わが国の情報公開の状況を見てみると、まず日本には行政情報の公開を制度化 した法律がなく、文書の開示/非開示は事実上公務員の恣意的な判断に委ねら れている。裁判による解決をはかっても、確固とした基準がないために、裁判 所の判断も揺れ動いているというのが現状のようだ。しかし、情報化社会の進 展、行政が保持する情報の増化、諸外国における情報公開制度の充実、などの 社会状況の変化に伴い、わが国でも情報公開を求める声が高まっている。ここ では、まず情報公開によるメリットおよび情報公開の必要性について概説し、 つぎに情報公開が国民のどのような権利によって根拠づけられるかについて、 主に憲法の規定をもとに述べる。なお、以後「情報公開」という言葉は、 「(原則として)全ての公文書の開示を行政に義務づけること」の意味に用い る。
情報公開は、まず国民の政治参加のための前提だということができるだろう。民 主主義の制度の下、我々国民は選挙を通じて代表を国会に送ることが出来る。し かし国民が国政に関する情報を知ることができなければ、選挙において適切な選 択を行うことは望めない。さらには国民が政府の提供する情報の妥当性、正当性 を客観的にチェックすることも不可能になるだろう。以上のことから、情報公開 は民主主義の発展のために必要不可欠なものだということができる。また情報公 開によるメリットとしては、一般に、政治に無関心な層も触発されて国民の政治 意識の改善が図れるということ、行政事務が透明化されることによって役人に緊 張感を持たせられるということや汚職の防止に役立つということなどが考えられ ている。
国民が政府の持つ情報を利用する権利(「知る権利」という言葉は広い意味をも っているのでここでは用いない)の根拠は、まず「国民主権」(前文)の規定に 見い出すことが出来る。ただし、このことは情報公開の必要性のところで述べて いるので、あらためて詳述はしない。また食品衛生などの情報については「生存 権」(25条)、内申書等については「教育を受ける権利」(26条)を根拠と 考えることが出来る。そのほか「表現の自由」(21条)、「幸福追求権」(1 3条)、「学問の自由」(23条)なども請求する情報によっては請求権の根拠と もなりうるだろう。そのほか、行政は国民の税金で運営されているのだから、政 府の所有するものは国民のもので、従って国民には行政情報にアクセスする当然 の権利がある、という主張もある。
現在、国において情報公開法はまだ行政改革委員会で検討中の段階だ。 先進国の間では情報公開法は常識となっている中で、日本では、地方自治体か ら、いわば下から上へ情報公開制度が動きはじめている。