映画ストーリー原案『REAL ILLUSION』
[Noise Creators, 1994年]



【第3章】  逃走

玲子と信也は研究棟の廊下を急ぎ足で歩いていた。
特別教室のドアの前でIDカードを通し、中を見る。
徹のことだから、きっとコンピュータのところにいると思ったのだ。
次々と見て回った。

その時、物陰から人影が動いた。
ジーパンにスニーカーだ。 機械兵士ではなく、女の子のようだ。
しかし、2人はそれには気づかなかった。


もうひとつ、二人をとらえていた”目”があった。
監視カメラだ。

機械兵士はその模様をしっかりと傍受していた。
機械兵士も、Jackと同じように監視カメラの映像にアクセスしていたのだ。
エレベーターの扉が開いた。
機械兵士の鋭い顔が現れる。
そしてゆっくりと力強く歩き始めた。


徹はCGの世界にいた。
その中にはいろいろな窓があり、いろいろなものが見えた。『CLOSED』の窓もあった。
1つ、そして2つ。徹は次々と『CLOSED』を見つけた。
徹にはそれが何であるかはわからなかった。
右下のディスプレイには

『CLIENT CODE 128:友人 からアクセス要求が来ています。』

と表示されていた。


信也たちの正面の角から、機械兵士が姿を現した。
信也と玲子は走っている勢いを殺そうとして、転びそうになった。
機械兵士はゆっくりと向かってきた。
信也は突然の恐怖に腰が抜けたように体に力が入らず、すぐには立ち上がれなかった。
機械兵士は信也の襟元をつかんだ。
そして信也を軽々と持ち上げた。
信也は宙ぶらりんになり、足をばたばたさせた。
ベルトのところから小さな人形がスローモーションで落ちた。
玲子が誕生日プレゼントにあげた、手作りの信也のマスコットである。

機械兵士は信也を大きなガラス窓の方に投げつけた。
ガラスは大きな音を立てて割れ、信也は破片とともに地面に叩きつけられた。
左足の足首の辺りをガラスの破片が刺さり、血が流れた。
機械兵士が振り返り、玲子の方を見た。
玲子は恐くなって、信也の方に駆け寄った。
そして尻もちをついている信也をせかして、起きあがらせた。
機械兵士はゆっくり足を踏みだした。
信也のマスコットがちょうど機械兵士の足に押しつぶされた。
信也と玲子は無我夢中で逃げた。
周りの景色は流線型で流れていった。
すべての色が混ざり、そして何も目に入らなかった。
心臓は張り裂けるほど高鳴っている。
機械兵士はゆっくり後を追う。

2人はあるドアに入った。
そこには廊下が続いていた。信也はドアの電子鍵を『LOCK』にした。
天井の監視カメラはそれをしっかりとらえている。
機械兵士は2人を見失ったが、今度は、監視カメラの映像をチェックしだした。
兵士は、2人がドアに入った映像を見つけた。
そのドアを見つけると、機械兵士はまた他のコンピュータにアクセスして、電子鍵を リモート解除した。


徹の右下のディスプレイが赤く点滅し、警告音が鳴り響いた。

『警告: CLIENT CODE 128:友人 からあなたへの救助要求値がMAXに達しました。 』

徹はその時やっと2人のことを思いだした。
徹はディスプレイに監視カメラの映像を出していった。
それ見たJackは、なぜか不機嫌そうな顔をした。
焦っていて、キーボードの打ち間違いが多い。
そしてやっと、信也たちを見つけることができた。
そこに映っているのは、2人が兵士に追われている場面だった。

徹はどうすればいいのかわからなく、ただただディスプレイを食い入るように見つ めていた。
Jackが突然画面のスイッチを切ってしまった。
徹「何するんだJack! 早く元に戻せ!」
Jack「君は気が散り過ぎだ。もっと集中力が必要だ。不要な画面は消さ…。」
徹「何言ってんだ。信也と玲子を助けなきゃ。コンピュータの話は後だ!早く元に戻せよ。」
Jackは徹を見つめていたが、徹の鋭い目付きに負け、ぼそっと言った。
Jack「わかった。まず、このトラブルを解決しよう。その後、君をデジタルアンダーグラウンドへ招待する。それならいいのか?」
徹は話半分に聞き、「あぁ。」と軽く受け流した。
Jackは仕方ないといった感じでスイッチを入れ、コンピュータに向かった。 そして、キーボードを速攻で打ちまくる。 画面にはデータの嵐が吹き荒れ、そして、画面が止まった。
Jackがニヤッと笑った。
Jack「よし、ぼくが安全な場所に連れていく。君はここで待機していてくれ。何かあったら連絡する。」
徹の前のコンピュータがピッとなった。

『ほら、こんなふうに。』

と、Jackからのメッセージが表示されていた。
徹「わかった。」
Jack「じゃあ、行くぜ。」
そう言うと、空中で光っているパネルを押し、Jackの体はディスプレイの中に 吸い込まれていった。