどの情報があり、それを一気に公開対象にするのは物理的に無理であるとした。つまり情報公開がそのまま行政改革につながるという図式は難しいという意見なのである。また、情報公開で省庁に対する国民の理解が深まれば、それだけ仕事がやりやすい、とむしろ情報公開は省庁に有益、とした。こちら側の公開だけを議論しないで、情報公開を使用する側の責任についても話し合われるべきとも発言した。
  少しだけ記者クラブについても聞いたが、記者クラブは他のルートから情報がながれることを非常に警戒している、という感じのことを言っていた。世論操作については、記者に良く書いてもらって世論の支持を得ることができるならばそれはそれでいい、ということだった。
  ここで、まとめる前に、どういう形で取材先を決めたかをまず説明しなければならないと思う。私たちは取材先を記者クラブ側のメディア、記者クラブに入っていないメディア、政治家、官僚としたのである。つまり、取材によって形成される議論にはこの5つのアクターに加えて国民(つまり私たち)があるはずである。だとすると、(記者クラブに入っていないメディアを除く)取材結果から、そして私たちの考えた情報公開(第二章)から考えればわかるように、それぞれの立場でそれぞれのことを言っていて、全く情報公開に対して統一の論点を持っていない、という大問題が浮かび上がるのである。特に記者クラブが国民の立場にちっとも立っていないというのが印象的である。このそれぞれの立場の是正を情報公開の課題とするという流れが、またここでできてしまった。これを第三の結論として覚えておいていただきたいと思う。  
  次に第二期の考察に移りたいと思う。第二期は週刊新潮、日刊ゲンダイといった記者クラブからはずれているメディアが対象であった。
  ここに、まず挙げるのはグループリーダーの谷田が書いた取材の報告書である。
              記者クラブに所属できない雑誌社、新聞社を取材 

  私の担当した取材先は、週刊新潮と日刊ゲンダイだった。
  私はあらかじめ、記者クラブに入らないマスコミを取材することが決まっていたので、記者クラブの欠点や改善面を彼らにこたえてもらうことを予想し、記者クラブに批判的な論文などを中心に勉強したうえで取材に望んだ。

        取材前に予想していた彼らの答え

  自分達も記者クラブにはいっているマスコミと平等なあつかいをうけ、取材を拒否されることなどないようにしてほしい。
  記者クラブの記者と政治家や官僚が癒着して政治家や官僚に不利益な記事は隠されているのは、まちがっている。
  故に記者クラブは撤廃すべきだ。

        実際返ってきた答え

  「記者クラブは即刻廃止するべきですよね?」こう聞くと意外にも、にがむしをつぶしたような顔をされ、はっきりとすぐに「そうだ。廃止するべきだ。」という答えはかえってこなかった。
  日刊ゲンダイの編集者、「記者クラブに属している大手の新聞は、政治家のスクープねたを取ったとしても、日頃良くしてもらっているので、おもてざたに書けない。その、大手新聞が書けないことを我々が書くと、うちの新聞が売れる。だから、急に記者クラブを廃止して大手の新聞でもうちの新聞のねたを書かれちゃうと、うちのねたがなくなっちゃうからねえ。」
  さらに次にようなことも言っていた。
  「それに、うちは、記者クラブの記者に、お金を払い記事を書くことを依頼することもありますからね。記者クラブがなくなって、大手も中小新聞社も自由競争になったら、大手新聞社の記者はお金を払っても、特ダネを教えてくれなくなるでしょう。それも困りますね。」

  記者クラブに所属している記者は優遇されて政治の内部情報が聞ける私的な懇談会などに出席でき、確かに政治家がマスコミに報道したがらない本音の情報を得る事が出来る。しかし、そのような私的な集まりで政治家が話す事はオフレコ(記事にしない事)が暗黙の了解になっているので、記者倶楽部の記者は裏情報が増えるばかりで、記事にできない。そこで、政治家に私的に取材が出来ない代わりに言いたい事が自由に書ける中小メディアに記事を売るのだ。

        実際に取材してわかったこと

  このように、記者クラブにはいっていないメディアはそれはそれなりに、うまくやっていて、今の体制にある程度満足しているらしい。うまくやっているとは、つまり、クラブ所属組と非所属組で書く記事の分野を分担しあい、上手に住み分けているということだ。非所属組も、ある意味では記者クラブがあるおかげで、自分が取材にいかなくても裏情報が入るなどの、既得権益を受けているのだ。
  記者クラブに入れないメディアにも利益があるとしたら、誰も記者クラブ廃止を求めず日本のマスコミ体制は変わらないだろう。マスコミの会社だって、他の企業と一緒で新聞や雑誌が売れ、もうかればいいのだから取材は公平でなければならないという正義感は新入社員以外は持たないのが真実なのだろう。

        彼らの本音を聞いて考えたこと

  確かに今の記者クラブ体制でもそれなりに、政界などの裏情報も流れ、マスコミ業界全体はうまく動いていることはわかった。急にクラブを解体しても混乱するだけかもしれない。しかし、中小メディアにいくら本当の裏情報を載せても、読者はごしっぷとして喜んで読んでも、「きっとこんな記事、中小の新聞社が書いてるからでっちあげだろう。」と思われてしまう。
  さらに、やはり、自分の足で取材に行き、自分で直接聞かずに、その話をソースから得た他人(大手新聞記者)に記事を依頼すると真実がゆがむこともあるだろう。
  そして、記者クラブの一番大きな欠点は、政治家や官僚が特定の人にしか自分の仕事の内容を伝えようとしない態度をとることだ。空想的な理想論といわれるかもしれないが、基本的なことをいえば、政治家や官僚は特定の人のために働いているのでなく、国民全員の公僕のはずである。だから、自分の仕事内容は原則としてはすべて一般国民に発表する姿勢をもつべきだ。そういう態度をとれば、政治家や官僚が個人の利益のために、自分の役職を利用して賄賂をもらうなどの汚職が蔓延する雰囲気もなくなるはずだ。
  以上の3つの理由から私はやはり記者クラブは少しずつでも解体すべきだとおもう。
大手も中小もみんな一斉に取材にでれば、かえって政治家や官僚の口がかたくなる場合もあるかもしれない。しかし、沢山のメディアが一斉に彼らに圧力をかければ、口を固くする事自体が、国民の知る権利を侵しているという根本的な権利の問題に気がつき、政治界や官庁に新しい風潮が生まれるだろう。

        記者クラブを解体するには

  しかしいくらクラブを解体せよといっても、マスコミ自体は自分たちにある程度利益があるから動かないだろう。まずは一般国民がこの問題の存在を知らねばなるまい。
  そのためには、マスコミとも政界とも官庁とも中立の、草野先生のような方が、記者クラブの存在を客観的に一般国民につたえるべきだとおもう。

                                        谷田 望美「報告書」全文(少し改変)
  このように、第二期の取材を終えた時点で、記者クラブを(または、マスメディアを)なんとかする、という方針が浮かんだのは、記者たちがこの情報の無法地帯についてなんら問題点を抱いていないと、取材によって感じたからかも知れない。
  ここで、議論になったのは、では、情報公開をどうするのか、ということである。
  情報公開の意義はどこに見い出せばいいのか。
  結局、それを、私たちは「情報のチャンネルの多様化」に定めることにした。記者クラブを情報の独占機関と見るのではなく、記者クラブの外側のメディアも含めた、全ての報道機関が情報公開制度の確立されていない中で情報を独占しているのではないか、と考えるようになってきたからである。これが、第四の結論であり、この要素は、次の章で紹介するシミュレーションに強く残っている。  
  最後に、第三期として、東京新聞のジャーナリストへの取材を直前に行なった。これについては、結論に反映されているのでそちらの章で考察しようと思うが、これを含めると、結局私たちの導いた結論は5つということになったのである。



Atsushi Kusano
Sat May 10 19:30:05 JST 1997