映画ストーリー原案『REAL ILLUSION』
[Noise Creators, 1994年]



【第6章】  決戦

3人はΩ館のドアを開けた。
中は薄暗く、プロジェクタースクリーンは青く光っていた。
3人が入ると、プロジェクター前に人影が立った。
人影はこちらをゆっくりと振り返り、口元がニヤッとした。
機械兵士だ。

ブラインドがパタパタッと閉まった。
そして大きな扉の鍵の閉まる音がした。
完全に出口はふさがれた。
ブラインドがガードしているため、窓ガラスを割って逃げることさえできない。
機械兵士がゆっくりと歩いてきた。
信也は机の上に乗り、棒を構えた。
機械兵士もそれにあわせて、机に乗った。
兵士と信也がジリジリと近寄る。
そして、もう少しで攻撃範囲というところで徹は発信機を兵士に向けレーザーを放った。
機械兵士はレーザーのノイズによって動きを封じられた。
機械兵士はレーザーやノイズの種類、強さ、波形など状況分析をはじめた。
信也は思いっきり棒で殴りかかる。
機械兵士の肩に当たり、棒は曲がった。
そしてもう一度。今度は機械兵士の顔に横から食らわせた。
兵士は頭の傾いたが、全く効いてないようである。
機械兵士の顔のマスクの一部がはがれ、中から機械の部分が見えた。
回路に電流が流れているのもはっきりわかった。
さらに今度は腹のあたりに突き刺そうとするが突き刺さらない。

すると突然兵士の手が動いた。
機械兵士は徹と玲子を捕まえ、プロジェクターの方に投げた。
すると、なんとプロジェクタースクリーンの映像の中に閉じ込められたのだ。
徹は映像の世界の中から、ガラスを叩いているように画面を叩いて叫んでいるが、何を 言っているのか、こちらからは聞こえない。

機械兵士は信也の方を向いた。
信也は思わずゾッとなった。
そして死にものぐるいでパイプを振り降ろし、襲いかかった。
しかしパイプは体にあたって止まり、兵士の手はゆっくりとパイプをつかみ、 投げ飛ばしてしまった。
この動きのゆっくりさがかえって不気味だ。
全く効いてないのだろう。

カランカラン………。
静かな部屋に鳴り響いた。

絶体絶命である。
兵士は信也を殴った。そして何発か拳と蹴りが入った。
尻もちをついた信也の口から血が垂れた。 信也は恐くて恐くて仕方なかった。
こんな恐くて辛い思いをするくらいなら、いつものダラダラした生活の方がマシだ。 そう思った。
信也は逃げようとしてドアの方に走り、一生懸命開けようとするが、やはり開かない。
そこへ、空中に光の穴が開いた。
光の中に背の高い男Yの顔がちらついた。
またYは信也をいつものようにラウンジに逃げ込ませようとしているのだ。 信也はそこに逃げ込もうとはいつくばって近づく。

徹がプロジェクタースクリーンの中で呟く。
徹「だめだ信也………。逃げちゃだめだ。」
しかし信也には聞こえない。

信也はふと頭の中でいつもの生活が思い出された、
いつも何かから逃げ、ラウンジで何もしないでいる日々。

機械兵士はジリジリと近づいて来ている。

(信也の顔をだんだんとズームアップしていって、合間に生活のフラッシュバックを  入れる)

心臓の高鳴りはMAXに達している。
徹「信也!その恐怖心に負けてたら、いつまでたっても何もかわらないんだ!」
やはり徹の声は信也には届かない。

光の中のYの顔を見て、ラウンジでの三人のやりとりを思いだした。
玲子がYの言うことを聞かずに、徹を探しに行ってしまうシーンだ。

機械兵士はかなり近づいて来ている。
ハッとなった信也は急いでポケットに手を突っ込み、『かけら』を取り出した。
『かけら』は青白く光っていた。

玲子「夢のかけら………。」
プロジェクタースクリーンの中の玲子が呟いた。
徹が「え?」という感じで玲子の方を向くが、目を丸くしてまた信也の方を見た。

機械兵士が信也に襲いかかった。
大きな体が、座り込んでいる信也めがけて覆うように襲ってくる。
信也は少し体を乗り出して、両手で『かけら』を持ち、手をのばして構えた。
銃を向けるような感じだ。
三人にはこの一瞬がスローモーションで感じられた。
そして、その瞬間音は全くなかった。
徹と玲子がプロジェクターの中から見守っている。
機械兵士の拳が信也の顔をかすめた瞬間、『かけら』からまばゆいばかりの 一筋の青白い光の束が天の方へとのびた。
光は機械兵士の胸を突き抜け、機械兵士の体は宙を舞って、床に叩きつけられた。
機械兵士の胸は貫通して、機械がむき出しになり煙が出ていた。

機械兵士のスコープはダウンし、機械兵士は全く動かなくなった。
ついに勝ったのだ。

(結局、機械兵士とは、信也が何か新しいことを始めようとするときに襲ってくる  不安感や恐怖感の表れだったと言える。そしてYが意味する心の弱さによって、  いつも逃げて、いつもの安全で退屈な場所に戻ってしまうのだ。そんな機械兵士を信也は『夢のかけら』で倒した、ということだ。)

プロジェクターの中から徹と玲子が飛び出してきた。
ブラインドが上がり始めた。
嵐の後の静寂………。