映画ストーリー原案『REAL ILLUSION』
[Noise Creators, 1994年]



【第1章】  異変

画面は真っ暗。 窓のようなものが開く。
(実はオーブントースターレンジの中からの視点)
玲子がのぞいている。信也ものぞきこんだ。
信也「お、うまそーじゃん。」
信也の下宿は2階建てで、学生ばかりが住んでいるマンションだ。 テレビでは、なにやら騒がしいバラエティー番組をやっていた。 玲子がケーキを運んできた。
徹「ケーキにロウソク立てるぞ。ライターある?ライター。」

マンションの右から2つ目の窓の明かりが消えた。 ロウソクの明かりが3人の顔を照らしている。
玲子「Happy BirthDay to you ………。」
信也「おい、やめろよ。恥ずかしいだろ。」
照れる信也。
玲子「何言ってんのよ。せっかくケーキにロウソク立てて雰囲気いいんだからいいじゃない。」
徹「あ、ちょっと待って……。ダイナから曲だせるよ。」
徹はラップトップコンピュータを開いてカチャカチャとキーボードを打ち始めた。 ディスプレイの光がボウッと徹の顔を照らす。
「ティラリラ………」
電子的な音が鳴った。
徹「OK。」
コンピュータから出る電子的なメロディーにのせて、2人が歌い始めた。
2人「Happy BirthDay to you
   Happy BirthDay to you
   Happy BirthDay dear Shin'ya
   Happy BirthDay to you    」
信也は思いっきり息を吸って1度止めた。 そして今度は思いっきり吹いた。
信也「ふぅーーーーー!!」
風でロウソクの火が大きく揺れ、辺りは真っ暗になった。
闇、そして静寂。


信也「ん?徹、そこの電気スタンドつけてくれよ。」
返事がない。 信也は手探りでライトを探した。 しかし手は空をつかむだけ。そこにあるはずの机さえなかった。
「?」
どこからか、懐かしいノスタルジックな音楽が聞こえてきた。 オルゴールのような感じだ。 そして目の前が徐々に明るくなってきた。 暖かい色の光がだんだん信也を照らす。
「!」
信也は顔をしかめた。そして、ゆっくりと立ち上がった。
「(どういうことだ?)」
声にはエコーがかかり、とても不思議な感じだ。
夢の中なのだろうか?
目の前には大きな門があった。城の入口のような大きさだ。


信也は門の方へゆっくりと歩いていった。
なんだかスローな時間が流れているような感じで心地よかった。
信也はそのまま門を通り抜けた。

通り抜けた瞬間、パッと光は消えてしまった。 そして、後ろを振り返ったが、もう門はなかった。 音楽も一緒に消えてしまった。


信也はわけがわからなかった。 信也が立っているのはSFCの正面入口の前だったのだ。
後ろを振り返ると崖だった。 いつもバスが通るあの道路は崩れ、下の方は暗くて見えない。 信也は急に恐くなって、早足で中心の方へと歩いていった。


ちょうどメディアセンターの手前に来たころ、諭吉像の方から声が聞こえてきた。 信也は「助かった!」という感じで走っていった。
諭吉像前には、信也のサークルの友達が2人話ながら歩いてきた。 2人はテニスラケットを持っているところをみると、サークルの帰りだろうか。 信也は一応テニスサークルに所属しているが、最近は全く出ていない。 彼ら2人とはサークルに出ていた頃の友達だ。
信也は近づいていった。
「大谷!!良かった、なんか俺さぁ………。」
信也は大谷の前に立って話かけたが、2人は全く気づかない様子で向かって来た。 そして、なんと信也の体をすり抜けて、信也の後ろの方に行ってしまった。
信也は「あれ?」という感じで、振り返って、また声をかけた。
「おい!大谷!俺だよ、俺。おい!!」
2人に後ろから近づいて、肩に手をかけようとした。
ジュワッ。
今度は手が大谷の体をすり抜けてしまった。 ゴーストみたいだ。この2人には実体がない。目には見えるが、手で触ることが できないのだ。
いや、まて。逆に幽霊部員の信也の方がゴーストなのか? 信也は自分の手をまじまじと見つめた。
そしてもう一度2人を見た頃には2人はだんだん薄くなり、最後には消えてしまった。 信也はしばらく呆然と諭吉像前に立っていた。



後ろの方で、ガサッと音がした。 信也は人影を感じて、ビクッとした。 意識がずっと後ろの方の人影に集中する。
しばらくして、聞き慣れた声が聞こえた。
玲子「あれ?信也?」
玲子だった。 玲子は小走りに走り寄ってきた。

玲子「よかったぁ。なんか私、信也の部屋にいるはずだったのに、突然SFCにいるんだもん。びっくりしたよ。」
信也「俺もびっくりした。わけわかんないよ」
信也は玲子の腕をそーっと触った。 確かに感触はある。さっきのようにすり抜けたりはしない。
玲子「どうしたの?」
玲子が変な顔をして聞いた。
信也「あ、いや。なんでもない。大丈夫。」

玲子「そうそう。徹は?徹もどこかにいるんじゃない?」
信也「そうだなぁ。そこら辺探してみるか。」
2人が話していると、向こうから人影が近づいてくるのに気づいた。
玲子「あれ?徹かなぁ? おーい!」

大声で呼びかけるが、何の返事もない。 だんだんと顔の見える距離になってきた。 少し恐い顔つきで無表情な男だ。 信也は、何か不気味なものを感じて、冷や汗が出てきた。 信也は後ずさりをしだした。
玲子「徹じゃないみたい。でも、あの人に聞いてみようか。」
玲子は男に近づこうとしたが、信也は強い声で止めた。
信也「やめろ、玲子!あいつはやばい!」
玲子「え?」
信也「行こう!」
信也は玲子の手を引いて逆方向に走り始めた。
玲子「どうしたの?信也。」
信也「いいから!とにかく何かあいつは危険な気がする。」
信也が逃げ始めたのを見て、男の目が鋭く光った。

男は少し早足になった。 それでも男は決して走らなかった。
この余裕さと1歩1歩の力強さで、この男の力が強いことが伺える。
恐怖心が信也を襲った。
鋭い刃物の切れる音とともに、あの男に殺されるシーンが頭に何度もよぎった。
信也の鼓動が激しくなった。 2人はSFC正面入口の方へ走っていった。

しかし途中で信也は、このまま行くと崖だ、ということに気づいて、少し戻った。

男はどんどん近づいてきた。2人はラウンジの方へと逃げた。 そして鴨池とメディアセンターの間を通って、κの方へと走った。
男は機械兵士のようだ。 表面上は人間の形をしているが、中身は機械なのだろう。 機械兵士はスコープを通じて世界を見、そして解析したデータがスコープ上に映る。

信也は走って走って、走り続けた。
しかし機械兵士はぐんぐんと近づいてきた。
信也は夢中で走った。
玲子が少し遅れ気味だった。
信也は振り返って玲子の手をつかみ、走り続けた。
機械兵士はかなり近づいていた。

突然、機械兵士を稲妻が襲った。 そして機械兵士は立ったまま動かなくなった。
信也たちは驚いて後ろを見た。
そこには背の高い男が立っていた。 彼もまた無表情だ。 不思議な雰囲気が体じゅうからあふれていた。
彼は突然空中に手を突っ込み、そして開いた。 空間の隙間からはまばゆいばかりの光が漏れてきた。 そして信也の方を見つめると、振り返ってその中に入っていった。 信也はそれに引かれるようにその後を追った。 そして玲子も………。

しばらくして機械兵士は回復した。 スコープで辺りを見回す。 誰もいない。スコープにコンピュータ文字がたくさん流れる。 そして機械兵士は後ろを振り返り、去って行った。