1999年7月「コンピュータによって人生が広がった!」を実感している受講生達の喜びの声と、元大学教授であり教室主宰者の孤軍奮闘の様子を投稿し朝日新聞に掲載された。反響と共に各地からコンピュータに関する質問、相談が相次いだ為、急遽教室のホームページにオンライン・クラブ「トラの穴友の会」を創設した。唯一のボランティア事務局員として会員へコンピュータに関する最新情報、週1回の「情報メール」などを配信し、双方向の参加、利用を促す活動を継続していた。
その中で、シニアがコンピュータを習得する動機は、単なる情報格差の危機感による新しい挑戦だけではない事が確認できた。体験してきた自身の人生背景に重ねて、新たな情報技術を学ぶ事により喜びを感じ、生きがいに繋がる多数の事例を実務経験の中で見聞する事が出来た。
2件目は、毎日の通学に神奈川中央交通株式会社のバスを利用している。私達学生のなくてはならない唯一の交通手段である。今回のアンケート調査は、データ分析の趣旨を理解して頂き本社営業課において用紙配布が行われた。将来の情報化推進の一助になる事を願って分析を行い、報告をする予定である。
通信メディアが人々にもたらす利便性、影響などの意識調査を考察する。
2. 目的
「シニアと通信メディアの関り」の研究分野と「実務経験で感じた事象、NPOやボランティアに参加して行動し、得た結果」の実践領域を統合し、新しい知識体系の構築と望ましい人間環境を作り出す事を追求したいと考えている。さらに、環境と人間とのかかわり合いに関する情報と社会のシステムの関係等を実社会と連動しながらこの問題に取り組みたいと考えている。
本調査では、オンライン・クラブ「トラの穴」会員である男女163名を対象として意識調査を実施し、62名の回答を得た。また、神奈川中央交通株式会社においては本社38名、綾瀬営業所20名の回答を得た。通信メディアの発達が人間コミュニケーションへどのような影響を及ぼし、表れるのかなど、注目をしていきたいと考えている。その為には、シニアと通信メディアの関係をテーマとし、シニアが生活の中で情報をどのように捉えているか、具体的な統計に基づいて実情を明らかにする事を目的とする。
3. 仮説
近年、日本ではシニアの間で、通信メディアの利用が急速に増えている。彼らの行動、信条に関する特徴から通信メディアについて考察し、下記の仮説を検証する。
仮説1:シニアはコンピュータが苦手である
仮説2:PC教室の受講生は、友人への連絡に電子メールを利用していない
仮説3:会社員は仕事以外でもPCを良く活用している
4.研究手法
以下では具体的な研究手法と使用した用語を定義する。
4−1研究場所と研究対象
@の調査場所は私がかつて勤務していたシニア対象のコンピュータ教室に設定した。受講生は大半が50歳以上の男女である。
調査方法は、電子メールによるアンケート調査を行った。近年いくつかの対処視点の中には、情報技術も人間集団の限界を超えられる可能性を持っていると考えられる。しかし、現時点では、情報技術はアイデアの発散には向いているが、収束には向いていないのではないかという、未知数の部分も多いようである。尚、今回の電子メールで行ったアンケート調査に関して、担当教員と相談により、SFCのサーバーを利用せず、個別に行う事で許可を頂いた。
Aの調査場所は、神奈川中央交通株式会社に設定した。対象者は会社員が大半である。調査方法は、配布資料によるアンケート調査を行った。
4−2 各項目の定義
(1)あなたは現在、自分専用のパソコン(以下PC)を持っていますか。
回答の1=「はい」、2=「いいえ」とした。
(2)1日1回はPCに触れますか。
回答の1=「はい」、2=「いいえ」とした。
(3)あなたがPCを使いはじめたきっかけは何ですか。(以下=で示した)
1=友人・知人が利用しているから 2=家族に勧められたから
3=仕事で必要であるから 4=ボランティアやサークルで必要だから
5=非常時や緊急時に役立つと思ったから 6=その他
(4) 1週間にPCをどの程度使用しますか。
1=1時間以内 2=2―3時間 3=4−5時間 4=6−8時間 5=10時間以上
(5)あなたがPCの費用として月々に払っているのは合計すると平均いくらですか。
1=3000円以下 2=3000円〜 3=6000円〜 4=8000円〜 5=10000円以上
(6) 普段あなたがメールの交換している相手はどのような人が多いですか。
1=そう思う 2=まあそう思う 3=あまりそう思わない 4=そう思わない 5=その他
(7) PCを使用するようになって、次のことを感じる事がありますか。
常にチェックしないと不安になる
1=そう思う 2=まあそう思う 3=あまりそう思わない 4=そう思わない 5=その他
(8)束縛を感じるようになった
1=そう思う 2=まあそう思う 3=あまりそう思わない 4=そう思わない 5=その他
(9) 連絡を取り合うことがふえた。
1=そう思う 2=まあそう思う 3=あまりそう思わない 4=そう思わない 5=その他(10)友人との連絡がふえた。
1=そう思う 2=まあそう思う 3=あまりそう思わない 4=そう思わない 5=その他
(11)あなたの年齢を教えてください。
1=30代 2=40代 3=50代 4=60代 5=70以上
(12)あなたの性別は
1=男 2=女
(13)あなたの現在のご職業は何ですか。
1=自営業 2=会社員 3=専業主婦 4=その他(具体的に)5=無職
5.分析@ 【トラの穴友の会】
「トラの穴友の会」はExcelでデータ分析を行った経緯があるが、今回、JUMP INによる各項目における分布特性の把握を順次行う。
5−1 分布特性の把握
一変量の分布
1)あなたは現在、自分専用のパソコン(以下PC)を持っていますか
|
図1:質問項目(1)の分布
図1では、PC保有率の高さが明確に確認できる。
2)1日1回はPCに触れますか
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図2:質問項目(2)の分布
図2では、毎日何らかの形でPCに触れている事が保有率の高さと比例している。
3)あなたがPCを使いはじめたきっかけは何ですか
|
図3:質問項目(3)の分布
図3では、「6.その他」を選択した人のように、特別な目的をもたずにPCを使いはじめたシニアが多くいることが確認できる。
4)1週間にPCをどの程度使用しますか
図4では、9割近くの人が何らかの形でPCを使用している事が確認できる
5)あなたがPCの費用として月々払っているのは合計すると平均いくらですか
|
図5:質問項目(5)の分布
図5では、使用金額の高低にバラツキをみる事が確認できる。シニアのPC利用状況は若年 層と異なり、インターネットをはじめとして、電子メール、ワープロ、ゲーム、画像処理 など多岐にわたる為、個々人の差ができたのではないか予測できる。
6)メールを交換する相手はどのような人が多いですか
図6:質問項目(6)の分布
図6では、PCを活用している友人や知人が多い事が予測できる。
7)PCを使用するようになって、次のことを感じる事がありますか。
常にチェックしないと不安になる
図7:質問項目(7)の分布
図7では、半数近くの人にPC依存が強くなってきた事が予測できる。
8)束縛を感じるようになった
図8:質問項目(8)の分布
図8では、PC活用を好意的に感じている事が予測できる。
9)連絡を取り合うことがふえた
図9:質問項目(9)の分布
図9では、電子メールの利用の高さが予測できる。
10)友人との連絡がふえた
図10:質問項目(10)の分布
図10では、6割以上のシニアが電子メールを利用して連絡をしている事が確認できる。
11)あなたの年齢を教えてください
図11:質問項目(11)の分布
図11では、定年や子育てなどから開放され、自分自身の学習生活に余裕が出来た60才代 が5割を超えている事が確認できる。
12)性別を教えてください
5−2 仮説の検証
先に提示した仮設の検証に移りたい。
仮説1:シニアはコンピュータが苦手である
仮説2:PC教室の受講生は、友人への連絡に電子メールを利用していない
仮説3:会社員は仕事以外でもPCを良く活用している
仮説1「シニアはコンピュータが苦手である」から分析に入る。
(1)クロス集計表
@ 自分専用のPC保有率と年代の関係と分割表
●モザイク図とクロス集計表の結果
二変量の関係
年齢層別に見た専用PCの保有率
Count |
持っている |
持っていない |
|
1=30才代 |
3 |
0 |
3 |
2=40才代 |
5 |
0 |
5 8.06 |
3=50才代 |
14 |
3 |
17 |
4=60才代 |
26 |
6 |
32 |
5=70才代 |
5 |
0 |
5 |
53 |
9 |
62 |
年齢層別ではそれぞれの相関関係を認めることができなかった。その為、PC受講者は年齢に関係なく専用PCを保有することが明らかになった。
● カイ2乗検定
ここで年齢と保有率の相関関係についてカイ2乗検定を行ってみる。
「年齢層」と「専用PC保有」の質的データから、年齢と専用PC保有の二変量間の相関関係を調査してみる。
@ 帰無仮説と対立仮説
帰無仮説:PC教室では、年齢層と専用PC保有に相関関係はない
対立仮説:PC教室では、年齢層と専用PC保有に相関関係はある
有意水準は5%と設定する。
P値である“Pearson”の行の“Prob>ChiSq”の値は0.5911である。有意水準は5%であり、これを上回ることから帰無仮説は採択され、対立仮説は支持されなかった。その結果、年齢層と専用PC保有率の間には、相関関係が認められないことが統計的に支持された。
●モザイク図とクロス集計表の結果
二変量の関係
性別に見る電子メールの活用率
Count |
1=家族 |
2=親戚 |
3=友人、知人 |
4=ボランティアを含む |
5=その他 |
合計 |
1=男性 |
7 |
6 |
11 |
3 |
0 |
27 43.55 |
2=女性 |
10 |
5 |
15 |
46 |
1 |
35 |
|
17 |
11 |
26 |
7 |
1 |
62 |
仮説2「PC教室の受講生は、友人への連絡に電子メールを利用していない」を検証する。
PC教室を受講後、コンピュータの活用状況を確認する為、電子メールを積極的に利用しているのか仮説を設定した。性別により相関関係を見ると、図15のようになった。
性別ではそれぞれの相関関係を認めることができなかった。その為、シニアのPC受講者は性別に関係なく友人や知人との連絡に積極的に電子メールを利用することが明らかになった。
○ カイ2乗検定
ここで性別と電子メール活用の相関関係についてカイ2乗検定を行ってみる。
「性別」と「電子メール活用」の質的データから、性別と電子メール活用の2変量間の相関関係を調査してみる。
A 帰無仮説と対立仮説
帰無仮説:PC教室を受講後、性別と電子メール活用に相関関係はない
対立仮説:PC教室を受講後、性別と電子メール活用に相関関係はある
有意水準は5%と設定する。
P値である“Pearson”の行の“Prob>ChiSq”の値は0.8495である。有意水準は5%であり、これを上回ることから帰無仮説は採択され、対立仮説は支持されなかった。その結果、性別と電子メール活用の間には、相関関係が認められないことが統計的に支持された。
多くのシニアがPC受講後、積極的に電子メールを利用しネットワークを広げていた。特に女性が多く、男性は余り友人や知人と連絡をとらないのではないかと予測していたが、アンケートによる相関関係をみると性別に関係なく利用している事が確認できた。加齢に伴い様々なコミュニケーション行動を、通信メディアによって、以前には考えられない新しいコミュニケーションの形態を作り、補っていく様態が予測できる。