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自家醸造解禁運動

自家醸造解禁運動。そこで中心的な役割を果たしているのが自家醸造推進連盟(自醸 連)であった。ここでは会長の山中 貞博氏(エヌビージャパン株式会社社長)を中 心に自家醸造解禁を求め、様々な角度から運動を進めてきた。その中で推進策の一つ として、彼の会社でイギリスから輸入している”エクストラクト”の販売が挙げられ る。エクストラクトとはビールの製造工程の途中でできるいわばビールの原料となる 液体で、これに砂糖などを加え、発行・熟成させたものがビールとなるのである。( 図3参照)これは諸外国で趣味として自家醸造を楽しむために売り出されているもの である。そこで、この原料の販売によって日本でもモルトエクストラクトを使っての 自家醸造の推進を図ろうとしたのである。しかし、ここで問題になってくるのはもち ろん日本では自家醸造が法律で禁じられているという点である。そこで、彼らが試行 錯誤の上に考え出したのは次のような方法である。(図4参照)日本で禁止されてい るのは酒の自家醸造であり、その酒と定義されるものはアルコール度が1% 以上の飲 料であるので、日本で売り出すときには、資料のように日本での作り方とイギリスで の作り方を分けて表記することによって、日本での販売目的はあくまでもアルコール 度1% 未満の飲料を作るための原料として売り出したのである。もちろん、消費者が 勝手に違法行為をすることはこの会社の責任ではないし、その違法行為も家で密かに 作るわけであるから見つかることがないことは明確であろう。このようにして小さな 所から自家醸造を推進していこうとしていたのである。ただし、この時点ではこの資 料の広告の内容は今のここにでているものとは少し違ったようだ。というのも、食品 の販売許可を得る時点でこの広告はいかにもアルコール度もふつうのビールを造らせ るものだということになり、イギリスと日本の製法の表記の割合が今とは逆に日本で の製造方法、すなわちアルコール度1%未満のものを造る表記を大きくしていたらし い。

それを逆転させ、また、今まで小さな活動であった自家醸造推進運動を活気づけたの は細川内閣の成立であった。一連の政界再編の中ででてきた日本新党の細川代表を率 いる内閣の成立によって、様々な変革が起こるであろうという国民の期待はこのよう なところにも表れていた。今までも幾度となく自醸連は政府に自家醸造推進の働きか けをしてきていたが、その国民の期待に答えるかのごとく、与党である日本新党がそ の働きかけに応じ、党としては今後その活動を推進する方向で考えているという回答 を自家醸造連盟に伝えたのであった。そして、規制緩和策の第一として小規模ビール 事業の許可を挙げたのである。そのことによって、広告の表記も現在のような形にな り、活動もさらに活発になり、自家醸造を推進する上で中小企業のビール産業への新 規参入により自家醸造のような製法でしか作り出せないビールの味を広く知ってもら い、日本のビールの多様化に向けてより積極的に動き出すこととなったのである。こ の時期は「地ビール」という言葉が世間に広まり始めたころで、これを村おこし・町 おこしの手段としてこれを使おうというところがでてきたことも、この活動を振るわ せた要因となったであろう。

ここで、問題になってきたのが新規参入を阻む規制であった。その中でももっとも中 小企業の参入を難しくしていたのがビールの製造免許の条件である年間最低醸造量で ある。緩和以前は2000klと新規参入はまず無理であろうという量であった。 それが平成4年4月の規制緩和で60klまで下げられたのだが、実際にはそれでも 年間にビール瓶にして95000本の量であり、中小企業には参入の難しい市場に変 わりはなかった。そこで自家醸造連盟を発展させた形で、会長であった山中氏を中心 に、日本マイクロブルーワーズ協会(JMA)を発足し、中小企業のビール産業への 新規参入の促進活動も兼ねた形での動きが始まったのである。

ここで、JMAが目を付けたのが発泡酒であった。前に述べたように発泡酒は日本で の基準であり、その酒税における税率もビールのそれよりも少なくて済む。更に都合 の良いことに発泡酒の製造免許取得条件の年間最低醸造量はビールのなんと10分の 1の6klでいいのである。

ところで、ここでもう一度確認しておきたいのはビールというものの日本の酒税法に おける定義である。(図2参照)資料からわかるように日本の酒税法上でビールと 呼べるのは麦芽を発酵させたものである。ここでまた試行錯誤の上に考え出された案 がある。それはエクストラクトを輸入して、エクストラクトから醸造を始めることで 製造工程から麦芽という言葉を消すことができるという点を利用したものであった。 それによってエクストラクトから発泡酒を造るという形で申請すれば麦芽量ゼロとな り、発泡酒の免許でビールを造ることができるというわけである。これによって中小 企業による新規参入は大幅に増える可能性ができた。そして、更に現在考えらえれて いることは輸入に頼っているエクストラクトを国内で生産し更にそこで問題になって くる麦芽という言葉も、バイオの力で大麦から麦芽という物質を作り出すことなく糖 化させてモルトエクストラクトのような物質、バーレイシロップを作ることで更に参 入がしやすくするという計画である。(図3参照)しかし現在その一歩手前のところ で問題が起こっている。まず、免許取得のためのその他の条件である。その中でも新 規の場合に問題になってくるのは以下の条件である。1つめに信用問題として酒税を 払うだけの金があるかどうかを証明するもの。次に醸造能力があるかどうかを示すも の。そしてもっとも難しいのが製造した後小売業者に買ってもらえるかどうかを証明 するもの。これは作っていないのにわかるはずがないのだが、その証明をするために 小売業者に事前に契約書を書いてもらい提出しなければならない。このようにして様 々な書類を提出しなければならないのだが、提出できても、この書類が足りないであ るとかなんとかけちを付けられ、規制緩和によって設けられた期限である4ヶ月も結 局その4ヶ月の始まりの日を曖昧にすることによって、無期限と同じような状態にな っている。現在そんな中でモルトエクストラクトを使った醸造の申請が協同商事など 2社で行われている。

更に追い打ちをかけるように最近大蔵省の中ではこのような事態を知り、「同じもの として受け入れられている以上、同じ税額を課すのは当然」と、発泡酒の税率を上げ ようという話がでているようである。(図5参照)確かにこのような申請の仕方につ いては全く問題がないといえば嘘になるが、その様なことをしなければ新規参入がで きないという市場を作ったことこそ問題なのではなかろうか。


Atsushi Kusano
Thu May 8 15:35:48 JST 1997