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セキュリティ

プライバシー保護法を制定する効能として、行政府が情報の当事者とその利用者の間でプライバシーを守る「ついたて」としての役割を果たすということをあげることができる。しかしこの効能は、一つの条件をクリアした上でなければ、全くの絵に書いた餅に終わってしまう。その条件とは、行政府における情報セキュリティーの確立である。現在の行政府において、情報セキュリティーが確立されているのかというと、確実な証拠があるわけではないのが残念だが、その答は否となるようだ。

班員の話によれば、いわゆる「名簿屋」では、見る人がみれば一目で行政府の内部文書であると分かるものが、利用されているという話だgif

我々はさらに、他人の住民票を、他人になり済まして取得するという計画を実行に移した。その「他人」には、班員の一人に頼んでなってもらった。結果から言えば、「なりすます」人と「なりすまされる」人の性別と年齢層さえ同じであれば、電話帳と印鑑を用意するだけで容易に他人の住民票を入手できることがわかった。また、戸籍抄本についても、手続きが同様である以上、入手が可能であると考えてよいだろう。それにしても、記録のためにビデオまで回していて他人の住民票をとれるのだから、これは全く容易であるとしか言いようがない。

ここで、住民票程度の文書が、行政の情報セキュリティー云々を問題にする際に、例として適当なほど重要性がある文書なのかという疑問が生じるかも知れない。確かに、住民票は「合法的に」他人によって取得することも出来るほどの、機密性の薄い文書ではある。しかし、住民票によって得られる「本籍地」という情報は、同和問題という特殊な問題を抱えた人にとってはそれほど「軽い」情報ではないgif。また、この住民票の取得は、パスポート取得の第一歩となるのである。

「完全失踪マニュアル」という書籍によればgif、他人のパスポートを取得することも不可能ではないらしい。パスポートは、立派にアイデンティティーを証明できる書類である。但し、その手法についてははばかりがあるので割愛する。またそれを実行してみることも問題があると判断したので行わなかったが、不可能と思われるものではなかったgif

行政府の情報セキュリティーはまだまだ甘いのではないかと言わざるを得ない。出雲市では個人の健康情報や行政情報を一枚の磁気カードに記憶させ、お年寄りにもたせるというサービスがすでに行われている。病院や役所でこれを用いて業務を迅速化するというものである。これを、厚生省を始め、自治省、農水省、郵政省が支援していることを考えても、これからの行政における情報の総合化は、避けられない道であろう。その時、確固とした情報セキュリティーシステムの構築がなされていなければ、個人のプライバシーなど、どうなるか分かったものではない。

情報セキュリティーの確立は、何もプライバシー保護の観点からのみ、必要とされるものではない。これについては後述するが、公開が不可能な情報が存在するということは、すなわち情報セキュリティーの確立が必要であるということである。そしてまた、情報化もプライバシーと関係するところでのみ進行しているわけではない。実際、行政の情報化は進む方向にあるようだ。北欧諸国の誇る行政の効率のよさは、かなりの程度、その進んだ情報化に起因していると言われる。日本の行政がより効率のよいものを求めるなら---そしてそれは「行政改革」の名の下に求められているのだが---情報化を避けることは出来ないだろう。また、大量の情報を扱わざるを得なくなる情報公開制度も、それを促進する一因となるだろう。そして何より、「情報立国」以外に生き延びる道はなくなったと言われるこの国の、行政を司る府が、その情報社会に対応できなくてどうしようか。それを意識してか、通産省など、省内コンピューターネットワークを整備する省庁も現れた。

しかしその情報化、それにともなうオンライン化は、情報セキュリティーという面からすれば、後退を意味する可能性すらある。そして、情報流出の規模の拡大をもたらすかも知れないのだ。その情報流出は、公開の是非を定めてある情報公開制度の、意義を失わせる。そのように、情報公開制度のためという側面もある情報化が、情報公開制度の根底を揺るがすことがあっては元も子もない。 情報公開制度を論じる前に、一見その対極にあるように見える情報保護を考えるべきではないだろうか。情報公開制度施行の前に、情報セキュリティー構築が必要なのではないだろうか。



Atsushi Kusano
Thu May 8 15:35:48 JST 1997